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20250827 調査報告

 山田さん。

 

 お疲れ様です。

 以前お話をいただいた調査依頼について、僕の方で取りまとめた情報を時系列順に整理しました。


 現時点で僕が調べられそうなのは、ここまでになりそうです。

 これまでにお送りした各種資料と併せて、ご査収のほどよろしくお願いいたします。


 

 【不知水夏慈という人物に関する調査結果】


 山田さんが探していた不知水夏慈氏は、■■県■■市苗海庫町の出身の人物です。

 少しくせのある性格だったらしく、町の住人の中には氏を嫌っている人も多かったとのこと。

 とくに皆が大事にしている町伝統の「治水の祭事」や「水神サマの加護」に冷笑的な態度を取っており、それが反感を買っていたようです。


 そんな彼には伍堂院氏という同年代の友人がいました。

 人当たりが良く、町の有力者の家系だったからか、不知水氏とは逆に人望があったようです。


 2022年8月25日、当時まだ無職だった不知水氏は伍堂院氏と連れ立って海に出かけました。

 聞き込みによると二人は釣りが趣味だったらしく、伍堂院氏が小型船舶の免許を持っていたそうです。


 そしてご存知のとおりその日、船の機材トラブルと天候の悪化が重なって、彼らは海上遭難したのです。


 その三日後、不知水氏は救助されましたが、伍堂院氏の身柄が発見されることはありませんでした。

 町の人たちはたいそう悲しみ、そしてやり場のない感情の矛先を不知水氏に向けました。

 

 「伍堂院氏は、船上の水や食糧を独占しようとした不知水氏によって、海へと突き落とされたのだ」と。

 そんな噂がまことしやかに町中に広まり、信じられるようになったのです。


 それは単なる憶測でしかなく、警察も不知水氏を逮捕することはありませんでした。

 ただ不知水氏は、その三か月後に町から姿を消すこととなります。

 おそらくは、町の人々との軋轢に、心が耐えられなくなったのでしょう。


 2022年11月、不知水氏は■■県から離れた○○県に移り住み、有限会社アグアマラの契約スタッフとして働くことになりました。

 ウォーターサーバー販売員として成果報酬制の業務委託契約を締結し、成績はそれなりに優秀だったようです。


 その働きぶりが評価されたのか、氏は正社員ではないにも関わらず2023年6月に放映された地方テレビ局制作のドキュメンタリー番組に、会社の営業販売員の代表として出演することになります。


 その番組は五分程度の構成で、家庭に水を届ける販売員の仕事ぶりを紹介する内容でした。

 番組内では帰宅後に氏の自宅が映る場面があり、「かつて釣りが趣味だったが今はもうやっていない」と語る一幕もありました。

 なお部屋の中には会社支給のウォーターサーバーが映っていて、これは後述する話に少し関わってきます。


 さて。

 この番組がオンエアされて少し経った7月あたりから、ネット上の様々なクチコミサイト上で、アグアマラの不評レビューが増えるという事態が発生します。

 その内容は「ウォーターサーバーから異常な水や髪の毛が出る」「夜にサーバーから謎の声が聞こえる」といったオカルトじみたものでした。


 同時に会社の方にも、不知水氏を名指しした奇妙なクレームが多発。

 最初は会社側も無視していたようですが、次第に販売売上もどんどん下がっていき状況は悪化。

 最終的には2023年7月、事態の鎮静化のため不知水氏が委託契約打ち切りにされる運びになったようです。


 それ以降の不知水氏の行方については、詳しいことは分かっていません。

 ネット上では2024年1月頃から追い打ちのように、動画サイト上で氏を告発する広告が目撃されるようになったようですが、本人の足取りについては明確な情報が見つかりませんでした。

 

 ただ、その行く末を示唆する情報が一つあります。

 2025年7月に動画サイトに投稿された、とある事故物件を紹介する動画。

 

 そこに映っていた事故物件で亡くなった住人というのが、どうも不知水氏のようなのです。

 テレビ番組に出演していた際に映っていた氏の住居と見比べると、アパートの外観や家具のレイアウトなどが非常によく似ていました。

 事故物件の部屋には、テレビにも映っていた会社支給のウォーターサーバーと全く同じ機械がありました。


 これは偶然とは考えにくく、事故物件の大家も証言していることから、ほぼ確実でしょう。

 すでに不知水氏は、契約切りされてから二年の間に亡くなってしまったものとみられます。

 

