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第2話

「伝統ある京都の街中にもこういうバスケコートがあるとはね……」「ちょっと意外な組み合わせだよね」

 鷹の呟きに茄子が笑みを浮かべて反応する。

「それにしても富士姉、ずいぶん待たせる相手じゃないの?」

 鷹が富士に尋ねる。

「う~ん、そろそろ来るころだとは思うけどね……」

 富士がスマホを確認しながら答える。

「女を待たせるなんてロクでなしな男たちね……」

「……言ってくれるじゃねえか……」

 男の声がする。鷹が振り返る。

「やっと来たわね……!」

 鷹が驚く。イケメンの男性がそこには立っていたからである。

「? なんだ?」

「い、いや、今日はよろしくお願いします……!」

 鷹は頭を下げる。イケメンはため息をつく。

「はあ……よろしくお願いされてもな……」

「え?」

「まさか女のチームとは……相手にならねえじゃねえか」

「そ、そうかもしれません……」

「ちょ、ちょっと、鷹お姉ちゃん! なにを言っているのよ! あなた! ワタシたちのこと舐めないでもらえる!?」

 大人しくなった鷹に代わり、茄子がビシっとイケメンを指差す。

「そうですよ、菱形さん……」

「はっ!?」

 茄子が驚く。中性的な整った顔の男子が颯爽と現れて、イケメンに声をかけたからである。

「時田……」

 菱形と呼ばれたイケメンが振り返る。時田と呼ばれた男子が笑みを浮かべながらウインクする。

「このお三方は、堺で鳴らしているあのチームを破ったんですから……」

「い、いや、単なるマグレですよ……」

 茄子が照れくさそうに自らの後頭部をポリポリと搔く。富士が戸惑う。

「な、何を言っているの、なーちゃん、謙遜している場合じゃ……」

「今日は胸を借りるつもりで臨まなくてはな! はっはっは!」

「うっ!?」

 富士が驚く。精悍な顔つきをした男性が屈強そうな体を揺らしながら豪快に笑っていたからである。

「権藤さんもそう言うなら……分かった。いつものように、勝つために最善を尽くすまでだ」

「うむ、そうこなくてはな!」

 菱形の言葉に権藤と呼ばれた男性は満足そうに頷く。

「あ……」

「それでは今日はよろしくお願いいたします!」

「あ、は、はい、よろしくお願いいたします……」

 権藤から握手を求められた富士は若干恥ずかしそうに握手に応じる。

「それじゃあ、準備が出来次第、試合開始といこうか」

「は、はい……」

 菱形の言葉に応え、富士たちはその場から少し離れる。

「なかなかのイケメンね……」

「中性的な雰囲気、良い……」

「精悍でたくましい殿方……」

「「「!」」」

 三姉妹はそれぞれの顔を見合わせる。鷹が声を上げる。

「ちょ、ちょっと! ちゃんと試合に集中してよね!?」

「そ、それはこっちのセリフだし!」

「ふ、ふたりとも、変な言い争いはやめましょう……」

 富士が鷹と茄子をなだめる。しばらくすると、試合が開始される。男性たちが先攻である。菱形がゆっくりとドリブルを開始する。

「菱形!」

 三人の男性の中でも大柄な権藤がパスを要求する。素早い動き出しだ。

「マーク!」

 富士が指示を出す。

「OK!」

「任せて!」

 鷹と茄子が権藤を挟み撃ちにするように動く。体格などで劣る分を人数でカバーする考えだ。

「ふっ……!」

「あっ!?」

「しまった!」

 菱形がノールックでパスを出す。権藤とは反対側に走り込んでいた時田にボールが渡る。

「ナイスパス!」

 パスを受け取った時田は淀みない動きでレイアップシュートを決める。富士らシスターズは先制を許してしまった。鷹が顔をしかめる。

「くっ……」

「ドンマイ、ドンマイ、取り返していきましょう」

 富士がポンポンと両手を叩き、声をかける。ボールが富士に渡り、富士はドリブルを開始する。

「富士お姉ちゃん!」

「なーちゃん!」

 富士が茄子にパスを送る。

「よし! !?」

 茄子がボールを持つと、マッチアップしていた時田だけでなく、菱形も近くまで迫ってきていた。茄子は面食らう。

「取れるぞ、時田!」

「ええ!」

「お、おおっと!」

 時田が素早く手を伸ばしてきたが、茄子はなんとかボールを捕られないようにする。茄子がコート内を見回す。富士がフリーの状態だ。だが、富士へのパスコースは菱形が巧妙に消している。茄子は内心、舌打ちをして、ゴール近くにポジションを取った鷹にパスを送る。

