魅惑の幼き魔女 西田宏美編(4)
「ざっくりといえば人間関係です」
なるほど。しかしその予想はしていた。それだけではまだ何が退会の要因になったのかはっきりしない。
――今野会長と確執があったのですか。
「いえ……」
続くH氏の言葉を待ったが、下を向いたまま苦悶の表情を浮かべたまま時が流れていった。そしてようやく絞り出した発言。それが今回の核心を突くことになる。
「いまの現役棋士との恋愛関係があったんです……西田宏美は複数人と関係を持っていました。その相手の名前は言えません。それで、まあ……ある棋士が同業者の、もう一方の棋士に向かってナイフで……、切り付けたんです。頭部に重傷を負わせましてね。この時点でもきつい話なのですがさらに続きがあります。でもこれは絶対に言えません。それらを総合的に判断して、当時の会長は西田宏美を退会処分にしたのです」
衝撃的な回答だった。
西田宏美と関係を持っていたのは現役棋士2名、引退棋士1名。3股関係にあった。引退棋士はその事件とは関係なく、成績下降によって余儀なくされたもの。また、ナイフによる加害者、被害者ともに現役棋士であった。
ただ、現役棋士2名の名前を知り、やはりここでは書けないことを確信した。いまとなっては時効だが、刑事事件もあったわけで、到底掘り起せるものではない。人間関係のいざこざなんて甘いものではなかった。それを連合がもみ消したのだった。
このまま事の顛末を書いたところでふと疑問が湧いた。なぜナイフを使用して重傷を負わせた棋士は退会処分にならなかったのか。普通ならば逮捕案件である。私は突如生まれた正義感という上っ面のジャーナリズムで直接アポを取った。表面上は別の話題として打診したわけだが、間違いなく事件についても切り込むつもりであった。いきなり例の話について語ってほしいなんてお願いじゃ却下されるに決まっている。しかしそういった騙すような手口は禁断の手でもある。
場所は書けないが、風格のある料亭で顔を合わせた。一席数万ほどのコースである。しがないライターの私では到底足を踏み入れることはできない場所だ。ここでは相手の棋士は「X」とさせていただく。Xは長年務めているだけあってお金に余裕があるようだった。別件で縁があったのを覚えていてくれたのでご馳走していただくことになった。気丈な振る舞いは到底、ナイフで人を切り付けたようには見えない。
――先生、最近また私は浪漫飛行をよく聴いているんですよ。
「懐かしいですね」
――トランク一つだけで~ってね。
「当時はCMでよく流れたものです。カラオケで歌いましたね」
浪漫飛行は米米CLUBの代表曲。1990年に大ヒットした。当時の事件と同じ年に流行した曲を挙げ、ほんのりと核心に1ミリ近づいてみる。幸い、まだ立腹された様子はない。
――先生は当時カラオケによく行かれたんですか。
「あのくらいの年はよく行きましたよ。女性はプリンセスプリンセスやWinkをよく歌っていました。私は下手なんで何を歌っていたかは忘れましたけど」
ーー棋士同士で交流はあったんですか。
「まあ、いろいろとありましたね」
じりじりと私も詰め寄り、なんとなく話せそうな雰囲気が出てきたように思えた。




