【よん】そうだ、町へいこう!1/2
あ、こんにちは。
魔王様もといリュンヌ様の下僕やってます。今村瑠璃 15歳です。
そんなこんなで、アレから3日……。
言語問題がリュンヌ様のパナイ魔力とやらで一掃された後。
「ルリ、元気~」
王子様がウザくてたまらない。いやね、死ねとか思うほどではないんですよ?
ただ、私の視界に入らないでほしいな☆と思う程度なのですが……。
リュンヌ様、助けて……。そんな哀れ視線垂れ流しな私をよそにリュンヌ様は今日も御目麗しく、書物を読んでいらっしゃいます。私は一応リュンヌ様のお部屋の隅っこでの生活を許されています。
最初リヒト様が、“俺の部屋のほうがいくない?”と戯言を吐きやがったので全力で拒否という名の謙虚な態度で辞退をさせていただきました。
だって……あの人と一日中いると思うだけで虫唾が走る。
想像してみたら――仮死状態になった。嫌、マジで。
だから私はこの生活には十分満足しています。なのに……っ!なのに……。
「何か不満はない?大丈夫?ちゃんと食べてる?」
と毎日毎日毎日、あああああああ!うゼー、なんだ一種の嫌がらせか?
なぜ、君の部屋から1キロは離れているリュンヌ様の“黎明の部屋”まで足をせっせと毎日運ぶ。
仕事しろ、仕事ー。張っ倒して―。どうしてくれようか?独りもんもんと考えていると……、
「あ!イイこと思いついた」
なんだ、なにを思いついた。これ以上私の繊細な神経を擦り減らすような真似はするな。
死んでもするな、てか死【自主規制】。
「なんでしょう?リヒト様」
心の中の狼を隠して、私は聞く。
こいつの心を私でいっぱいにする為に私は努力を惜しまない。
たとえば、毎晩枕を涙で濡らしながらも次の日は笑う(勿論枕の件は侍女から王子へと報告される)。とか、時々寂しそうな微笑みを入れる、だとか、そのあと誤魔化すように笑いまくる、だとか。
私は、涙ぐましい努力をしているのである。
でも、そろそろ限界でーす。超絶美形に囲まれて日々自己嫌悪に陥り、そしてその超絶美形の相手をしなければならないなんて!まだバオバブ生い茂るジャングルにでも放り出された方がましだった。
「そうだ、町へいこう!」
嗚呼、誰か私に安息を……。
リュンヌ様も見てないで助けて――…。
† † †
こn。
今村瑠璃、王子様の遊び相手やってあげてます。
だいたい20にもなって、遊び相手必要ってどこのおちゃまですか?ぷぷー。
嗚呼、リュンヌ様の方が王になるべき御方のような気がするわ。
こんな事思ってるって知れたら侮辱罪で、王の右腕兼王子の御世話係の魔導師リュンヌ様に瞬殺で骨も残らないんだろーな。あ、でもいいかも知んない。
そんなこんなで、町です。
活気にあふれてます。私人ごみ嫌いです。この国の人たちみんな背ぇ高すぎです。
マジありえねーっす。
「ルリ、なにか欲しいものあるか?」
あーあぁ、これだから男は。
自己満足浸って楽しいですかね?
自分より弱いもん見て、施しして優越感満たされますかね?
と、そんな事はおくびにも出さずに無邪気に微笑んで、
「なーんにもないです!」
とただ外に出れれば幸せ♪みたいな雰囲気を醸し出す。
そうか、ルリは欲がないなぁ~、と呟く王子。
嫌、欲なら溢れかえって自分が溺死するくらい余ってますよ?
ただてめーの施しはもう受けたくねぇっつってんだよ、ボケかすがっ。
おおっと少し下品でした、自嘲します。え~、ということで――帰りたい。
右には超絶美形のリヒト様。左にははたまた美形のリュンヌ様。
人々の視線は貧相で平凡な娘へと突き刺さる。
“なんでお前みたいな餓鬼がお二人と肩を並べている”
“あんた、場違いだって分かんないの?”
おお、おお。
人のじぇらしーは恐ろしいのー。
しっかし、こいつら……変装くらいしろや。
確かに、後ろから護衛と言う名の不審者が7人ほどついてきておりますけれど!
ああ、嫌だ、嫌だ。しかし左側を見れば私のエンジェルが視界に入る。
「ご主人様は何かお勧めのお店、ないのでしょうか?」
控えめに言葉を紡ぐと、細められた深紅の瞳だけが私の方を向く。
…………。
「黙れ」
えー!待って一言!?それだけ!?ご主人様ぁ~。
「気味の悪い目で見てくれるな、気持ち悪いぞ、瑠璃」
あ、名前で呼んでくれた。
この国の人たちは私の名前を正確に呼んでくれない。
でも、ご主人様は正確にそりゃもう日本人顔負けの流暢な日本語で“瑠璃”と言ってくれる。
「ふふ」
「何が可笑しい……」
「いえ、申し訳ございません……」
私が安らぎのひと時を味わっていたら……、
「俺も混ぜて~」
と、にっこにっこしながら入ってきやがった超絶美形。
「あ、ごめんなさいっ」
今気づいたよ、いたんだね。
まだ死なずに頑張ってたんだね。王子。
「あっち行こー」
と、王子は私の腕を取って歩き出す。
人々の視線が痛いじゃないか。それに、ご主人様から掛けて頂いた言語魔法はご主人様から10m離れると消えるんだぞ。なんでも、頑張ればもっとテリトリー伸ばせるけど疲れるからNo。との事です。かっこうぃ~。
とか言っている間にも、王子リヒトが連れてきたくれた場所は、
“―――・―――”
よ、読めない。
「――?」
いつの間にか王子リヒト様の言っていることも分からなくなってしまった!
「……」
ちらりとリュンヌ様の方を見ると……、なんと!
リュンヌ様が知らない女と話していらっしゃる。
「―――、」
「――――――?」
あっ、胸がリュンヌ様の腕に当たって……!
誰、誰なのですか?
リュンヌ様。
醜い感情で胸がいっぱいになる。嫌になるわ~。このココロには。
気づけば、自分の爪で腕を引っ掻いていた。これは私が自分を抑えるためにやる行為。
最近つめ切ってなかったから結構痛いですね。
「っ……!」
うわ。やりすぎちゃいましたっ、てへ★みると、つうっと三本の紅い線が入っている。全治一ヶ月ってとこですか?と紅い線の入った腕を他人事のように眺めているとリュンヌ様がふ、とこちらを向いた。それから、目を見張って歩きだした。
――こちらに向かって。