怪物
好きな子に彼氏ができた。好きなあの子が、僕の知っているあの子じゃなくなっていくような気がして、怖くてたまらない。
僕の事を大切に思ってくれてたんじゃないのかい?毎朝僕におはようと言ってくれたあの笑顔は嘘だったの?
君はひどいやつだ。ひどいやつでも好きなんだ。あんな男のどこが良いって言うの?あいつ君の胸しか見てないじゃない。
純白の君が、だんだん汚れていく。あいつ色に染まってく。二人で買ったおそろいのストラップ。あいつと買ったストラップ。僕の気も知らないで、君らは得意気に見せてくれたね。
タイムラインを開くたびに、君たちのやりとりが目に付くんだ。好きだ好きだ。愛してる。そんな言葉が並んでる。そんなまやかし消えてしまえば良いのに。でも僕にはそっと閉じることしかできないんだ。
いっそ壊してしまえたら、そう思う夜が何度もあった。そのたびに僕は右手を汚してきたんだ。何であいつなんだろう?僕と何が違うのかな。そんな疑問を打ち消したくて、頭の中で君の事を汚してしまう。君はそのたびに軽蔑の目を向けるんだ。
放課後君が一人教室に残っていたのを見たとき、どうしようもなく自分を抑えられなくなった。そのとき僕は、自分の身体が醜悪な怪物に変わっているのを発見したんだ。
僕は怪物だ。君は真っ白なキャンパスだった。いつか僕がそこに絵を描きたかったんだ。二人で描いて生きたかったんだ。
でも叶わない。君は汚れてしまった。君が一人でいるとき、僕は無理やり襲ってしまおうかと考えたんだ。そして一緒に死んでやろうと思ったんだ。そうだよそうさ、僕は怪物なんだ。怪物に変えたのは君なんだ。返してくれよ、人間の僕を。
でもさ、でも、僕にはそんな勇気無かったんだ。僕にはそんなことできなかった。だからこうして、独り屋上に立っているんだ。この金網を越えれば、僕はこの世界からおさらばだ。
金網を乗り越えようとしたとき、あいつが目に入った。二人でイチャイチャしながら歩いていたんだ。そのときばかりは自分の視力を呪ったよ。やめだやめだ。もうやめだ。なんだかそんな気分じゃなくなった。
お幸せにと呟いて、少しカッコつけて呟いて、僕は金網を降りた。
もういいや、もう。どうか幸せになってくれ。どうか僕より。いつかきっと、君より幸せになってみせるから。
読み返して恥ずかしくなってきた