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蜻蛉の三題噺

それでも世界はまわるから

作者: 尻切レ蜻蛉
掲載日:2011/08/15



最初にそんなことを言い出したのは誰だったろう。

気づいたら、俺の頭は鮮やかなレモンイエローに染まっていた。


「てか、ありえねぇだろ!ふつー!!」


カラースプレーで髪染めるか!?―ぶつぶつ言いながら水道で髪を洗う俺もどうかと思うけれど。

水がレモンイエローに染まって、まるでグロテスクなレモンジュースだ。


「飲むなよ?」

「だー!アホか!?誰が飲むかよ!」

「モノ欲しそうに眺めてたくせに」

「お前いっぺん落としてやろうか!?」


おい!―怒鳴りつけてやったのに、あいつは答えた様子もなくけらりと笑う。


「お前にはできないね。ザンネンでした」




「遅れてごめん」


日の光を思わせるような声にはっと気づく。

目の前にはいつの間にか、お手拭と珈琲が置いてあった。


「私も同じものを」

「久しぶりだな」


ようやくそう紡ぐと、視線の合った彼女にあいつの顔が重なる。


「そうね。あいつがいなくなって、もう五年も経つのよ?」

「……」


俺が彼女に会わなかった月日は、否応なく、あいつと別れたあの日に繋がる。

黒服の群れ。

たなびく煙。

嘘のように笑うあいつの顔。

そして。

泣きはらした彼女こいつの顔。


「会ってくれないかと思ったわ」

「お前が来いって言ったんだろ」

「あいつが、兄さんが望んでるからよ」


差し出された小さな包み。

伸ばした手の先で、それは支えを失って二人の間に落ちる。

小さな音。

机の上に零れたのは、シルバーのブレスレット。

あいつとお揃いで買って交換したんだ。

最初で最後の旅行だった、修学旅行で。


『次は指輪な』

『ばっか!どんだけ先の話だよ!』


忘れものだ。

あの日に残してきた約束。

俺の瞳から、知らず零れた涙が机を叩く。


「いいのよ、もう。あいつがいなくたって、女の子に戻っていいの。兄さんもそう望んでるから」


ブレスレットを握りしめて、俺、いや私は泣いた。

彼が逝ってしまったことを、今、初めて理解したように。

【三題噺】カラースプレー、おてふき、忘れもの

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