【じゅうきゅう】†涙草なんて知らない†
「では。行きましょうか?」
カイルさんが優しく微笑んで手を差し出す。
私も微笑み返して、手を取ろうとしたとき、魔王様もといリュンヌ様もといアル様がぺしっとカイルさんの手を叩き落とした。
黒い手袋を嵌めた手は空を切った。
「転移……」
深紅の瞳がこちらを見つめて、私が何か言おうとした瞬間に転移魔法で図書塔に飛ばされました。
いきなりやられると今村瑠璃は吐きそうになります。
† † †
「大丈夫ですか?」
ああ、好い声。
オルゴールな感じ。
「ルリ様?」
ぱっちり、と目を見開いて、
「“様”は止めて下さいませ」
と、抗議する。
いや、その前に大丈夫とか、言えよと思ったそこの貴方っ(ビシィッ
こういうのはタイミングが肝心ですよ!
「はぃ……では、ルリ行きましょう」
出来れば敬語も止めて欲しいのだけれど無理とは言わないし、困らせたくないので止めておきましょう。
今度こそ手を借りて立ち上がる。
今私たちがいるのはちょうど真ん中の丸テーブルの椅子。
「相変わら着地点まで制御できるなんて……凄い人ですね」
感嘆の声を漏らすカイルさん。
凄いのか……?
ちょうど真ん中。
超、ど真ん中。
日本語は難しい。私は前者の意味合いで言いました。
対して意味は変わらないでしょうが……。
「えーと。奴隷について調べるんでしたよね、だとしたら……」
なんて言いながら本を探す姿は、騎士には見えない。
けれど彼もまた、殺す人なのだろう。
敵を。自身にとってのとアル様にとっての……。
「あっ、ありましたよ。 ルリ?」
怪訝そうな声を掛けられてはっ、とする。
考え事をすると外部からの情報を遮断してしまうのが私の悪い癖だ。
「あ、ありごとうございます。」
がたっ、と椅子から立ち上がり、本を手に取る。
そのときに、本を落としてしまった。
「ごめんなさい……っ」
「いえいえ、すみません、私も……」
そういいながら丸テーブルの私の隣に座る。
ち、近い。
こうして見ると、睫毛長ーい。綺麗な青。私の瞳の色と似通ったそれはとても綺麗に光を反射している。
女っていってもパーツだけみれば通じそう。
この図書塔に今、人は居ないらい。
本をめくる音だけが耳に聞こえる。
塵が光でよく見えるけれど、それすらもこの静かな空間には必要なものだと感じた。
「あ、ここではないでしょうか?……」
静かな声で囁いてくれるカイルさんは気遣い上手だからいつでも良いお嫁さんになれると思う。
「あ、本当だ………って―――――ええええええ!!!」
この静かな空間が続けばいいと思った。
この国の奴隷の意味を知るまでは……。
【奴隷】
現在は禁止されている。
何をしても雇主の自由だが、主な使用法として性奴隷に使われ、質の良い女奴隷は高値で取引されたという。
男奴隷は――――――。
ああ、消えたい。
† † †
私達が図書塔から出ると、カイルさんが、私を魔道具でアル様の所に送ってくれた。
魔道具、というのはアル様のように魔力がなくとも使用者の魔力を最大限に引き出し、使い方によって、攻撃にも転移にも防御にも使える優れものだ。
ただし、使用できるのは高位の人間、しかも国に貢献をした者だけらしいです。
つまりカイルさんは凄い人なんじゃね?と改めて思ったのでした。
「はぁ~」
思わず溜息が出る。
いけない、ですね……。
ちらりと横を見ると、端正に整った顔立ちを惜しみなく侍女さん・貴族の娘さん・騎士(女)さん・騎士さん(男)ってこれは危ないですよね?などにさらしているアル様。 私の歩幅に合わせることなく進められるその歩調は何とも単調にカッカッカッと辺りに音を響かせている。
そこに私の溜息。
「……」
「はぁ」
「…………」
「はぁ――――っ」
「煩い、不満があるなら言ってみろ」
私は別にこれ見よがしに口から幸せを放出していたわけではありませんよ?
アル様の言葉の裏には「俺の時間を割いてやってるんだ、有難く思え」くらいの気持ちはこもっていると思いますよ、ええ。
「初めて会った時もアル様は“奴隷”ではなく“下僕”といいましたよね」
たたっ、と小走りになって隣に並ぶ。
あれからカイルさんは「あ。あの人どうなっただろう……ちょっと見てきますね」
とあの人って誰ですか?と聞く余裕もないまま走り去って行ってしまったし。
「ああ!私としたことがっ! だって知らなかったんですもの!? まさか、まさか……奴隷が一般的に性どっ……けほっ、申し訳ありません」
勢い込んで力説していたら首をがっ、と容赦なく掴まれて締め上げられた。
いくらここにギャラリーがいないからって……。
ああ、目覚めちゃいます! 嘘です。ごめんなさい。
「無知は罪だ」
ばっさりと言い訳を遮られました。
うう、くすん。
そういえば、リヒト様はどうしたろう?
王様から直々に命令が出たらしいけれど……。
「……その昔、第一王子の命が狙われたのは知っているな?」
いいえ、知りません。
1年生の模範的な挙手の仕方をしたのに……。
「あったのだ。その頃は王内、いや国内は荒れていた……貴族制度がぐらついていた時代だ。その時に起こったのが“第一王子暗殺計画”という名の密書が見つかってな……その出所は……クロードリュベン家という成金家だ。金の亡者だったらしいな」
うわ、散々な言われようですね。
で、いきなりそんな話を私にしてなにか意図がおありで?
「私が独自に調べた結果――――その家の娘は……プラチナに菫色の瞳の美少女だったそうだ」
え? それって……つまり。
プラチナに菫色って……そう、それはつい先刻会ったばかりの方と大変似通ったデータ。
奴隷の意味は適当ですヽ(*´∀`)ノ キャッホーイ!!
はい、異論は受け付けん!←(激しく自嘲、自重。
ホント……適当に生きてますんで。
ハイ。