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魅惑の幼き魔女 西田宏美編(終)

――西田宏美とはもう連絡を取っていないのでしょうか。

「ないですね。とっくに隠居されているはずですし、今野会長から今後一切関わりを持つなと通達が出ていますから」

――それは全棋士にですか。

 「いえ、その事件に関わっていた人物にですね」

Yはぶっきらぼうに答える。そうして当時を思い出したのか、徐々に態度が変わっていった。ここからは記載を控える。まとめると、西田宏美についてはやはり消息不明。Xについての悪口がほとんどで取材は終了した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

編集部からのお詫び。


日本将棋連合様からの指摘を受けまして、本文記事の内容を一部削除いたします。

日本将棋連合様はじめ、関係各位様に多大なご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



ここまで取材を重ねても、西田宏美本人の声に辿り着くことはできなかった。消息不明、隠居、名前を変えた――どれも確証はなく、確かなのは「将棋界から完全に消えた」という事実だけである。意図的にそう扱われてきた、と言い換えてもいい。

彼女が退会した1990年前後の日本将棋連合の規定を改めて読み返してみると、ある共通点が浮かび上がる。規定はあくまで「棋士の品位保持」を掲げているが、実際に処分の対象となるのは、常に表に出やすい立場の者だった。とりわけ女流棋士は、実力とは無関係に「イメージ」を背負わされる存在であり、不祥事が起きた際にはその受け皿にされやすかった。

今回の件でも、刃物を持ち出し重傷事件を起こした現役棋士は表舞台に残り、中心にいたとされる女性だけが将棋界から抹消された。法的責任と業界内処分が乖離している点について、誰も公に説明することはなかった。その沈黙こそが、この世界のルールなのだろう。

取材を進めるほど、私は奇妙な感覚にとらわれた。真相に近づいているというより、むしろ見えない壁に沿って歩かされているような感覚である。一定のところまで行くと、誰もが同じ言葉で口を閉ざす。「それ以上はやめたほうがいいですよ」。冒頭で投げかけられた忠告は、取材を終えたいま、ようやく実感を伴って理解できた。

この原稿には、書けなかったことが多すぎる。名前、具体的なやり取り、そして私自身が聞いてしまった生々しい言葉の数々。それらを伏せたままでも、十分に伝わってしまう事実がある。それは、将棋界において西田宏美という存在が、個人ではなく「処理された案件」として記憶されているということだ。

彼女がいまどこで、どのような人生を送っているのかはわからない。ただ一つ言えるのは、19歳で将棋界を去ったその瞬間から、彼女は誰にも語られない存在になったという事実である。この章で描けるのは、そこまでだ。


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