表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/56

飛んで火にいる夏の虫

  ホクホク顔のヤコブはデボンの案内のもと、ケイン達が待つ洞穴に向かった。こんな暗闇の中でさえも全く気にならない様子で足取りも軽く歩いていく。ワナが仕掛けられているなどとは考えてもいないようだ。普段のヤコブなら一応石橋を叩いて渡るのに、今回に限っては注意さえ払っていない。


  ようやくたどり着いて扉の前に立つと、ヤコブは一つ大きな深呼吸をした。(落ち着くのだ。)と小さく呟き、ゆっくり扉を押し小声で、

「テリー。私だ。ヤコブだ。例のものはできておるか?」

と言いながら入って行った。

  松明の灯りの端の方にジャスミンとプレーナムと思われる2人が縛られたままぐったりしとしていた。すぐ駆け寄ったものの状態を想像するだけで恐ろしく、触れることが出来ない。一定の距離を保ち、2人の周りを窺いながら回ってみる。ふと、テリーがいないことに気付いた。

「テリー、どこだ。勿体をつけずとも良い。」


  すると突然吹くはずのない風が吹き、松明が一瞬にして消えた。ギョッとなるヤコブの頭上から低い声が響いてきた。

「ヤコブ・・・我は破壊の神、シヴァなるぞ。神聖なる場所で何をするつもりだ。」

シヴァ神になりすましたケインである。

「だ・誰だ!」

暗闇の中でもキョロキョロしているヤコブが手に取るように見える。

「お前は神である我が土地を汚して良いと思っておるのか。」

「な・何を言う!お・お前はだ・だ・誰だ!」

ケインはヤコブの声を完全に無視した。

「お前とそこの物陰に潜んでいるリュー・テリーは、谷の花を使って一体何を企んでおるのだ。」

テリーがいる!そのひと言はヤコブに百万の力を与えた。

「フン!誰かは知らぬが神の名をかたやからに何も言う事はない!」

「神をも恐れぬ不届き者め!    良かろう。お前が真実を言わぬというのならこの私が全てを明らかにしてやろう。だがその時は覚悟を決める時だぞ!」

テリーがいれば何も恐れる事はない。その絶対的な自信から相手がたとえ神であっても全く動じない。むしろやれるものならやってみろ!と言わんばかりにヤコブは仁王立ちになった。しかしケインにはヤコブ以上の自信があった。

「お前は以前から次期王を狙っていた。初めはジャスミンを我が物にして帝位を。しかしそれが叶わぬと知るや、次の手段を探した。その時幸運にもテリーが現れた。テリーはお前がそういう気持ちでいることをすかさず見抜き、それとなく話を持ちかけた。お前には帝位を、テリーは財力を。そして誰の目にも分るほど大量の花を根こそぎ掘り起こし、全てイギリスへ持っていってしまった。   そうだろう?テリー。」

ケインはいない筈のテリーがあたかもすぐそこに隠れているかのように話しかけた。

しかし当然のことながら返事はない。だが今はそれで充分だった。更に続ける。

「そしてある程度目的に近付いたお前達は、次の標的をジャスミンに変更した。彼女を亡きものにして次期帝位を狙ったのだ。使うものはテリーの調合した協力なアヘン。勿論この谷から採った花の茎と根を使って作ったものだ。ジャスミンとプレーナムがそこに死んでおるわ。今から3日前のお前達の仕業しわざでな。」

(ジャスミンが死んだ?やったぞ!これで私が王だ!)暗闇の中でヤコブは小躍りして喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