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キリシア大陸物語 ~ルブレシア戦記~  作者: ホーネット
ルブレシア戦記Ⅰ伝説の始まり
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第四章 玉座の選定 Ⅳ

 ユルギスが早起きして朝食を取っていると、レオが表れた。侍女によって隅々まで身だしなみを整えられた貴公子には、朝早くだというのに眠たそうな表情ながらも、寝癖などの痕跡の欠片もなかった。


 レオは、ユルギスの姿を認めると、眠たそうな顔を改め、にやり、と笑みを浮かべた。


「? どうなさいましたか、殿下」


 ユルギスが怪訝そうな顔をすると、レオはユルギスの疑問に答えず、ますます妙な笑みを強くしながら席に着き、侍女に食事を持ってくるように頼んだ。


「夕べはお楽しみだったそうじゃないか」


 着席して朝食を持って来て貰いながら、開口一番にレオが口にしたのはそんな言葉だった。


「ごほっ」


 思わず咳き込んだユルギスを、レオは次に声を出して笑いながら、畳み掛けるように言った。


「イレナから聞いたぞ? 昨晩はエルネア嬢と一緒だったそうではないか」


 昨日、自分とエルネアの給仕をした侍女の名前を聞き、ユルギスは頭を抱えた。


「彼女はおしゃべりすぎます」


「だが、よく気のつく人だし、分別はある。本当に秘密にしなくてはならないことを彼女が喋ったことがあるか?」


「まぁ、そういわれればそうなのですが……」


「それでエルネア嬢とはどういうあれなのだ?」


 レオの問いに、ユルギスは顔の前で手をぶんぶん振り、否定の動作をしながら答えた。しかし、その顔はとても赤いものだった。


「殿下……別に私とエルネア殿はそういう関係では……」


「そう顔を赤らめて言うものではないぞ? それにな、俺は嬉しく思っているのだ」


「は?」


 レオの言葉に、ユルギスは表情と声に疑問符を浮かべた。レオは、視線をそこで食器に載ったパンに移した。そして、ワザとそっけない風を装いながら言った。



「お前にはいつも俺に付き合わせて勉学や狩りや軍の修練ばかりさせてしまっている。そのせいか、ルブレシアに来てからはもちろん、リヴォニアでも浮いた話の一つも無くてな。心配していたのだぞ」


「殿下……」


 予想外の言葉に、嬉しさがこみ上げてくるユルギスは、その言葉にどう返したらいいのか咄嗟に答えることができなかった。


「…………」


「…………」


 短い沈黙の後、一度咳払いしてからレオは言った。


「確かお前、今日は陣に戻るのだったな。俺も今からハルガリアからの使者と逢う為の準備をせねばならん。先に失礼するぞ」


 席を立ちながら背を向けようとするレオの顔は、照れで紅色をしていた。どちらがからかわれたのか、これではわからないな、とユルギスは思った。

 そして、ユルギスはより一層、


「レオ殿下、あなたが私の心配をするように私があなたの心配をしていることをどうして理解してくださらぬのか」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 レオが去ってからしばらくして、ユルギスはエルネアと共にルブリンの大聖堂を訪れた。この聖堂は、ルブレシアがキリシア教に改宗してまもなく、教皇領やその他多くの国々の寄付から建てられた豪華絢爛のもので、帝国などの発展した地域から訪れた人でも


「田舎にはもったいない風格を持っている」


 と賞賛するほどのものだった。


 ルブリン司教の職務を担うことになったブリュンヒルトは普段ここに居ることが多いのである。


 ユルギスが腰を低くしながら、大聖堂の聖職者に取り次ぎを頼むと、すぐさまブリュンヒルトが奥から現れて迎え入れてくれた。


「ごきげんよう、ユルギス殿、エルネアさん」


「今日は突然の訪問を受け入れて下さり、誠にありがとうございます」


「ありがとうございます」


 ユルギスが一礼すると、それに続いてエルネアもブリュンヒルトに頭を下げた。


「いえいえ。面倒なことはリィナや他のみなに任せているから私は暇なのよ」


「…………」


 どう答えるべきかわからない言葉をブリュンヒルトにかけられたユルギスらは困惑した。だが、それを察したブリュンヒルトが言葉をかけたのでその表情も長くは続かなかった。


「まぁ、そんなことよりもお二人が揃って私のところに来られたのはどうしてかしら? 意外な組み合わせだと思うのだけれど……」


「実はイーダ殿下とルブレシアの有力貴族との間に結婚の話が持ち上がっていることはご存知でしょうか?」


 ユルギスが本題を切り出すと、ブリュンヒルトは事も無げに答えた。

「ああ、そのことですか? 聞きましたよ、アンジェイ殿に」


「聖女様はアンジェイ様と面識があったのですか?」


 二つの意味で驚いたユルギスが尋ねるとブリュンヒルトは二人に次のように説明した。

「ええ。ルブレシアに来る前に帝国を通りましたから、その時に帝国遠征中のジグスムント王に謁見したのよ。その時にアンジェイ殿によくして頂いたわ」


「では、聖女ブリュンヒルト様に率直にお願いしたいことがあります」


「何かしら?」


 ユルギスとエルネアは一度顔を見合わせた。そして視線で、短い会話を行い、ユルギスが例の件を話すことに決まった。

「我が主レオ殿下とエルネアの主イーダ殿下は互いを想っていらっしゃいます。この二人は不器用故に一歩を踏み出せずにおります。どうか、二人のお力になってください」


 ユルギスのこの言葉には万感の想いが込められていた。親友として、腹心として、嘘偽りのない、重みのあるその言葉に対してブリュンヒルトは対照的に随分と気軽に答えた。


「いいわよ」


「「えっ?」」


 重なったのはユルギスとエルネアの半ば呆然とした声だった。

「というよりも、私はもう動いているわ。そして、私もそろそろ貴方達にそのことを知らせようとしていたのよ」


 そんな二人を見て、口元に手をやり、ブリュンヒルトはからからと上品に、しかし朗らかに笑いながらそういった。


「そうなのですか?」


「ええ。リィナがいないのはその為よ」


「そうだったのですか……」


 言われて見れば、いつもブリュンヒルトに付き従っているあの白い服の女性の姿はこの大聖堂になかった。ブリュンヒルトは彼女に何か命じていることをユルギスは察した。だが、ユルギスはエルネアがリィナの名前が出た時に、昨夜以上に何か影のある顔をしたことに気がつかなかった。


「それで、私、実はユルギス殿にお願いがあったのよ」


 一方のブリュンヒルトはそんなエルネアに気がついていたが、平然と何時もどおりの微笑みを浮かべていた。


「それはいったい?」


 ユルギスの問いに、ブリュンヒルトはいつも浮かべている穏やかな表情を改めて応じた。ユルギスもエルネアもその雰囲気に思わず背筋を伸ばした。


「リヴォニア王ゼリグと私との謁見の場を設けてくれないかしら?」


終わらせる気は全然あります。いや、本当申し訳ない。

6月はいろいろ忙しかったのですはい。

大学講義1つしか取ってないのに……


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