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【にじゅうろく】廻る

 



 静かに朝を迎えているのは、このわたくし、今村瑠璃さんです。

 日本のカーテンよりも少し厚めの、美しい刺繍が施された布。それをすぐ横の今、自分が横たわっているベッドから手を伸ばして引く。

そうすると眩しいと感じるほどの光が目を焼く。


「まぶっ!」


 眩しいっすね。

 基本的に夜行性の私は、目が弱いのです。

 光に――。


「くわぁ……おはようございまーす」

「おはようございます。ルリ」


 今日も今日とて、アンナさんのお目覚めコール。 

 気分は爽快。


「今日は…魔法の練習を、します」

「そうなのですか。分かりました」

 ゆっくりと微笑むアンナさんは大輪のバラのように美しいのでした、まるっと。


「魔法円書くの相変わらずめんどくさい……」


 ぶつくさと文句を垂れながら、ペンを滑らせる。滑らないけど……ごわごわ、していて。

 言語魔法は、魔法円なんか覚え無くてもイメージで出来るようになった。

 慣れればそんなものらしい。 そう考えると、この広大な敷地全てに魔法で結界やらトラップをしかけているアル様は本当にスゴイ。


「今は、集中っ……!」


 魔法をしていると余計な事ばかりが頭を占める。

 言語魔法の次に初歩的な、浮遊魔法。つまり物が浮く。サイコキネシスみたいでスゴイと思ったけれど、結局はイメージして構成しないと行けないから知っている物の方が浮かせやすい。

 そこに、物の重さ、形状、などは関係ない。


「おらぁっ!」


 今は小さなコーヒー皿を浮かせるので精いっぱいだ。

 しかも数秒。

 その結果をみて思わず溜息をつく。


「アル様ぁ~やっぱりできない~」


 と黎明の部屋の前まで押しかけて扉を破壊した。

 いや違った……扉を丁寧に3回ノックした………はずだっだ。

 とゆーか、扉自体が忽然と消えて無くなっている。は?―――は!?


「よぉし!夢だ!うんっ。」


 そう笑顔で言い、また現実を直視する。

 ………………。

 はい、なぁ~い。

 綺麗な胡桃色のドアがなぁ~い!


「なんですとぉー!?」


 つい乙女の恥じらいやらなんやらを捨て、叫んでしまった。 




 * * *




「私を連れてきて何をする?」


 低い、低い声が神殿に響く。誰もが息を飲む、怒りだった。


「姉貴を返して貰おうか」


 まだ若く、ハリのある威勢の良い声。

 先程の静かな声とは対照的だった。


「……」


 それに声、ベリアル・リュンヌは沈黙というなの拒絶で答えた。

 神殿に重い沈黙が広がる。


「姉貴をシムを返せ!」


 怒号が響く。

 ベリアル以外は皆、びくりと肩を震わせる。


「何を言っている、この国にそなたの姉とやらはいない」

「嘘を吐くな!我が国の第五王女シムリア・ヴィセ・カスファイノを返せぇっ!」


 ついに手を振り上げたのはカスファイノ第三王子のリクシャル・ヴィセ・カスファイノだ。

 カスファイノ国は、1年を通して蒸し暑く、果実が豊富な代わりに、重大な水不足を訴えている国だ。

 そこで、独自資源の果実や、古くから伝わっている刺繍布などを水と交換している。

 古くからある同盟。物々交換というヤツである。

 ……その第三王子リクシャルは、極度のシスコンであるからして突然失踪した姉の事を気が狂わんばかりに探していた。

 ココア色の肌は艶を失い、頬も心なしか不健康に見える。

 

