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【にじゅうに】†涙草はNightを失う†


私だってリリス様の事を嫌いたくなんてない。


「でも……」


私の予想から行くと――バッドエンド。

みんな、苦しい思いをするだけ。

だけど私は赦さない。……赦せない。


私が最初におかしいと思ったのは、何故2人の夜の会話をピアさん達が、侍女如きが知っていたのか、ということ。

それは、リヒト様とリリス様が故意に流したのではないかということ。

そう考えれば、つじつまが合う。


あの夜、というか……リリス様が殺されかけたとき、彼女は王子に何を思ったか?

復讐。この一言に尽きると思う。

私の身勝手な憶測だとまだリリス様は王子を許していない。

それを分かった上で婚約したのだろうか……?

自分の命を狙っていると分かった上で?

ない……ない、ないよ。

だったらやはり、自分から誘ったのだ。

アル様を――餌にして。

ああ、赦さない。


あの誕生祭の日。

アル様に芸をさせて、自分を密やかに王子の目に止まらせ、求婚する。

勿論、自分がクロードリュベンの一人娘だということは避けて……。


でも今アル様は、見つけた。

白銀に菫色の少女を。20歳の姫様の正体を。

アル様はどうするつもりだろう?

告発して、自分の嫁にするつもり?

それとも殺すつもり?

答えはきっと前者に傾く。


「なんで私ここに居るんだろう?」


なんでこんな所にいるんだろう?

私には順応能力、つまり何事にも無関心なスルースキルがある。



だからって……好きな人に好きな人がいるなんていう、最早、恋愛にすらならないこの状況下を無関心でスルーするのはどうかと思う。

ならいっそ、リリス様を壊してしまおうか?

そう思う私は、醜い。

大体、私という少女は、対して特筆する点のない平凡を絵に描いたような平均女子であり、美形や有能、頭の切れる人がいるこの場所にいてはならないのだ。

釣り合わない。そんな事をいえば、私はきっとアル様に好いて貰おうなどという考え自体が間違っているのだろう。


あぁ。

正直言ってさっさとリリス様が王子つまりリヒト様を暗殺してくれればいいのに。

リヒト様が死ねば……そう考える私はホントに化物だ。

きっぱりと言い切られた時、心が死んだのだと思った。


その後、お辞儀をして退出した。逃げるように。



† † †



リヒト様の婚約者になれた時、暗い喜びで胸が震えた。

これでアイツに復讐できる。

私はどうなってもいいけれど、殺すまでは死ねない。

絶対に――…。


また明日ルリという異国の少女に会おうと思う。

アルが名を呼ばせているあの娘は……なんだか危険だ。



儚い美貌を薄いベールで隠した姫君は、窓辺に座りだんだんと明るくなっていく庭を眺めた。



† † †




「アル様……リリス様は」

「あぁ、憶測だが暗殺を企てているだろうな」



私は今アル様のお部屋に居ます。あの後……また呼び出されました。絶対に解雇のお話だと思ったのですが……。


「お前は、姫に似ているのかも、な……お前は姫をどうしたい?」


いつも非道なる手段で持って私をいたぶるご主人様が、今日は優しい、気がします。



「好きですよ?」


間髪入れずに答える。

私が演じるのは馬鹿な女の子。


「………………そうか」


そう答えたアル様がどんな顔をしていたのか……私には分からない。ただアル様の深紅を見るのが恐ろしかった。


「はい、あんなに綺麗な人…見たことありません。私の世界でも」

「嘘はつくな、命令だ」

「―――っ、!!」


嘘、嘘。

なんで――…。


「それとも詰ればいいのか?化物、と」


いつになく優しいその口調が怖い。

追い詰められたウサギさん。

憐れオオカミさんに食べられてしまいました。

そんな一文が浮かんだ。


「――殺したい」


ぽそり、と吐き出す。


「大好きな人が好きな人――なのにソイツは大好きな人を餌にした最低な女なのに、な、のに好きなんですって、愛してるんですってっ……目の前で告白されちゃいましたよ……私を見てはくれないのにっ」


気付けば前には瞳を見開いたアル様。

顔を涙でぐしゃぐしゃにした私。

ああ……無情。


「ごめんなさい嘘つきました今の嘘ですごめんなさい」


早口でそれだけ言うと、死ぬ気で笑った。来た時と同じ様な、心を見せないペルソナの笑み。


「あとーリリス様はアル様の思った通りにすればいいんじゃないでしょうか?きっとバレてるとは思ってないでしょうから」


そういって逃げようとしたら、腕に激痛が走った。

ちょ、そこ街で怪我した方です、アル様。

見るとまだ微妙に完治していない腕を白い手が捕まえていた。


「まだ話は終わっていない、我が奴隷」


ど、奴隷?

アル様は大変ご機嫌麗しい様で、捕まえていない手で私の顎をゆるりと持ち上げた。

へ?

なんだかヤバ気な雰囲気……。どうしよう?妖しげなその様は妖かしの様。


「それで……? お前は私に好かれたいのか?」


私は今きちんと無表情ポーカーフェイスを保てていうでしょうか?

多分……無理。だって私男に耐性ないモーン……うん。

何時になく狼狽うろたえる私が珍しいのかクツクツと笑った。

彼は何を言った?


「ぁ、わた……好きですけど……」

「――けど?」


WOW!今日は気が長いよ!魔王様。

どうしよう?

言うべきですか?


「だって、無理に好きになってもらっても嬉しく……ないですから」


これは本心。

好きな人と一緒にいる時ぐらいは、仮面を剥がしていたい。


「なら……私は努力などせずともお前を好こう」


何時になく真摯な目で見つめられて、


「うぇ……?」


と変な声を上げてしまった。

何時もならそこで、首を絞められているはずなのに今日はふっと、笑われてしまった。

アル様……どこかぶつけたのだろうか?

激しい動悸は収まることなく、その上に甘やかされるように見つめられれば、なんだコイツ?と思うのは当たり前のことで。

まさかあの・・アル様が睦言を囁くなんて誰が思う?

からかわれてるんだ。

きっとそうだ。だってアル様にはリリス様がいるもの。

「本当は理解していた。私は利用された駒だったと……それでも、きっと愛したかったんじゃないか?」


どこか冷静に自分の現状を報告するアル様。

寝ぼけているのですか?


「じゃあ……何故?」

「分からん、ただ腕に触れたいと、お前に触れたいと思った……………それだけだ」


わぁお!

驚き、桃の木、山椒の木。

これは俗に“KOKUHAKU”と言う奴ですかぃ?


目の前には少し不機嫌そうな顔のアル様。

これは恥ずかしがってる時の顔だと……思います。


「じゃぁ、行きますか!Queenを倒しに!」


私は喜びで胸がいっぱいになった。

こんなに素敵な人を放っておいたリリス様がいけないんだ。

はっ、精々後悔しなさいな。


「アル様、最高に可愛いです」

もう、逃がしてあげません。




リリス様。貴方のNightを奪いました。



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