 動画内の解説が正しければ、氏は部屋で餓死したとのこと。

 新しい職が見つからず、食費が尽きてしまったのかもしれません。


 以上。

 不知水氏に関する調査結果のご報告となります。

 ここまでは調べた情報をもとに、なるべく事実ベースでお伝えしてきました。


 そしてここからは、僕の推測を大いに交えた話をさせてください。


 

 【不知水氏の身に、いったい何が起こっていたのか】


 結論から申し上げれば、不知水氏はなにかに呪われ祟られていたのではないかと僕は考えています。


 なにか、というのは苗海庫町で崇拝されているらしき「水神サマ」か。

 あるいは、不知水氏によって海へと突き落とされたという伍堂院氏の怨念か。

 どちらか、かもしれないし、ひょっとすると両方なのかもしれません。


 氏はそういったものに呪われてしまったことで、その人生を崩壊させていった。

 そう考えると、いくつかの奇妙な出来事にも説明がつくように思うのです。


 なおこの説を提唱する以上、私は苗海庫町の住人達や件の告発広告の言い分、つまり「不知水氏が伍堂院氏を海上で殺した」という話が真実であるという前提で話を進めます。

 そしてその罪ゆえに、彼は呪われてしまったのです。


 おそらく不知水氏は、故郷の町を離れて人生を再スタートするために○○県へ引っ越し、就職しました。

 しばらくは順調に働いていたようですが、それも長くはつづきませんでした。

 すでにご報告しましたとおり、氏の勤めている会社が奇妙な風評被害に遭うようになったのです。


 ウォーターサーバーから変な水や髪の毛が出てくる。

 夜になるとサーバーから謎の声がする。

 そんな、悪戯としか思えない低評価レビューやクレームの数々。


 それらはもしかしたら、本当にあったことなのかもしれません。

 不知水氏が販売した製品が、氏に降りかかった祟りによって霊障を引き起こしていたのではないでしょうか。


 きっとそれは伍堂院氏の怨念による復讐、あるいは町の人が言っていた「水神サマの天罰」そのもの。

 そのせいで会社に損失を与えることになった不知水氏は、会社を追われてしまったのです。


 そしてそれ以降もおそらくは祟りによって人生が上手くいかなくなった不知水氏は、その日食べるものも手に入らなくなり、ついには自宅で空腹のなか死んでいったのです。

 奇しくも氏の部屋には、飲料を提供するウォーターサーバーだけは残っていたようですが、水だけでは生きていけなかったのでしょう。

 

 船上の水を独占するために伍堂院氏を殺めた不知水氏にとっては、皮肉な最後なのかもしれません。


 さて。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

 最後の方の記述は、あくまで僕の主観と想像による「あったかもしれないお話」ですのでご了承ください。

 いろいろと残っている謎もありますので、自分でも正しい推測だとは思っていません。


 山田さんのほうにおかれましては、僕の調査した事実に基づいてご自身でも思索いただければと存じます。


 そういえば山田さんは、不知水氏の例の広告を見て「どこかで見たことがある人だ」と感じたのですよね?

 アグアマラの営業エリアが○○県周辺らしいのですが、お近くに住んでたりしませんか?

 もしかすると、不知水氏の販売訪問を受けたことがあったりして。

 

 とりあえず僕が自力で調べられそうなのは、ここまでです。

 これまでのご報告が役に立つものだったかは分かりませんが、少しでも参考になれば幸いです。

 もしなにか気付いたこと、思い出したことなどあれば教えてくださいね。


 この一連の調査に関しては、山田さんがお電話で希望されていた通り、現在進行形でウェブ小説サイトに投稿しています。

 僕としても、水に関するホラー話に着地できたので満足ですし、いろいろと取材したものをこういった報告にまとめるのは大変ながら貴重な体験でした。

 

 こういった機会をくださり、本当にありがとうございました。


 

 2025年8月27日

 報告終了

 

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