「姉貴と同じ顔の娘がこの王城に出入りしているというではないか!」


 衰弱した体で精一杯、訴える。

 しかし、目の前で縛られているはずの魔王はその訴えに興味を失ったかのように、顔を背けた。


「……」


 またも重苦しい沈黙。

 そこへ――。


「お初にお目に掛かる。カスファイノの第三王子よ。良く来てくれた。ゆっくりと休むがよい」


 澄んだ声が神殿内の籠った空気を一掃する。


「国王陛下――!」


 神殿内の誰もが彼の人の登場に驚いた。

 彼は大層な変わり者で、滅多な事でもないかぎり執務室から出て来ないような国王なのだ。 しかも冷徹で、冷静。

 息子のリヒトとは似ても似つかない。


「リュンヌよ。そなた、何か面倒な事になっておるのぉ……」


 近隣諸国と戦乱になりかねない問題を“面倒な事”と称する事が出来るのはこの男だけだろう。


「そうですね、陛下。大変、面倒だ」


 拘束されながらも、こう言い放てるのもこの魔術師だけだろう。

 その場にいる誰もがそう思った。

「国王っ!これは私の妄想などでなく事実なのですっ!!姉を、我が国の第五王女シムリア・ヴィセ・カスファイノをお返し下さい」


 先程とは打って変わった王子相応の態度と口調。

 そこに冗談やからかいの声を上げるものが居るとすれば……、


「ククク、そなたの姉が? プッ、何故居ると分かる?」


 我が国の国王陛下、万歳…。腹を抱えながら、笑いこけそうになる三秒前。

 

「……っ!見た、と。姉上と同じ容姿の少女を見たと!」


 真面目な顔で切望する。しかし、ファンテゥーヌを一代で飛躍させた“冷静国王”は言った。


「それは、確証があるのか?もし間違っていたらそなた、責任を取れるのか? 恥を知れッ!!」


 怒号に誰もがピシリと固まる。今まで笑いこけていた国王が、国王らしき威厳を湛え、隣国の王子を見詰めていた。


「!?」

「よいのか?もし我が国と戦をしてそちの国にメリットがあるとは――到底思えんが?」


 にやにやと悪戯っ子のように笑う国王陛下。

 先程、怒鳴った人物とは決して思えない。


「――申し訳、ありません」


 震えた声で、自分のした行動を詫びるリクシャル。

 今になって事の重大さが分かってきたのか……。

 自分のした事が余りに幼稚で恥じるべき痴態だという事も。 周りにいるリクシャルの付き人も、青い顔で震えている。

 こちらは恐ろしさで、だが。

「――帰らせて頂く。」


 今まで黙って縄に拘束されていたベリアルだったが「こんなもの……」と、呟きながら何かを唱える。

 その瞬間、縄は青白い炎に包まれて焼き切れ、灰になった。 それを見てまたも戦慄する付き人+王子。

 あれが縄ではなく自分だったら、と考えると震えが止まらない。少し不憫でもある。



* * *




「アルさまぁ~!どこに隠れてるんです?お~い!ポチぃ」


 ふざけ半分、真面目半分でアル様捜索をしています今村瑠璃ですっ。

 

「…………ほぉ、少し瑠璃とは話し合いをするべきか?」


 後ろから声が聞こえますよー。地獄の番犬を従える魔王様のお声がぁぁぁっ!

 怖いっ、こ、わ、す、ぎ!


「……………………ごめんなさい」


 俯いて呟くと、腕に衝撃。

 ――拘束魔法?

 ああ、怒らせた。

 すぅっ、と身体から血の気が引いていくのが分かる。

 これから来る衝撃に耐えられりようにぎゅうっと目をきつく閉じる。


「お前は――私の物だ」


 でも身体に掛かった負荷は、なくて。むしろ温かい何かで。不思議に思ってゆっくりと目を開ける。


「?――はい。私はアル様の……ど、奴隷……です」


 じ、実際そうだし――?

 いや、まだ大人にはなってない!登ってない!足掛けただけ!


「そうだ――どこにも行けない」


 どこか不安そうに言葉を紡ぐアル様に可愛いなどという感情を持ってしまうのは私だけではないはずだ。


「アル様、私はどこにも行きませんよぅ?」


 そう言って、ふわりと笑った。


「ああ、―――何でもない。」


 どうしたのだろう?

 頼ってくれるのは大いに嬉しい。


「大丈夫です。一緒に寝ます?」


 冗談のつもりでいった言葉は――現実になりました。


「寝る」


 あれ? 



    デジャヴュってよくあるな、と思った私。


変なとこで切ってすみません

ε=ε=┏(; ・∀・)┛

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