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魅惑の幼き魔女 西田宏美編(5)

――どなたと仲がよかったんですか。

「まあ」

そういって日本酒を一口、また一口とあおった。くっと振り上げた腕を下ろすと、御猪口の中身は空になっていた。次の言葉を待ったがなかなか口を開かない。間が持たずに御猪口に徳利を注ぐ私。それまでは「どうも」や「すみません」と会釈をしたX、この時は無言を貫いた。

「なぜこんな話題をしているのでしょうか」

Xはハハハと笑った。私もつられて笑ってしまったが、そのまま別の話題に流されそうだったのを気づかないわけがない。更なる追及をしようとなるべく自然な雰囲気で言葉を続けた。

――○○さんとか○○さんですか。

その挙げた2名はXと親交のある棋士としてファンにとっても有名だが、後者はZが重傷を負わせた被害者の棋士である。

「まあそんなとこです」

文字にすると変化がわからないかもしれないが、Xは早口になって流そうと必死になっているように見えた。顔全体は笑っていたが、目の奥はそうでなかった。それが私に対する静かな圧であった。そして軽く咳払いし、御猪口を1回喉に流し込んでからまた咳払いをした。

これ以上、自然に追及するのには何か思いきった踏み込みを見せなくてはならない。酔ったふりをして西田宏美の名前を口にするかをまず考えた。その反応を見てみたかったが、あいにく私は相当な量の酒がないと酔っぱらった姿にならないのだ。それはXも知っている。歳のせいだと誤魔化して演技してみるか。ちょうど浪漫飛行を一節歌ったばかりだ。本当はこれっぽっちも酔っていない(2合しか開けていない)のだが、会計が向こう持ちとあっては次から次に酒を頼むことは憚られる。やるならここが頃合いか。

――そういえば昔―

そう言いかけたところでXは席を立った。恐怖だった。まさかナイフを隠し持っていてなんてのも脳裏をよぎったほど。だがトイレだったらしく、その心配は皆無だった。だがこれ以上、昔の話をしてほしくないと牽制しているようでもあった。ちなみにXが席を立たずにいた場合、続けていた言葉は「きれいな女流棋士がいましたよね」だった。まだ彼女の名前をダイレクトに言う勇気はなかった。それこそ、Xの反応を見て自身の安否が大丈夫とあれば出すつもりではあったが。

トイレから戻ってきたXは突然急用ができてしまったと私に詫びを入れ、急遽お開きになってしまった。よっぽど西田宏美の名前を出してしまおうか迷ったが、恐らく口を開いてはもらえなかっただろう。そのまま逃げるように会計を済ませ、手配していたタクシーに乗り込んだ。ここで解散。私は歩いて最寄り駅に向かった。


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