「……よし! なっ!?」

 パスを受け取った鷹が戸惑う。マッチアップしていた権藤だけでなく、時田と菱形も素早く距離を詰めてきて、鷹をあっという間に囲んだのだ。

「シュートに気をつけろ、パスはない!」

「おう!」

 菱形の言葉に権藤は頷く。

「くっ……」

「時田!」

「はい!」

「うおっと!」

 時田の鋭いディフェンスだったが、鷹はなんとかボールをキープする。

「もう12秒経過するぞ!」

「ちっ!」

「ふん!」

「ああっ!」

 鷹が苦し紛れに打ったシュートはジャンプした権藤にはたき落とされる。こういった調子で試合は進み、シスターズはリードを許す展開になる。

「くっ、攻守両面で常に数的優位を作られてしまっている……」

「ほう、そこに気がつくとは、思ったよりはやるな」

 富士の呟きに菱形がニヤリと笑う。

「なんですって?」

「どのような局面でも常に人数をかけて対応する……それが俺たち、『新誠組しんせいぐみ』の戦い方だ」

「人数をかけて……」

「ああ、このやり方で京都でも名を挙げた……」

「ならば……」

「体力切れを狙っても無駄だぞ?」

「む……」

「ハーフコートを10分間動き回るくらいなんでもない。それしきでへばるほどヤワな鍛え方はしていないからな……」

「ぬう……」

 富士が唇を噛む。そこに鷹と茄子が近寄ってくる。

「富士姉……」

「富士お姉ちゃん……」

「どうしたの?」

「正直好みなイケメンだけどさ、あの菱形って人……」

「ぶっちゃけストライクな感じだけど、あの時田って彼……」

「ふ、二人とも、いきなり何を言い出すの?」

 富士が困惑する。茄子が問う。

「……富士お姉ちゃんは?」

「え、ええ?」

「どうなの?」

「い、いや、なかなか好ましいわ、あの権藤さんって方……」

「そう……」

「ただ……」

「ただ?」

「このまま負けるのはちょっと癪に障るわね……」

「ふふっ……」

「ははっ……」

 富士の言葉に鷹と茄子が揃って笑う。

「ギアを上げて行くわよ……!」

「オッケー……!」

「そうこなくっちゃ……!」

 富士がボールを持ち、鷹と茄子が散らばる。富士がドリブルを始める。

「ふん……」

「それっ!」

 富士がボールを投げる。しかし、そこには誰もいない。菱形が笑う。

「ふっ、やけくそになったか……なにっ!?」

 コート外に出るかと思われたボールがバックスピンをして、コート内に戻ってくる。そのボールを茄子が素早く拾い、レイアップシュートを決める。

「ナイス! なーちゃん!」

「富士お姉ちゃんもナイスパス!」

 富士と茄子がハイタッチをかわす。新誠組の攻撃を経て、再びシスターズの攻撃の番になる。富士がドリブルを開始する。

「……さて」

「富士姉!」

 鷹がボールを要求しながら、動き出す。菱形が声を上げる。

「権藤さん!」

「任せろ!」

 権藤が鷹についていこうとする。そこに富士がパスを出す。

「……」

「止まった!?」

 立ち止まってボールを追うのをやめた鷹に戸惑う権藤。

「ふっ……」

「なにっ!?」

 ボールが急激に曲がり、鷹はそれをキャッチする。権藤は裏をかかれた格好となる。菱形も驚く。

「カ、カーブボールだと!?」

「それっ!」

 鷹が落ち着いてシュートを決める。この後は、富士の多種多彩なパスワークによって、新誠組の守備がことごとく翻弄され、ついにシスターズのマッチポイントを迎える。

「ふう……」

 富士がゆっくりとドリブルを開始する。

「権藤さん! 時田!」

「おう!!」

「はい!!」

「むっ……」

 マッチアップする菱形だけでなく、権藤も時田も富士のマークにつく。3対1の構図である。菱形が叫ぶ。

「見事なパスセンスだ、だが、パスを封じてしまえば良いだけのことだ!」

「……そう来ましたか……」

「ドリブルで突破出来るものならしてみろ!」

「忍術……」

「ん?」

「『分身の術』!」

 富士が四人に分身する。菱形たちが驚く。

「な、なんだ!?」

「それっ!」

「はいっ!」

「お願い!」

「任せて!」

「!」

「!!」

「!?」

 四人に分身した富士が見事なパスワークで、菱形たちのマークをかいくぐってみせる。富士はゴール下で止まり、丁寧なジャンプショットを放つ。ボールはゴールに決まる。21点目、シスターズの勝利である。

「やったあ! さすが、富士姉! まさか自分自身にパスをするとは……その発想は無かったわ!」

「ふふっ、自分で自分を褒めてあげたいわ……」

 抱き着いてきた鷹に対し、富士が笑みを浮かべる。

「ル、ルール的に良いのかな~?」

 茄子が戸惑い気味に首を傾げる。

「さっさとお暇しましょう……本日は試合、ありがとうございました!」

 富士の言葉に従い、相手に礼を伝えた三姉妹はコートをそそくさと後にするのであった。

お読み頂いてありがとうございます。

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