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【にじゅうわ】†涙草は諦めない†

後半はリリスの過去編の続きとなっております。

時系列がバラバラです……。

 

 

 ……私が独自に調べた結果――――その家の娘は……プラチナに菫色の瞳の美少女だったそうだ……


その場に訪れるのは静寂。

 わたしは知っている。

 腰までのたうつ白銀の髪と奥底まで透き通った菫色の瞳を誇る大輪のような女性ひとを。

 

 


「腐った脳ではピースすらも当て嵌められないか……」


頭上から呆れたような声が降る。

誰のせいだとお思いで?

フリーズしている私を見て、発せられたのは労りの言葉だと信じていますよ。ええ。


「リリス様は……」

「クロードリュベン伯爵の娘だ」


伯爵といえば、公爵の次に偉い階級だったような……。

 結構良いとこのお嬢さんじゃないですか。

 でも、でもですよ。

 侍女さんの話では、下働きだったって言ってませんでした?

私の疑問は想定内、とでもいうようにアル様が頷き、


「リリスは当時12歳。まだ人目には晒されていない歳だった。」


この国の社交界デビューは、12,3歳からが普通らしい。

リリスは運が良かったのかな?


「お前だから話した……わかっているな?」


 と、謎の一言を残して部屋に入っていった。


いつの間にかもうそこは“黎明の部屋”の前で。

アル様の離宮ともいえる“黎明の部屋”は大きい。

アル様は後ろ盾が王家、ということにはなっているけれど……王族ではない、というなんとも奇妙な地位。

“黎明の部屋”は中央から一つの長い廊下で繋がっているのは、今の脱力感から身に染みてよくわかる。

だって嫌がらせのようにリリス様の部屋は正反対なんです。 “黎明の部屋”は先程アル様が入っていった部屋の他にあと5つはあるんじゃないだろうか?

 噂ではもともと広かったのを何等分かした、らしい。

とにかく広いので、侍女さんは大変だと思う。


それよりも大変なのは目の前の現実である。

リリス様が伯爵家の娘だってー親は反逆罪だってー。

って、じゃあなんでアル様と同じ職場にいいとこの嬢ちゃんがいれんねん!

 下働きになったからといって今まで何から何までやってもらっいたお嬢様に出来ることなどあるのだろうか?

でも死ぬよりマシだと思ったから?

 もう駄目。貴族様の考えることは分からない。

 瑠璃の部屋はアルほどではないけれど、弟子が持つにしては特上以上の扱いを受けていると思う。

ベッドや家具なんかもそう、だと思う。と、現実逃避気味に部屋の内装を説明してみたところで何にもならない。


まず私はリリス様に“奴隷”と言ったことを訂正しなければならないし。

こつこつと部屋を歩きながら考える。

 リリス様は、王妃になったら王族になるわけだから……。

リリス・クロウじゃなくなる。

王族はリヒト様のように、ファンテゥーヌ・リヒトとなる。 もう少し長ったらしい名前らしいが普段は魔よけの意味も込めて本名は呼ばない。

ファンテゥーヌ・リリスになるわけだ。王族は国名、親から授かった名前で構成されるらしい。

ベリアル・リュンヌ、なのに対してファンテゥーヌ・リヒトはおかしいと思っていたのだけれどそういう王族の昔からの決まりらしい。

大体私は帰ることが目的だ。

 いくらなんでもこんな異世界で一生を終えてもいいなんて、思っちゃいない。

でも……本当に帰りたいのかと聞かれれば――分からない。


 数々の難題を抱えながらも、それぞれの一日は更ける。



 † † †



――殺される。


 無骨な手で捕まえられて、抗う気力がなかった。

 でも死ぬ、という実感なんか沸かなかった。

 ただ今までの生活には戻れないのだと理解した。

 あぁ、両親は……王子様を殺そうとしたの?

 だから私が――償いを?

 有り得ない。

 王子さえいなければ……!!

 殺してやる、殺して、やる。

 幼い私にはそんな醜い感情しか浮かばなかった。

 その王子さえいなければ。

 そう何度思った事か。

 

「ねぇ、隊長さん?私まだ死にたくないな」


 ぽつりと呟いたその一言は、隊員全員の心を打った。

 小さな小さな守る対象であるはずのもの。


「わ、たし……っ…死にたくないよぅ」


 ぽろぽろと大きな菫色の瞳から透明な涙草の雫によく似たけれど暖かい水滴が拘束していた手にぽたり、と落ちた。


「――っ!」


 儚げな一輪の花のようだ。

 華奢な身体はたやすく手折れそうだ。

 今にも消えてしまいそうで――…。


「た、隊長!自分はここでこの少女を殺した事にしますっ!」

 

 搾り出すように一人の青年がいった。きっと同じくらいの妹でもいるのだろう。

 皆もそう思い始めた。

 その隙をついて……逃げ出した。


「ありがとうっ……そして――滅びてしまえ」


 きっと、最後のは聞こえてない。

 私を、私の箱庭を壊したこの政権を……こいつらを――赦さない。


「頑張れよ!」


後ろから声がした。

 あの人たち……私の10000分の1だって苦労しないわ。

 死んじゃえ!


 生きて……復讐してやる!!

 あの王子に!

 何も知らずに私の生活を壊した王子を!

 絶望させて…殺してやる!

 そいつの大切なものは全部全部奪ってやる!


 暗い森を走り抜ける。

 私のどこにそんな体力があったのかは疑問だけど……とにかく私はある旅館の下働きとして、生きながらえたのだった。

 


 暗い復讐を胸に――。



 

 



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