前書き
あの奇妙な依頼を受けたのは、僕にとっては渡りに船でした。
皆さんも知っての通り、「小説家になろう」では今この時期に公式企画「夏のホラー2025」を開催しているじゃないですか。
今年のテーマは「水」。
ものすごくシンプルで、それゆえに作者の発想が試されるお題ですよね。
僕のなろうデビュー作は「夏のホラー2021」で投稿した中編作品。
その時のテーマは「かくれんぼ」だったんですが、その時に書き上げた作品がかなり「水」を意識したものでした。
雨とかダムとか湖とか水中怪異バトルとか、そういった水の要素を存分にぶちこんだんです。
ということはつまり、「水」に関するアイディアはとっくに使い果たしたわけです。
新しいアイディアなんて、僕なんかにはそうそう思いつきません。
そういうわけなので、今年の企画参加はスルーするつもりだったのです。
だったのですけど、ね。
潮目が変わったのは、ついこの間。
八月中旬の頃でした。
当時の僕は「夏のホラー2025」の不参加を決め込んでいたくせに、心のどこかでは未練がましくネタを考えていました。
周囲の知り合いにも、「水をお題にしたホラーでなんかいいアイディアない?」って聞いたりして。
したら。
そしたら。
なんか知らない人からメールでコンタクトがあったんですよ。
「小説のネタを探してるやつがいる」って僕の知り合いから聞いたらしく、わざわざ連絡をくれたんです。
メールには、要約するとこんなことが書いてありました。
「○○さんからあなたのことを聞かせてもらった、山田というものです。私はある奇妙なモノを調査しています。あなたが水に関する怖い話を探しているということで、もしかしたら調査仲間になってくれるかもしれないとおもって連絡しました。もし興味があったら連絡をくれませんか? よろしくお願いします」
このおそらく仮名であろう山田氏なる人物は、いったい何者なのか。
調査仲間というのは、いったいなんの話なのか。
文面から推測するに、「ネタを提供してやるからこっちの調査を手伝ってよ」ということなのでしょう。
○○さんに確認すると、どうやら旅行中に▲▲県で知り合った飲み仲間とのこと。
良いヤツだから協力してあげてよと言われたので、どうやら怪しい詐欺や勧誘ではないらしい。
とりあえず山田氏とやらに連絡をしてみることに。
まあ、小説のネタになるならなんでもいいや。
そんな軽い気持ちでした。
そういう意味で、渡りに船だったのですね。
さて。
結論から言えば、僕は山田氏と会って彼の調査に協力しました。
この作品は、その調査時に作成したいくつかの記録用メモを一部抜粋、再構成したものになります。
物語としての小説ではなく、単なる調査資料の公開という形式です。
最近はこういうドキュメンタリー風小説というのも需要があると聞くので。
最初に言ってしまいますが、全体の内容としてはあまり怖いものではありません。
さらにネタバレにもなりますが、オカルトホラーではないですし、刺激もそこまで強くないです。
ただし露悪的でセンシティブな内容を含むため、「夏のホラー2025」に投稿するのは躊躇われました。
そもそも改めて読み返すとこれはホラーではなく、イヤミス(読んだら嫌な気分になるミステリー作品)というやつに近いのではという気もしますし。
ですが山田氏の強い希望により、また僕としても作品供養のつもりで、本作の公開を決めました。
言葉として適切かどうかはわかりませんが、楽しんでいただければなにより幸いです。
【8/28(木)22:29 一部を加筆・修正済み】