【じゅういち】親愛
長らくお待たせしました。
チャオ!
ってな感じで、今村瑠璃たん15歳でっす!キラッ……と。
はい。
吹っ切れました。
まだリュンヌ様に解雇とかされてはいないけれどそのうち解雇されます……。
窓際社員の気持ちが分かった瞬間でした。まだ未成年なのに!
「はっはっは~、」
と高笑いをしてみる。……若干イタい人がいまーす!!
「何を……?」
………あ。
忘れてました。
この国で次に権力を持つ御方を。ファンテゥーヌ・リヒト様。
甘やかな蜂蜜色の髪を窓から入って来る暖かい風に弄ばせて彼は立っていた。
――へ?
てゆーか、何で貴方が乙女の部屋に入ってきてるんですか?
いくら美形だからってやって良いこととダメなことがあるんですよ?
ああっ、何で気付かなかったんだ!私ィ――!
誰か、誰か荒縄を持ってきて!死ぬわ!この世からおさらばするわ!
“拝啓。お母様、お父様……衣食住だけは確保して頂きありがとうございました。不出来な娘を持ったこと精々後悔しやがって下さいませ”
と脳内遺書を作成しながら、カーペットに頭をたたき付け、涙を零す。とまではいかないもののやっぱりそのくらいはしておくべきだったなあ、と後悔しています。そうしたら額が割れて、血が出てメディカルルームに連れていって貰えて……あんな事聞かなくて良かったのかも知れません。
「や、どうしたっ……」
慌てた様子で、私によってくる。そうだ。元はといえば貴方のせいなんですよ……?
リヒト様の馬鹿野郎。
そういえばいつから居たんですか……貴方。
「ルリが腰に手を当てて暴君のように高笑いしていた辺りからだな……うん」
へぇ、そうなんだ~。
死亡フラグ……主にリ〇ト様に。
「で、何か御用でしょうか?」(大した用がないなら帰レ)
満面の笑顔で言い放つ。
本来ならば()の中の言葉を言っているかもですが賎しくも相手は王族。
このファンテゥーヌにおいての王族の地位がどのくらいなのかリヒト様の父上を見ただけでは分からないけれど“貴族様”には逆らわない。長いものに巻かれろ!これが今村瑠璃さんのポリシーです!
「あ、いや……」
困った顔をするリヒト様。
いきなり核心を突かれたからでしょうね。ええ。
私は15歳ですが、この世界の人間から見たら約8歳と言ったところでしょうか?パネェっす。
「昨日は申し訳ございませんでした。非礼をお詫び申し上げます」
大体、8歳の少女に敬語が使えるとでも?
はっ……ありえなー。
「そして……私には疑問が2つ程あるのですが?」
今だに戸惑っているリヒト様の話の主導権を握ったのは――わたし。
† † †
「リュンヌ様」
数多く居る騎手の一人カイルが口を開く。彼のポリシーは確か“歌って踊れる万能騎手”だったと思う。没落しかけていた彼の家を見つけて、彼に忠誠を誓われてから3年の月日が過ぎた。
早いものだ。時というのは。
「リリス様から花を……」
「捨てて置け」
間髪入れずに答える。
いつものやり取り。彼女から贈り物が来て私が施設に寄附するか、下々の者に下げ渡すか、捨てるか……この三択。
最近は瑠璃に渡すという選択肢も増えた。あいつは、何をやっても嬉しそうに受け取る。
――瑠璃。
お前は何者なんだ?
リヒト様の20の誕生日に“神堂”の“鏡水”から泡と共に出でし少女。
最初見た時はリヒト様を殺しにきた侵入者だと思って疑わなかった。……今もそう思っている。私と、リヒト様を懐柔して何かを企んでいるようにしか見えない。だから懐柔された振りをして“アル”と名前で呼ばせてみた。
予想に反しての喜びようだったので罪悪感でつきり、と胸が痛んだ。
リヒト様はすっかり心を開いている。その姿を見ていると無性に苛立つのはやはり、リリスの事があるからだろう。まだ囚われている……のか。
この国では珍しい黒髪に、瑠璃色の瞳。
一見普通の幼い少女だが、そこらの街で働ける程の生活力と礼儀を兼ね備えている。何か特別な訓練をしたとしか思えない。幼い表情の中に時節、見せる大人びた顔。違和感があった。出会った時から。
そして一番の違和感は、その――笑顔。
泡から出てきた絡繰りは分からないが、最初の笑み。あの笑みはいやに年季が入りすぎていた。この世界の貴族の殆どは“愛想笑い”や“本心を隠した談笑”をするだろう。
しかし8歳の少女がするにしては――自然過ぎた。嗚呼、何故お前は来た。
いろいろな者を搦め捕る魔女か?
それとも神か、魔物か……。
「瑠璃……」
この世界の響きではない。
珍しい名。
「わたしは……」
わたしはあの時、瑠璃が泡と共に“鏡水”から出て来た時……リヒト様を殺せる立場に瑠璃がいると理解したとき……ああ、リヒト様を殺せ!と強く思ってしまったのだ。
リリスを奪った。
唯一愛してくれた人を奪い取った男を。
『アル……別れの時よ』
アルと瑠璃に呼ばせたのは、懐柔された振りをしただけだ。
決して、リリスと瑠璃を重ねた訳じゃない。
そうだ。そんな訳がない……。
暫く考え事に没頭していて気が付くとまだ傍にカイルが立っていた。
手に親愛の花“フリージア”を持って。
気持ちがざわざわと苛立つ。
「捨てろ……」
「ですが……っ、申し訳ございません」
口答えするほどの事でもないだろう。
視線でそう言うとのろのろとした緩慢な動きで出て行った。
全く……なんなんだ。