【さんじゅうよん】泡沫の夢。
みじけーです。
ドームの中は朝日が惜しみなく入ってきていて暖かいはずなのに。
思わず、袖なしのワンピースから出ている二の腕を無意識に擦るほどに寒気がした。
「ねぇ、君はなんでそうなったか……賢い君なら……なんで認識されなくなったか分かるよね?」
にんまり、と嗤う。
嗚呼、嫌いな人種だ。
どことなく、私に似ている。
同族嫌悪。
「さよなら」
零の横を通り過ぎようとして、腕をつかまれて……、
「気をつけな。仮面……付けとけよ」
横暴な口調で命令すると、腕を放して私が瞬きをする間に消えていた。
「な、なんなのよぉ」
走る。走る。
部屋に入って、眠りたかった。
瑠璃でも対処しきれない。
キャパシティーオーバーってやつである。
「恐いよぉ……アル様」
どれだけ仮面をかぶって感情を装ったところで瑠璃はまだ15歳。
泣きながらベッドに顔をうずめた。
* * *
「リュンヌ様。こちらをどういたしましょう?」
「30度傾けて魔方陣を半径30mの等間隔で画け。仕上げは私が行う」
「っ!!100以上もありますよ!?」
「黙れ」
凍てつく様な声音に黙り込む魔術師たち。
「はっ……、承りました」
冷たい氷河のような瞳、眼差しが痛い。
周りを冷たく睥睨する。
全てを拒絶する。
―――そんな時。
べリアルがいきなり駆け出した。
周りは唖然として見ている。
「リュンヌさまっ!?」
驚く魔術師たちをちらり、とも見ずに、
「風の調べだ」
* * *
「アル様ぁ……っ、ア、ルュ様っ!」
えぐえぐと自分でもみっともないし、子供っぽい真似をしているなと思う。
だから……あなたが来てくれた時は本当にうれしかったんだ。
「瑠璃っ!」
愛している人の声ってなんでこういう時に聞くと、苦しいのか。
それでも、なんか助かった。
「ア、アル様……ああああっ!!!」
苦しげにもがく瑠璃。
「っ………っやぁっ……消えたくない!消えたくない消えたくない」
「ッ!!」
* * *
『刻は巡って、廻って』
『貴方は知るよしもない』
『まさか』
『貴方が――…』
目が覚めた、というより夢に突入したかと思って、目をぱちくり、としばたたく。
質素な筈の自分の部屋は、なぜだか金色に輝いていて、これまた黄金の蝶が、美しい鱗粉を優雅に舞い落とす。
「……………。」
突然の明るい光に目が慣れないので目を、細めながら辺りを伺う。
そして――、
「!!」
口から音が出そうになるのを根性で留めて、大きく息を吸った。
「零、何をしているのですか?」
動揺の淵に叩きこんだ、張本人が――いた。
「どの面下げてここに来やがったんですか?」
私が淡々と言うと、にゃぁりと気持ち悪く笑って、
「ぞくぞくする。ねぇ、その仮面イイネ」
と、よく分からない感想を述べやがった。
おほほ、言葉使いが荒いのは、そこにいるもう髪の色がそのまま炎になって、ハゲになってしまっても全く心が動かない程度の存在でしかない男のせいでございますよ、えぇ。
「仮面とは何の事ですか?私にはさっぱり分かりませんし理解もしたくありません。そして貴方と意思疎通をする気もありませんから、どうか消え去りやがってくださいな」
ふぅ、と一息つく。
久しぶりに被った仮面は、意外にも私の精神に負担をかけているらしいですね。
慣れって恐い。
「くくっ……ねぇ、僕の正体を知りたくない?」
「知りたくありません」
即答。
今はもう、この世界で生きていきたいですから。
だから地球を、日本を思い出したくないとさえ思ってます。
「―――そっ、かぁ……、結局、君はまた……まぁ、いいや」
――?
よく分からない。
そういう思わせぶりな発言は控えましょうか。
「よく分かりません」
何よりいつもにかにかチェシャ猫みたいにニカニカ気持ち悪く笑っている人間が、いきなり切なげに笑うところには、何か意図があるようで本当に、寒気がする。
「そーかい。では……さようなら、」
はい、さようなら。