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世界最強の男

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/04/02

 この世界最強の男が居た。

 彼は今、間違いなくこの世界で最強だった。


 奇妙な服を纏っている。

 普段着ではない。

 旅装でもない。

 礼装でもない。


 おまけに顔をボールで覆っている。

 そのボールにはガラスが取り付けられており、その中から気弱そうな表情を浮かべた痩せぎすの男が見える。


 繰り返しになるが、この男は世界最強なのだ。


 世界を圧する魔王でさえ。

 その魔王を討ち果たす勇者でさえ。

 その二人が手を組んでいたとしてさえ。

 あるいはその二人が互いの軍隊を率いていたとしてさえ。


 この男には敵わない。

 だって、そもそも――。


「この星も進化の果てに滅びたのか」


 痩せぎすの男は呟いた。

 宇宙では珍しいことではない。

 滅び去り、命一つ存在しない星に降り立つことなど。


「行こう。時間は無駄にできない」


 仲間内から虐められる要因となっている独り言をぶつぶつと呟きながら、彼はこの世界最強の男から、この宇宙ではありふれた存在へと静かに戻っていった。

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