【さんじゅうご】ライ
リヒト様の新しい結婚相手のお話。
短いです。
すみません。
「ライ、機嫌を直して?」
「や、です。へーかが嘘、ついたのがいけない」
ぷん、と顔を風船のように膨らませて、睨みつける女の子。
きらきらと輝く絹糸のような金髪美形は、それはそれは困り顔で、女の子の背丈に合わせしゃがみ込む。
「ごめん、て。タヌキ大臣達が五月蝿くてさ。解放してくれなかったんだ」
「リヒト、頑張れば……黙るよ。タヌキ共も」
さらり、と恐ろしいことを言う。
それに苦笑しながらも、
「すみません、お姫様。機嫌を直していただけますか?」
女ならだれでも恋に落ちてしまいそうな、顔でふわりと笑う。
それを見て、顔を熟れたリンゴのように真っ赤させた後、
「赦してあげましょう――今回だけ」
気取って、ふふんと鼻を鳴らす。
それに、くすりと見えないように笑うと、リヒトは、
「こちらへどーぞ?お姫様」
と手袋に覆われた手を差し出した。
* * *
「な、なにあれ!?めちゃくちゃラヴラヴじゃないですか!?」
つい双眼鏡から目を外し、大声で叫んでしまう。
いや……アル様が居なくて暇だったとか、リヒト様は実はロリでコンなのか……とか様々な思惑が駆け巡るけどさ、違うよね、うん。
「でも……可愛すぎね?」
一人瑠璃の呟きだけが広い部屋に響いたのであった。
* * *
大丈夫、まだ。
まだ、耐えていられる。
彼女がほかの男を愛しても、愛されても……まだ、まだなのだから。
まだ、巡ってはいけないのだから。
彼女が何度、忘れても、慟哭しても、絶望しても、生き続けてくれれば。
俺の自己満足、エゴ。
ああ、空回り。