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第3話

「神戸に来たわけだけど……」

「なんで神戸?」

 神戸の街の海沿いのコートで鷹が呟く。その横で、茄子が富士に尋ねる。

「え……大都市だし」

「堺も京都も大きな街だったじゃないの」

「なんというか……おしゃれな感じがするじゃない?」

「おしゃれ?」

「ええ」

 富士が頷く。

「まあ、そう言われると……」

「おしゃれな殿方と出会えるかなって……」

「おしゃれねえ……」

「なーちゃん、おしゃれは重要ポイントじゃないの?」

「いやいや、大事なところではあるわ」

 富士の問いに茄子が首を左右に振る。鷹が口を開く。

「おしゃれは結構だけど……」

「うん?」

「中身が伴っていなければ何の意味もないわ」

「ほう……」

「試合の時間だって言うのに、全然遅れているじゃないのよ」

「ちょ、ちょっとばかりルーズかもね……」

 富士は苦笑する。

「20分遅刻はちょっとばかりじゃないのよ」

「チャオ! お待たせしたね♪」

「うん?」

 そこに白人の男性、黒人の男性、ラテンアメリカ系の男性がやってくる。富士が笑顔で応対する。

「いいえ、私たちも先ほど来たばかりですから……」

「……」

「な、なにか?」

「素敵な女性たちだね……バスケなんていいから、お茶でもどうだい? 素敵なカフェを知っているんだ」

 白人男性がウインクする。

「おい、ダミアン……」

「なんだよ、サムエル?」

 ダミアンと呼ばれた白人男性が黒人男性に応える。サムエルと呼ばれた黒人男性が真顔から、笑顔になる。

「良い考えだ、是非そうしよう」

「はは、話が分かるね♪ アントニオはどうだい?」

 ダミアンがラテンアメリカ系の男性に話を振る。アントニオと呼ばれたラテンアメリカ系の男性が応える。

「反対する理由があると思うか?」

「よし、決まりだ」

 アントニオの言葉にダミアンは頷き、コートから出ようとする。

「ちょ、ちょっと待った!」

 鷹が慌てて止める。

「ん?」

「わたしたちは3on3の試合をしに神戸までわざわざきたのよ。呑気にお茶を飲みにきたわけじゃないわ」

「ふむ……どう思う? サムエル?」

 ダミアンは腕を組んで、サムエルに尋ねる。

「正直言って……試合をするモチベーションが湧かないな……」

「なっ……?」

「だって、やる前から結果がはっきり見えているからね……」

「……なんですって?」

「悪いが、君たちのような女の子たちには負ける気がしないからね」

「サムエルに同感だ」

「うん、僕もだ……」

 アントニオとダミアンが頷く。

「い、言ってくれるじゃないの……」

 鷹が唇を軽く噛む。

「では、条件を出しましょう……」

「条件?」

 富士の言葉にダミアンが首を傾げる。

「試合をして私たちが負けたら、お茶なんて言わずに、飲み会にでもなんでも付き合いますわ」

「! ほう、なんでも……」

 ダミアンたちの顔色が変わる。茄子が慌てる。

「ふ、富士お姉ちゃん!?」

「まあまあ……」

「まあまあって……」

「その言葉、信じていいんだね?」

「くのいちに二言はありません……!」

「くの……? なんだって?」

 ダミアンが首を傾げる。

「いえ、それはどうでもよろしい……どうされますか?」

「良いだろう。試合をしようじゃないか」

「良かった……それじゃあ、10分後に試合開始しましょう」

「分かった」

 両チームがそれぞれアップを始める。

「国際色豊かなチームね……チーム名は『ストレンジャーズ』……」

「神戸の街らしいでしょう?」

 鷹の呟きに富士が反応する。

「ど、どんなバスケをしてくるのかな?」

「なーちゃん、私たちはいつも通りのプレーをするだけよ」

 不安気な茄子を富士がリラックスさせる。

「……そろそろ試合開始ね……」

「ええ、そうね」

 鷹を先頭に、三姉妹、シスターズがコートに入る。先攻がシスターズになる。ボールを持った富士に対し、鷹が声をかける。

「富士姉、先制パンチをかましちゃおう」

「……」

 鷹の言葉に富士が無言で頷く。試合が開始される。

「富士お姉ちゃん!」

 茄子が声を上げる。富士がそちらに視線を向ける。ストレンジャーズの意識もそちらに向く。

「……!」

 富士がノールックで鷹にパスを送る。鷹は走り込みながら、このパスをしっかりと受け取る。

「ナイス! よし!」

「させない!」

「なっ!?」

 パスの受け取りから流れるような動作でレイアップシュートを放った鷹だったが、高く飛んだダミアンのブロックに阻まれる。ダミアンが鼻で笑う。

「ふふん……」

「な、なんて高さ……」

「イタリアでは有望なバレーボール選手だったからね」

「バレーボール選手……確かに納得のジャンプ力……」

 ストレンジャーズの攻撃の番になり、リードを奪われるシスターズ。また攻撃の番が回ってくる。

「奇襲は失敗……正攻法で! なーちゃん!」

「はい!」

 富士が茄子にパスを送る。ボールを受け取った茄子がドリブルでの突破を図るが、その前にサムエルが立ちはだかる。

