【さんじゅう】真相と羞恥
ではでは。
謎解きをしましょうか?
とても陳腐な謎解きですよ、えぇ。
といっても、心の中にひっそり留めて置きましょう。
いずれ脅迫材料になりそう★なんて暗いことは考えていませんよ?
まずはですね。
彼女、つまりはシムリア様が駆け落ちをしたと考えて仮説を立てるとですね。
【結論】
演技。
【補足説明】
カスファイノは王女が居なくなって清々していたが一応、形だけでも探して置かないと、と考えてリクシャル様をファンテゥーヌに探しに行かせた。
うーん。プライドがあるからこんな面倒くさい事しなきゃならんのだよ。
馬ッ鹿みたい。
瑠璃がそう思い、というか小さく口を動かした時、ノックの音が響き躊躇いがちに、
「ルリ……俺だ」
と声が掛かった。
「こんにちは。リヒト様」
声だけでわかるほどのイケメンボイス。
そういえば最近会っていなかったことをふと思い出す。
「この前言って居たtop secretはもうsecretではないと思いますよ?」
「知っていたのか……?」
「ええ。というか接触されましたし」
知らなかったことに逆に驚くわ。
だって毎日来てたじゃない、あの王子様。
大体top secretってどっちだろう?
私の仮説の、駆け落ちスキャンダル?のことだよなぁ、普通。
それとも、第5王女と顔が似ているって事だけ?
「接触! カスファイノの醜聞などどうでも良い」
はぁっ、と溜息をつく王子。
なぜわざわざ私の部屋に来て溜息をつく。
「あっ、そうですよね~」
普通に受け答えすると、
「子供にも分かるか……カスファイノの思惑が」
子供……かちーん。
「スキャンダルなんて。ファンテゥーヌにもありますのにね。島流しとか」
暗に、リリスの件を仄めかすと、眉を寄せる王子。
ざまぁみろ。最近6歳児以下の嫌がらせをすることが増えたような……。
ま、外見、子供なんですから無神経な言葉で相手の心をズタズタにすることもまた可能。
「………そうだな。でも俺は本気で好きだった」
――後悔。
苦しげにその美貌を歪めて、私の顔を直視する。
なに、それ、騙されてたのに?
もしかしてまだ好き……とか?殺されかけたんだよ?
「それでも……好きだと言われれば子供のように年甲斐もなく胸がざわついた。嬉しかった」
どうしてそうも簡単に人を信じられるのか。
下心なしで人に接せられるのか、私には……幼いころから人に何かを求め、近づく事だけを考えて生きてきた私には……もう分からない。
アル様にだって、気付かない内に無意識に何かを求めている。
酷く滑稽な女なのだ、私は……。
「まぁ、それは置いといてだな。」
リヒト様は、強い。
今、初めてこの次期国王を尊敬した。今までなぜ気付かなかったんだろう?
この人は幼いころからたくさんの期待や人の醜い感情を見てきたはずだ。
なのに……私の様にひん曲がらなかったのはその人の――強さ。
私にはない眩しい程の、光。
「そうですね。私の考えではカスファイノの好きにさせて置けばいいんじゃないかと、思いますよっ?」
にっこり笑えば、太陽のように眩しい笑顔が返された。
無知な子供のような笑みでもあるそれは、人の醜さを全て理解した上での笑みだった。
「もう、用事はそれだけですか?」
「いや……たいした事では無いんだが。」
そう前置きして、
「お前とリュンヌは付き合っているのか?」
―――――。
な、なっ!?
不意打ちはっ、ず、ずズルいわ!!!
「あqwsでrftgひゅじこlp!!!」
「まぁ、そうだよなぁ」
溜息をつきながらも弧を描くリヒト様の唇。
「あー!鎌掛けましたね!?」
「その顔の方がよっぽど、子供らしい」
こうして私の長かったようで、まだまだお昼前の一日は過ぎていく。
† † †
ある日、やって来た異世界の少女。
少女のペルソナを剥がせる男はただ一人。
少女が信頼するのもただ一人、その男だけ。
甘い、甘い物語。そうそれで終わるはずだった。
そう、彼さえ舞台に登場しなければ……。
ある日、瑠璃色の名を持つ少女は突然……消えた。
――それはそんな物語。
哀しみとペルソナが交じり合った。
そんな物語。
カスファイノの回は要らないかな、と思ってたんですけど。休憩がてら……みたいな?
あはは、