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5 伯爵の憂鬱。

 あの出来事の唯一のメリットは、このソウと言う侍女と関わる機会が増えた事だろうか。


『嫌か』


「お花は、流石に」

『使用人部屋にしても飾り気が無さ過ぎる、以降、全員に好きな花を飾らせる様にする』


「あぁ、はい」

『色が気に入らないか』


「あの、薔薇を贈るのは、流石にどうかと」

『弁えているのは結構だが、コレは見舞いの品だ、寧ろ誤解する方がどうかとは思わないか』


「いやー」

『率直に言え』


「コレは流石にダメですよ」


 率直に言えと迫れば、直ぐに素直に言う。

 令嬢達とは全く違う。


『分かった、ならコレは良いか』


「私、お花の事は、侍女長に」

『緑色のリシアンサスは良き語らい、友情の花だ』


「あぁ、ではコチラで、ありがとうございます」

『但し、令嬢はこの緑色が気に食わないらしい、どう思う』


「良い色だと思いますけどね、花らしくないから好まれないのかと」


 渡すフリをし取り上げても、こうして特に気にもせず話を続ける。

 令嬢なら、涙を浮かべそうだが、彼女は全く気にしない。


『どんな色なら好むと思う』


「やはりピンク色や、白や黄色、ですかね」

『黄色や白もあまり好まれないらしい、そこらに良く有るから、だそうだ』


「ならピンクだって有るには有るじゃないですか」

『だな』


 私もそう思うが、やれ真剣に選べだ何だと愚痴を言う。

 結局は、如何に自分の都合良く動くかの試し行為、単なる駆け引きだろうに。


 それを愛だの何だのと、全く意味が分からない。


「大変ですね」

『気に入ったか』


「はい、いっそ私は緑と白の花束の方が好きですね、植物を貰うなら植物らしくても良いじゃないですか」

『あぁ、だが華やかさや印象付けたいなら、どうすれば良い』


「私なら青ですが、ご令嬢は赤や紫ですかね」

『赤や紫な』


「派手ですけど、間違えると上品さに欠けそうで。花束の作り手次第、なんですかね?」

『あぁ、では1度自身用に、もし令嬢ならばで見繕って来い』


「はい、畏まりました」

『ではな』


「はい、ありがとうございました」


 令嬢に率直に言えと言ったとて、ココまで言う事は稀だ。


 媚び諂うか遠慮するか、だけ。

 健気さを装いたいのは分かるが、私の要望とは違う。


 その点、彼女は優秀だ。

 詮索せず疑わず、媚び諂う事も無く、素直で弁えている。


『空きの有る令嬢にも、ソウの様な者が居れば良いんだがな』

《優秀な者程、既に相手が決まっているか。例え空きが有ったとて、何かしらの問題を抱えている可能性が有る、だろう》


『もう少し、早く出世すべきだったろうか』

《いや、そうなれば今度は女に対して幾ばくか不勉強になっていただろうな。仕方無い、お前は人種、時間に限りが有る》


 前世をハッキリと認識して直ぐ、以前の生家を調べたが。

 その痕跡は僅かだった。


 だからこそ、功績を残したかった。

 お前は見誤ったのだと、あの祖母に知らしめる為に。


『成人前にはケリを付ける』

《あぁ、手伝ってやるとも》




 俺と坊っちゃんの関係は、幼い頃の契約から始まった。

 珈琲の香りを嗅ぎ卒倒し、面白半分で見ていたが、目を覚ますと真っ青になり震え出した。


 守ってやらないと、コイツは良くも悪くも育つ。


 良い勘が働いた。

 実際に良い男に育った。


『どうだ』


 ただ、女に関しては趣味が悪い。


「困ります、何処に着て出掛けろと」

『バレエか演劇、どちらが良い』


「えっ」

『どちらも嫌か』


「いえ、あ、演目は」

『かぐや姫かサロメだ』


「かぐや姫」

『気に入らなければ出れば良い、それとも仮面舞踏会にでも出るか』


「無理ですよ、お世辞でも声が掛からなかったら、それこそ死んでしまいます」


『どうする』


 この女は、良く弁えているからこそ、悩んでいると言うのに。

