【にじゅうなな】来る
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了└力"├_〆♪
零れる柔らかな光。
外からは、何の音も聞こえない程、静かで――…。
「瑠、璃……り……」
時節、薄い唇が小さく動き、言葉を紡ぐ。
愛しさに満ち溢れた、声。
白い指先が、黒髪を一房掬い取り、玩ぶ。
くるくる、くるくると。
しかし、一向に起きる様子がないので声の主は優しく頬に唇を押し付けた。
すこし黒髪の影は、身じろぎをしたように見えた。
自分の行為に反応してくれた事に声の主は歓喜し、また口づけた。
そんな穏やかな昼下がり。
壊れたのは突然だった。
「失礼っ!」
* * *
物音で目を覚ますと、仄明るい光に今村瑠璃さんは包まれて、横たわっていました。
「五月蠅い……カスファイノは礼儀さえ習わないのか?」
起きた瞬間からアル様の声が聴けるなんて…しあわせ。
けれどその声は少し、いや…かなり苛ついている?
……な、に?
誰かと口論してる?
「瑠璃が起きる……静かに口を噤んでいろ」
静かで、耳に心地よいアル様の声が聞こえる。
ずっと、喋っていて欲しいです……。
「っ……ぅっあ!」
驚いたような声がして、それから辺りがしーん、となった。
「起きたか……?」
はい。そりゃ、もうさっぱりと。
「瑠璃……お前の職業を言え」
いきなり…なんでしょうか? しかし私は奴隷ですから、
「ベリアル・リュンヌ様の弟子、ですが」
「そう、だな…すまない」
「い、いえいえ」
謝った!?
あのアル様が!? 聞き間違い!幻聴?
そうだ。そうに決まってる。
「…ということだ。第三王子リクシャル殿、去れ」
だ、第三王子……ですか!? 何処の国の!
「ごぼっ…けほっ……その声はっ姉上っ!シム、シムっ!!」
いきなり悲痛な声で求められて、つい「えっ?」と言ってしまいそうになるけれどこの15年で鍛えられた私を嘗めないでいただきたい。
戸惑った顔をしてみせた。
「あぁっ!俺が誰かも分からないほど恐ろしいことをされたのですねっ!なんと……姉上、俺が来たからにはもう安心です!帰りましょうっ!」
あ、れ?
逆効果だった?
子犬のような目をした青年は、ベッドの天幕を音を立てて、捲りあげた。
「姉上……?すこし背が縮ました?」
ベッドから急いで降りた私を上から下まで眺めまわした後、首を傾げた浅黒い肌と、黄金の瞳をした健康そうな青年を殴りたくなりましたね、ハイ。
お前さんの姉上はそんなに童顔なのかい?
君より年上で、背も私よりあるのに顔同じって……童顔ロリッ娘と一緒にして欲しくないですが。
「申し訳ありません……どちら様でしょうか?」
私がそう言うと、彼は驚愕した顔になり、
「ぇ……? 姉、貴……だよな?少し背が低くなって、肌も白くなって、少し華奢になって瞳と髪の色も少し違うけど姉貴だよな!?」
………。
「それは別人だろう?」
ありがとうございます、アル様。
私も今、笑顔を保つのが精一杯です。
「完璧、べ、つ、じ、ん、だ、ろ!!」
ついそう叫びたくなってしまったのですよ。
「で、でも……顔と声はそっくりなんだ!」
ああ~、なんですかぁ?
この人……。
精神病者かなんかですか?妄想癖でもあるんですか?
「あ、あの……ごめんなさい。えと……」
「俺は...」
ぐぅっ、と言い募る青年。
確か、リクシャル様。とかなんとか……。
そんなことを考えていたら、いきなり体に激しい衝撃。
「あqswでrftghyじゅいこlpっっ!!」
ああっ!!
いきなり、抱きつかれたものだから奇声を発してしまった。
とても、とても……とてつもなく滅び去りたい。
『大丈夫か!?』
奇声に、驚いた二人が同時に、声を掛けてきた。
正直―――怖いですが?
「だ、大丈夫です、よ?」
戸惑いながらも答える。
「瑠璃、こいつを殺していいか?」
「………………駄目です。」
恐る恐る答える。
隣に佇んでいる、魔王様は独占欲がよっぽど強いらしいです。
いや。
分かってはいました。きっと(俺でさえ瑠璃に抱き着いたことないのに)とか考えてる。
自惚れではなく、です。いや……それ以上のことしてますけれど。
いろいろ、飛び越しちゃったんですよね。
乾いた笑みを浮かべる瑠璃に対し、絶対零度の無表情を浮かべているアル。
「シ、ム?」
抱き着いた事で奇声を上げられたリクシャルは、呆然とした顔で姉の名前を呼んだ。
「すみません。私はアル様の弟子をしている今村・瑠璃と申します」
丁寧に断りを入れておかなくちゃ、ですね。
顔が似てる……?だけじゃないか。
「帰れ」
アル様が終止符を打った。
それを聞くと、何が何だか分からない、と言うような顔になったリクシャル王子は、
「姉貴は何処にいるんだ……?」
と呟いたけど、くるりと踵を帰して礼もなにもなく帰って行った。
少し可哀相だったかなぁ。
「お前は瑠璃だ」
そう、私は瑠璃。
あの人の姉ではない。
「ええ、私は瑠璃です」
――同盟国の第3王女はどこに消えた?