【じゅうさん】出会いの印象って大切ですよねー
さて……。
自室から久しぶりに出る城内。
しかし、行けども、行けども人に全く会いません。
「そういえば、中央から1キロ離れているんでしたっけー?」
そんな事をリヒト様がぼやいていたのを思い出してぞっ、とした。
長々とした大理石の廊下が永遠に続いているのかと思えてしまうから……。
そんな絶望的な考えを頭から振り払って、進むけれど……。
人の気配がない!
「うわー、リアル迷子ですか? この歳にもなってー」
ありえないです――。
と顔に手を当てて自嘲する。
あ、自重もしといた方がいいですか?
すると、なんと……!
向こうから人がやって来る!!
でも沢山荷物を抱えているせいでお顔が拝見できませんねー。どうしましょう?
声を掛けても良い相手なのでしょうか?
でもでも、ここで永遠に一人というのも虚しい……。
ということで声掛けちゃいましょ―――?
「すみませーん」
ここで確認するのは性別。
「? なんでしょう?」
――凄い。
この人いきなり声を掛けられたのにも関わらず、この対応!
わたしなら飛び上がって驚きます。
そしてその肝の据わった人は女の人でした……。
「あの……中央に出たいんですけど……」
通じてくれるかな?
「中央?何をしにいくのですか? ルリ様」
ギクゥッ――!
なんで声聞いただけでわたしだと分かるの!?
なんて有能なのですか!
「あれ? 間違っていましたか?」
荷物の後ろで首を傾げた気配がする。
女性にこんなに荷物を持たせるなんてっ――!
さらり、と蒼い髪の毛を結んで居るのでしょうか?
腰辺りまで届く髪は優雅で素敵です。
つい、見つめてしまっていた。が、相手はこちらが見えないので問題ないでしょう。
なのに―――!
「何かついているでしょうか? 顔に――?」
と平然と言われた時には、“なんだ!コイツえすぱーか!?”と思いましたよ。
いや、マヂで。ガチで。
「ひゃっ、あの……綺麗な髪だなぁ、と思いまして……」
正直に言ってしまったー!
怒られないでしょうか?
マナー違反でしたか?
「……有難うございます?」
きゃあ!
萌える――!
激しく萌えたぁぁぁ――!
声は綺麗なソプラノで、海を思わせる蒼い髪は枝毛一つない。あぁ。正に女性の鏡!(顔は不明だけれど……)
「ルリ様?」
はっ!!
早く中央に行かなければ!
窓を見ると、もう“涙草”が雫を零しています。
ああ、涙草というのはですね。日が暮れかけると涙の様に水滴を垂らす植物です。
名前の由来はここから来ているのでしょうね。
「では、わたしも丁度荷物を中央に運ぶところでしたので……いきましょうか?」
え。
でもさっき反対側から歩いて来ませんでした?
「ふふ……可愛い女の子をここに置いてきぼりにするなんて馬鹿みたいですよ?」
ずっーきゅーん!
あああ。
カッコイイよ。やばいよ。
女の人だよね?
「ああっ、荷物持ちますー!」
そうです。
せめて、この位しなければ!
「え? 大丈夫ですよ?」
そういってサッ、と重い筈のわたしの身長程ある地図やら、何か想像したくないモノを付けてある瓶とか……。
一体何に使うんだろう?
「でも……やっぱり!」
わたし達は歩きながら、大理石の廊下を歩いていく。カツン、カツン……と足音が響く。
「そうですねぇ……ではこれを持って下さいますか?」
しぶしぶと言った感じで小さな箱を手渡す。それは、ガラス製でとてもキラキラした深紅の小箱だった。
あ、リュンヌ様の色だ。と、勝手に思ってしまった。
「綺麗……」
つい、呟いてしまう。
「ああ、それはリリス様がリュンヌ様に差し上げたものです」
と、さらりと爆弾発言をしてくれちゃうなー。
きっと、リュンヌ様の弟子だから事情を知っている人だと思われてしまったのですかね?
なんて事は勿論口には出さず、相槌を打つ。
「よくこういう贈り物を?」
ぽそり、と呟けば、
「そうですねぇ……週一単位?」
わぁお……!
それは、凄いです。
リリス様はまだリュンヌ様のことを思っているのでしょうか?しかし、もしこれがリリス様からリュンヌ様宛てのものだとしたら何故、何かの標本や地図と一緒になっているのだろう? 聞くと、
「それは、捨てろとリュンヌ様が……」
相変わらず荷物で隠れている顔は今、きっと哀しさで縁取られている。
「でも……これ結構、高価な物なのでは?」
「そうなんですよ~捨てるのが忍びなくて……」
冷たい小箱を手でいじくりながら考える。リュンヌ様には何が会ったのでしょう。
“詰りの言葉”は貴方が最も欲しがっているものなのではないですか?
