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別れ

  翌日。アーサーの亡骸が荼毘に付された。スージーはあの後、事情を聞いたジャックに諭され漸く彼の死を静かに受け止める事が出来た。

葬儀はヒンズー教の儀式に則って行なわれたが、谷全体が1外国人の死を悲しんでいるように思えた。アーサーは敬虔なカトリック教徒であったが、それは本国に帰ってから、ということで宗教の壁を超えた厳かな式になった。それは一昼夜続いた。


  滞りなく葬儀が終わると、ジャックはケインと王に谷を去る旨を告げた。勿論スージーも一緒だ。ケインがその理由を尋ねると、アーサーの死をイギリスで帰りを待っている家族に伝える義務と、発見したばかりの石窟寺院群(ジャックは独自に発掘作業をし、あの洞穴の奥にはまだ数個の建造物があることを突き止めていた。)の調査をするために新たな調査団を結成して舞い戻ってくるためだ、と答えた。

出発の日について尋ねると、すぐにでも。と彼の決意は固い。

「ケイン。君はどうする?俺達と帰るのか?」

「僕も一緒に。と言いたいところだけれど準備が追いつかないんだ。君達より少し遅れるけれど帰るよ。将来どうするにしても一旦帰って学校を卒業しなくてはね。 でも急に帰るなんてどうして?」

「これは単なる思いつきじゃないんだ。ここに着いて調査を始めた頃から教授と話していたことなんだ。人数が不足しているから折をみて大学にその旨を報告し、人数の増加を頼もうってね。教授の死と新たな発見がそのきっかけを作ってくれた。だから俺はなるべく早く帰る。」

「・・・そうか。・・・わかった。・・じゃぁ一旦お別れだな。」

ケインは名残惜しそうに手を出した。

「何だよ。今生の別れみたいに。」

確かに当時の別れは二度と会えないことも意味していた。それほどイギリスとインドは離れていたのだ。

「そうだな。すぐ会えるさ。」

「そうだよ。でもこの次会うときはこんな風に君と話せないかもしれないな。」

ジャックもケインの出した手をがっちり掴んだ。双方の目に涙が滲んでいる。

  「そなた達を見ているとジェイムズとの別れが昨日の事のように思える。私達がそうであるようにそなた達の友情も変わる事はないであろう。」

「・・・陛下。いろいろお世話になりました。いつになるかわかりませんが、必ずまた戻ってきます。」

「無事に航海を終える事を祈っている。」

スッと立ち上がるとジャックは身を翻して部屋を去った。一度も振り返ることなく。そしてスージーと共に荷物を整え、兵士達数名に伴われながら谷を去って行った。

その姿を自室の窓から見送ったケインは、(僕もすぐ帰るよ。)と決意を新たにした。だが、その決意もあることをきっかけに不可能になってしまった。

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