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【さんじゅうなな】繋がり

ゼロがまた気まぐれに消えていた。

私が、溜息をついて一瞬目を閉じて開いた時にはもう居なかった。


それが少し寂しいとか思ってしまう自分が悔しかった。




 * * *





わらわらと集まる人、人、人。

ただでさえ色彩豊かな、この国の住人(というか王都周辺市民+αだが)が城を囲むようにして集まると、頭が痛くなって来る。

夜まで続くのかと思うと、溜息さえ出て来る。

でも、まぁリヒト様が拾った孤児のライラ様はとても可愛らしいし、まさか孤児から、とかいろいろなすったもんだは今日でさえ続いている。

もう、取り返しがつくはずがない。 リヒト様は全国民にもうライラ様とのことを言ってしまったというのに。

『これよりファンテゥーヌ第一王子、リヒト様の……』


淡々と、でも嬉しそうに読み上げる騎手。

それとは対称的に渋い顔をして、横を向いている古株たぬき親父達。


 (本当に年上か……?こいつら)


つい思ってしまうのはしょうがない事だと思うよ、うん。

そして一際高くなったバルコニーに幸せそうに立っている二人。

ずっと上を見上げているせいか首が動かすと嫌な音を立てた。


 (あ……攣った)


『今日は、楽しんでいってくれ』


リヒト様が極上の笑顔で言うと、拍手と喜びの声があがった。歓声のなかで、一人、


 (やばいいたいやばいいたい)


と、ぶつぶつ呟いていた黒髪の乙女がいたことは誰も知らない。



 * * *




人知れず、小さな背中を探す。

黒髪を、瑠璃色の宝石のような彼女を。

今、どこにいて何を思っているのだろうか……?

寒くはないだろうか?


いつもは見つかる背中が、見つからなくて苛々する。

つらつらと考えてからふ、と笑いが込み上げて来る。

いつから自分は、他人の心配などするようになったのだろうか、と。




最近の悩みは、というか瑠璃の事。

それだけだ。

瑠璃の存在が認識できないと気がついたのは、最近の事だ。

恐らく瑠璃の自我が覚醒したからだと思う。今までは、人格を偽って接していた。自我を取り戻した今は、出来るだけ偽らずに接してくれている。

嬉しいが、元々この世界の者ではない瑠璃。

消えて、薄れるのは当然の通りだ。

今までの道化という殻に護られてきた瑠璃はいまは、生まれて来たばかりの雛に等しい。


「アル様……アル様ってば!」


ぼぉ、としていたベリアル・リュンヌと袖を引いたのは、瑠璃だった。


「 何だ」


驚いて間が開いたのはきっとばれていないだろう。怪訝そうにしながらも、にっこり笑って、


「新婚幸せカップルに贈り物あげに行きましょ」



そう言うと、瑠璃が取り出したのは――。



* * *




「御結婚おめでとうございます」

「はい、これーリヒトさまにっ!」


勿論、前者がべリアル、後者が瑠璃である。

素、というのは恐ろしいが、リヒトは笑って容認。


しかしその笑顔は瑠璃が取り出した贈り物で凍り付くことになる。





* * *





手錠。

それは拘束用具。


手錠。

それは愛の証。


手錠。

それは安心を与える魔法のアイテム。




―――って違うわぁっ!


て、て、手錠、なんて、有り得ない。

有り得ないです!!非常識ですっ!


リヒト様もそんなガキの用意したものをにこやかに受け取らないでください!

あああああああ!!!


「ちょ、ちょっと……そこの貴方!」

「はいなんでしょうかライラ様? あ、申し遅れました私、瑠璃 今村です。アル様の恋人です」

矢継ぎ早にそんな……。




「二人は愛し合っているのですよね?」



むいっ、と顔を近付けられて、そんな事を聞かれても……恥ずかしい。


(あぁ、恥じらう美幼女、萌えっ★)


「瑠璃――」


小さくベリアルが諌める。

それは行動についてか、脳内の危うい発言についてかそれはベリアルのみが知る。


「ぁ、愛し合っているのですっ」


きゅ、と小動物のように威嚇されれば瑠璃の被虐心がむくむくと頭をもたげてくるのは当然の道理というやつで。


「へぇ。ならば――付けてくれますよね?」


これっ★と瑠璃は、満面の笑顔で、辛気臭く溜息をつく超絶美形と、猫に震える鼠のような可愛らしい姫君に差し出したのだった。


――手錠、を。



遅くなって申し訳ありませんっ。


見捨てないでくださると麦茶は泣いて、喜びます。




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