「詰り……」
「リュンヌ様は傷付いていると……時々思うのです」
わたしも思います。
いつも、いつも……。
だから、本当は誰も傷つけず、一人ぼっちの静かな所で生きていたい、と。
そう思ったことがあるというのは、否定できないけれど。
わたしも思ったことがあるからリュンヌ様が何故、そんな風に思うのか分からないのですよね。わたしのように感情豊かだったとか……?……ないない。
「リュンヌ様とリリス様はそれはそれは仲が良かったんですよ~、なのにそこにKY馬鹿王子が割り込んで『俺の嫁にする』とか叫んだせいで……」
むっちゃ辛辣に聞こえる。
そこまで嫌いなんだ……王子の事。まぁ、わたしも言えた義理ではないのかも知れないけれど……。
ぺらぺらと喋って言いのだろうか?
「さぁ、着きましたよ」
中央です。そう言って彼女は荷物を受け取ると、すたすたと帰っていく。
周りを見るとわたしみたいな小娘が来てはいけない場所だと分かった。だって空気が違います!
「どうしよ~、ですね」
一人呟いていると、行った筈の彼女が耳元で、
「侍女を探しているのなら庭に出てみては如何でしょう?」
と囁かれた。
「なっ――!」
何故!?
分かったのでしょうか?
目を見開いていると、艶やかに微笑んで、
「リュンヌ様にはナイショですよ?」
彼女は何処まで知っているのでしょうか?
てゆうか……誰?
今まで一緒に居たのに――。
名前や役職すら聞いていなかった自分に呆れる。
「あ、あのっ……貴方一体!?」
と、声を上げた時には彼女はもう颯爽と“黎明の部屋”のほうへと戻っていた。
「すみません、庭に出るにはどういったら良いのでしょう?」
と近くにいた銀髪の男性に聞く。何しろ此処は男比率が多い。女性も時々見かけますが……。
侍女さんでもないので騎手さんなのでしょうか……?カッコイイです。
もしかしたら、あの人も女騎手さんだったのかもしれません。着ている服は違ったけれど……。
「あ? 庭だ?」
なんて事を考えていたら、凄まれました。コワイッス。
ここは――!
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
と、ぺこりと頭を下げて謝って、ウル目で見つめてみます。
自分の顔のレベルはきちんと分かっているのでそこまでブリっ子はしませんが……。
普段小さな子と慣れ合う機会が少ないのでしょうか?
「あ、謝ることはないっ。」
と必死な感じで、言われました。
しかし、こんな所に2人で立っていてもあれだしなぁ……。
さっさと聞いて、行こ。
「庭にはどーやって行けばいいですか?」
「庭? ここから真っ直ぐ歩いて右に行ったところに扉があるからそこから出れるぞ?」
と、親切に教えてくださった。
ギブ&テイクとは言ったものでわたしは、この言葉を胸の中だけで大切にしている。
いつかお返ししよう。良い意味で……。
「お名前は? お譲ちゃん」
やっぱりやめようかな?
だって“お譲ちゃん”だよ?嫌だよー、15にもなってー。
しかし、彼女は知らない。
この国の成人男性から見れば、瑠璃は10にも満たない幼子に見えることを。
そして、中央には身分の高い者が基本的に出入りするところだ。
庶民……ましてや子供など。滅多な事がないと御目にかかれないのだ。
しかし、瑠璃の場合、来ている服が高価なそれだと分かる人間にはお嬢様にも見えるかな?ということすらも彼女は知らない。
「……瑠璃、です」
と、少々不機嫌にもなりつつ答える瑠璃は一部のマニアから見れば大変可愛らしいものだった。
「ルリ、かぁ……異国の姫か? 俺はキズナだ。よろしくな」
と意外にも人懐っこそうな笑みを浮かべて長身の彼はよいしょ、と屈んで瑠璃を抱き上げた。
所謂お姫様だっこではなく……色気の欠片もない俵担ぎ、だ。
あぁ……なんかデジャヴぅ。とか冷静な頭の片隅で思いながらも、
「ちょっ……おm! ふぁ~~ふぃふ~!!」
と訳のわからん叫び声をあげながら、キズナに担がれている姿は、なんともみょうちくりんだったという。