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【さんじゅうろく】お誕生日おめでとう



 こんにちは。


 リヒト様の婚約準備にアル様は滅多に帰らなくなって、今村瑠璃は――16歳になります。

 そして真っ昼間から部屋のなかにクラッカーを置きまくり、大量の砂糖菓子を散乱させて、何をしているんだと聞かれれば


 お祝いですよねぇ、うん。


「誕生日おめでとう、今村瑠璃よ」


 一人で祝う誕生日は何とも寂しいものだと気付くのが遅すぎましたな。

 この世界にケェキがないことから、冷やした砂糖菓子をチョイス!してみた。


「さて、頂きます」


 ボリュームがやや多いそれを、若干の無表情で飲み込む。美味しいのか、マズイのかすら分からない。

 歯や舌に、にちゃにちゃ絡み付く砂糖菓子は、ラズベリーとかそこらへんの味がしましたよ、と。



 ―――数十分経過―――



「うぇっぷ――吐く――吐きたい、解放したい」


 頭の中で警報が鳴り響いています。

 今村瑠璃、16歳(・・・)でござい。

 

 いや流石に自棄で街にダッシュで行ったは良いものの、これまた自棄で菓子屋のオッサンに、


「家族でパーチィするから取り敢えず沢山、それ下さい!!」


 なんて言っちゃったのが、運の尽き。

 オッサンは上機嫌な顔で自棄ってたこちらが驚く様な砂糖菓子詰め合わせを持ってきてくださりやがったのだ。後には引けない、引かない今村瑠璃さんがとった行動はただ一つ!

 2か月分のお小遣いを叩いて買った……買ってしまった。


 と言うわけで、警報が鳴り響く。

 よし、吐こう、吐いてしまおう。と思った瞬間にくすくすと笑い声がした。



   


「相変わらずだな。」


聞き覚えの()()ない声がしたので、常識とかアイデンティティとかを考えて無視。

「ねぇ、おーい瑠璃さん?」


 私は、吐き気を必死に抑えながらもトイレットに向かう。くそぅ!遠く霞むぜ、トイレ様よぅ。


「瑠璃さぁんーー」


 エコーを無駄にかけるなー真面目にウザいからぁ。

 しかもなんで跳んでるんですか?ねぇ。おい。やめろよ地味にストレスなんだよ上から目線んんんんっ!!!ストレスはなぁお腹に響くんだよ。バーかバーカ。



「只今応答出来ない状態か電波が届かない所に利用者がいますので、ピーという音なんてならねぇんだよ。テメーが私に取れる連絡手段なんてねぇんだよ、ばーろ」


 虚空を眺めながらも、ぺらぺらと口を動かす。ああ、もう少しだ。嘔吐感それまで待たれよ!!


「くくく、おもしれーなぁ。瑠璃瑠璃瑠璃ちゅうわぁん」


 そういいながらもふわふわと近付いて来る男。

 ヒィィィ!

 やめてよしてさわないで――。

「困った。俺は君をイジメたい」


 ―――。

 沈黙。


「やめて下さい、訴えますよ?」

「国籍が違うから無理でーす」

 本当かよ。

 でもその時、私は気付けば良かったのです。


 ――国籍ではなく世界が違う、と真っ赤な髪をした奴が暗に言ったという事に。







 一通り片付いた魔法陣。美しい等間隔の魔法陣は、セレモニーの最中に、儚く危うい光となって辺りを照らすだろう。


「ベリアル様、休息をお取り下さい」

「却下」

「では仮眠だけでも!」


 100を越える魔法陣の真ん中に立つ細身のシルエット。風に(なび)く、黒とも灰とも区別がつかぬ髪。

 ざっ、とにじり寄って来た家臣を冷たく一瞥する様は氷の様な凍てつく無表情。


「しつこい、失せろ」

 見慣れた家臣でさえも、たじろぐ程の威圧感。


「申し訳ありません、が……」


 そこで年配の家臣は、きりりと唇を引き結んだ。


「当日、全ての魔法陣を発動させられるほどの魔力を持っているのは、貴方しかおりません」


 つまり、倒れられでもしたら大変だと家臣は暗に告げた。ベリアルは、すぅと目を細めてから、頷いた。


「有り難うございます」


 一瞥すらせずに去るは最強の魔術師と謳われた男。







「瑠璃」


 仕事が終わっていない状態で帰途に着くのは初めてのことだった。

愛しい異界の少女が待っているであろう部屋を足速に目指す。

 薄紫の瞳で見詰められたい。早く、早くと自らの感情が抑えられない。


――カチャリ。


 ドアノブに手をかける……いや、正しくはかけようとして止まった。



「国籍が……か……で……」

「はぁぁぁっ……!」



 見知らぬ声と、心なしか弾んでいる瑠璃の口調がやけに胸がざわつく原因だろう。

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