閉じられた空間で。
「ウソ、でしょ……」
何度ドアノブをひねっても、扉はビクともしない。
「だから、22時以降はロックかかって開かないんだよ。朝まで」
外野の声なんざどうでもいい……って外野?
恐る恐る振り返る。
「やっと気づいた? さっきから声かけてたんだけど」
「……というか、色々ツッコミ所満載なのですが」
この部屋は倉庫、とまではいかないが、
使われてない空き部屋に数えられる。
気兼ねなく一人になれる部屋として、使っているのは私ぐらいのものだ。
ましてや、社交的で女性にモテる佐竹部長が、
こんな錆びれた部屋にいる理由が見つからない。
「部下の行動ぐらいは把握しようかと。
佐倉くんがたまに姿を消すのはどうしてか、とかね」
「少なくとも、仕事中には消してませんけど」
あ、なんか上司に対して強気だ、私。
まあ仕事じゃないからかな。
「……まあ、とりあえず朝までドアは開かないんだ。
それまでどうするかを考えよう」
佐竹部長は部屋の奥の壁にもたれて座る。
「そこで立ってるのも何だから、となり座ったら?」
「謹んでご辞退申し上げます」
私はドアを背に座る。
部屋の広さ的に向かい合う形だが、隣に座るよりは安全だ。
「そんなに信用ないかね、僕は」
「普段の部長の態度を考えると当然かと」
セクハラすれすれの言動を彼は得意としている。
それに泣かされた同僚は数知れず。
「あれは経験ないのを強がっ……いや、なんでもない」
「今何気に爆弾発言しませんでした?」
あれだけモテるのに経験なし?
ツッコんでおいて、ちょっと疑問が。
バツが悪そうな顔で、佐竹部長はため息をつく。
「笑いたきゃ笑え。いい年してまともな女性経験というものをしたことがないのだから」
「……あれだけモテるのに?」
「イヤミか? みんな俺の『収入』が好きなだけだろ」
「そういうもんですかね……」
私は相手の経済力より、愛があるかないかじゃないかと思うが。
「佐倉くんもそういうタイプ? 」
上目づかいでそんなこと聞かれても。
正直に答えて、勢いでコトにおよばれるのも困るし。
「佐倉くん、ちなみにこちらに下着見えているのに気付いてるかな」
その言葉にハッとなり、慌てて座りなおした。
スカートは会社でしか着ないのとこの部屋に油断してた。
「実は結構欲情してるんだよね」
そんなことカミングアウトされても。
「欲情されるのは勝手ですが、私に迷惑はかけないでください」
「却下」
「即答ですか」
このまま狼の餌食になってたまるか、と考えを巡らせる。
「あ、ほら、こういう建物って監視カメラあったりするし……」
「見せつけてやればいい」
「そういう問題? えっと……」
だめだ、他に断る理由が浮かばない。
というか、 部長ってなんでこんな積極的なのか?
「佐倉なつめ、27歳独身。かわいいものが好きで嫌いなものは……俺とか」
「はい?」
思わず声が上ずる。
いきなり一人称が僕がら俺に変わるって。
少なからず当たってはいるけど。
「どうせ嫌われてるんなら、これ以上キライにはならんだろう」
部長は立ち上がりじりじりと間合いを詰める。
「ちょっと待った、ストップ。私じゃなくて部長はどうなんです?」
男の本能だけでどうこうされるのはさすがに遠慮したい。
「答えてほしけりゃ、ブラウスのボタン外して。引きちぎられたくないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
このまま、なす術もなく部長に犯されてしまうのだろうか。
覚悟を決めそうになったその時、
カチャリ、とドアのロック解除音が響く。
「君の言うとおり、監視カメラはあったみたいだね」
部長は私を支えて立ち上がらせ、二人で部屋を出た。
「あと少し、だったんだかな」
「悪い冗談はやめてください」
「もう少しで堕ちそうだったのに?」
「……もういいです」
怒りなんだかよくわからない感情になりながら、立ち去ろうと歩き出す。
が、左手を引っ張られ、そのまま唇が重なる。
「なっ……」
抵抗するも、部長は調子づいて舌を絡ませる。
解放された時には腰が抜けて、体を支えられた。
「佐倉くん、お疲れ様」
「……なぜそこで上司風?」
「一応、宣戦布告の意味で。嫌いなものは克服してくれないと困るし」
「……誰が?」
「俺が」
そういうことはしれっと言うな。
「ちなみに、俺の本命は佐倉くんだから。それだけは覚えておくように」
「……頭の片隅に入れておきます」
堕ちそうで堕ちない。
そんな自分にもどかしさを感じているのはなぜだろう。
閲覧ありがとうございます。
ちなみに
この二人の続きは多分書かないと思います。
この先の展開はご想像にお任せします。