「ふん……」

「くっ、隙がない……」

「時間切れになってしまうよ?」

「ちっ!」

 茄子が素早いステップからサムエルをかわしにかかる。一瞬かわしたかと思われたが、サムエルがすぐに追いついて、ボールをスチールする。

「ふっ……」

「な、なんてスピード……」

「セネガルではサッカー選手としても鳴らしたもんさ」

「サッカー選手……確かに納得のディフェンス技術……」

 その後、ストレンジャーズの攻撃の番で再びリードを広げる。シスターズの攻撃の番が回ってくる。ドリブルをする富士が相手の隙を伺う。

「ふむ……」

「……大体分かった」

 富士とマッチアップするアントニオが呟く。

「え?」

「君のプレーの癖がね。これ以上、好きにパスは出させないよ」

「なにを……!」

「はっ!」

「くっ!」

「ふっ!」

「むっ!」

「ほっ!」

「しまった!」

 富士はアントニオの軽やかな動きに逆に翻弄されてしまい、アントニオの伸ばした手でボールをカットされてしまう。アントニオが笑う。

「ふふっ……」

「な、なんてステップ……」

「母国アルゼンチンではタンゴダンサーとして活躍したものだよ」

「タンゴダンサー……確かに納得の舞……」

「いやいや、そこに納得するのおかしいから!」

 富士に対し、茄子がツッコミを入れる。試合はそのままストレンジャーズペースで進み、シスターズは苦戦を強いられる。

「ふふっ、飲み会が楽しみだね~」

「いい料理を出す店を知っている……」

「あそこはワインも良いのが揃っているよな」

 ダミアンたちが揃って軽口をたたく。その様子を見て、茄子が呟く。

「富士お姉ちゃん、鷹お姉ちゃん……」

「うん?」

「なによ、なー?」

「ワタシ、これからの時代、国際交流っていうのも悪くはないかなって思っていたんだけどさ……」

「ええ?」

 富士が目を丸くする。

「でも……」

「でも?」

 鷹が首を傾げる。

「あいつらには負けたくない! くのいちを舐められたくない!」

「そうね」

「まったく同感だわ」

「ワタシにパスを回して!」

「分かったわ」

 シスターズの攻撃の番になり、富士が茄子にパスを送る。

「よし!」

 茄子がドリブルして、アントニオの方に突っ込んでいく。アントニオは一瞬面食らうが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「サムエルはかわせないからって、こちらに来たのかい? 随分となめられたものだね……」

「はああっ!」

「! かなり素早いステップ! だが……ボールはそこだ! なにっ!?」

 アントニオがボールをスチールしようとしたが、空振りする。茄子がいつの間にかアントニオの真後ろに立つ。

「それは残像よ……」

「なっ……」

「忍術、『瞬足』……」

「一人かわしたわよ! その調子!」

 富士が声をかける。

「よおし!」

「スピード勝負なら負けん!」

 サムエルが茄子を止めにかかる。

「……!!」

「ははっ、さっきよりスピードが落ちているようだね……完全に捉えたよ! ……なにっ!?」

 茄子の動きを見極め、ボールをスチールしたと思ったサムエルだったが、手にしたのは木の丸太だった。サムエルの真後ろで茄子が呟く。

「忍術、『身代わりの術』……」

「二人目! もうそのまま突っ込んじゃなさい!」

「うん!」

 鷹の言葉に力強く頷きながら茄子がゴールへと突き進む。

「そうはさせないよ!」

 茄子の前にダミアンが立ちはだかる。

「……はっ!」

「芸のないレイアップシュートだね! 僕のジャンプ力の前ではまったくの無意味! ……なんだと!?」

 ジャンプしてシュートを阻もうとしたダミアンだったが、茄子が姿を消す。茄子は地面に潜り込んで、ダミアンをかわした。

「忍術、『地遁の術』……!」

「し、下から抜いただと!? あ、ありえない!」

「それっ!」

 地面から出てきた茄子がレイアップシュートを確実に決める。この茄子の一連のプレーでシスターズは試合のペースを握り、逆転勝利を収める。

「勝った!」

「やった!」

「よくやったわ、二人とも!」

 富士が自らに抱き着いてきた鷹と茄子を讃える。

「まあ、今日のところはなーのお陰でしょう」

 鷹が茄子に向かってウインクする。

「で、でも良いのかな? 忍術使いまくっちゃったけど……」

 茄子が急に不安気な顔になる。

「揉め事になる前に失礼しましょう……ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「あ、ありがとうございました……!」

 富士たちはストレンジャーズに礼を言って、その場を後にする。この一戦の様子はネットで瞬く間に拡散され、3on3バスケットボールシーンでシスターズの存在は日に日に大きいものになっていくのを三姉妹はこの時点ではまだ知る由も無いのであった……。

お読み頂いてありがとうございます。

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