 坊っちゃんは無意識に無自覚に、楽しんでやがる。


「かぐや姫でお願い致します」

『分かった』


 ほらコレだ、コチラを見ないだろうからと、嬉しそうにエスコートしやがって。

 しかも、この女が1人で行くつもりだと分かった上でだ。


「あの」

『私も観るが』


「え、何故です?」

『女を1人では行かせないモノだ』


「あぁ、では、知り合いに」

『私が同伴者では不満か』


「いえ、ですがお忙しいでしょうし、万が一にも誤解が有っては」

『私は構わない』


 あぁ、この他とは違う反応が好ましいのは分かるが。

 この女に、本当に特筆すべき何かは無いんだぞ。


「そんな、まだ人生を諦めるには」

『諦めているつもりはない、お前は良い女だ』


 触れて相性に気付いたか。

 馬鹿者が、この女では大して成り上がれないぞ。


「ありがとうございます」

『世辞では無い』


「他の方をお探し下さい、妊娠にも不安が」

『魔獣には若返りを得意とするモノも居る、私の為に得ろ』


「得ろ」

『あぁ、私の為に若返れ、そうすれば引け目を感じないのだろう』


「何故です」

『かぐや姫は良いのか、それともココで口説いて欲しいのか』


「う、観ます」

『あぁ、そうしよう』


 坊ちゃんよ、お前は何か勘違いをしていないだろうか。

 面白さだけで、相性だけで家は成り立たんぞ。




《お前は》

『見定めているだけだ、心配せずとも理性は有る』


《だが困らせて楽しんでいるだろう、アレは祖母では無いんだぞ》


『私が祖母を重ねているとでも』

《何がしたい、見定め終え手放す時、アレが傷付かんとでも思うのか》


 手放す。

 その考えは無かった、無かったのだと気付かされた。


 何処かで、このまま家に仕えるだろう、傍に居るだろうと。


『すまない、コレが好意か』


 抑えが利いていると思っていた、まだ冷静さを失ってはいない、と。


《良く考えろ、相手は無能な来訪者だ。確かに令嬢らしい考えや振る舞いは出来るが、お前の様な向上心は無い、お前が目指す道の支えに足り得る者では無いんだぞ》


 分かる、分かってはいる。

 更に上を目指すなら、より誇示するなら、彼女では足り無い事を。


《ご主人様、宜しいですか》

『入れ、どうした』


《コーリングカードで御座います》

『あぁ』


《坊っちゃま、お選び下さい、正しい相手を。1度、良い相手に出会ってしまわれたら、その先はもう失うか得るかだけです》


『侍女長』

《人生は本来ならば1度きり、どうか、最後の最後に後悔なさらない道をお選び下さい》


 私の人生は、2度目。


 1度目も今も、本来の信念に変わりは無い。

 貴族として民を支え、国を支える。


『分かっている』

《では、私が選んだ方とのお茶会に出て頂きます》


『あぁ、分かった』




 坊っちゃまは信念と本能の狭間で迷っていらっしゃる、分かりますよ、人種は良く間違えてしまう。

 だからこそ迷い、間違えてしまう。


「では、失礼致します」


《ふふふ、珍しく若い方が》

『アレでも40だが、心配か』


《いえ、その様なつもりは》

『無いのか、妾の必要は無いとでも』


《いえ、場合によっては、最悪の場合ですが。致し方無いかと》

『率直に言え』


《貴族は、情に流されるばかりではいけません。時には私情を抑え、すべき決断を行う事こそが》

『では少しも嫌だとは思わないのだな』


《もしかすれば、私に原因が有るかも知れません、ですのに》

『私は腹を割って本音を話せと言ったんだが、無理な様だな』


《あっ》

『私では無く信頼出来る方を探された方が良い、私は下がる』


《はい、申し訳御座いませんでした》


 疑う事、迷われる事はさぞお辛いでしょう。

 ですが、だからこそ。


『何故こうも』

《信頼関係も無いままに、率直に言えとは、あまりに難しい事ですよ》


『だが信頼関係を築きたいなら、いつか何処かで言うしか無いだろう』

《ですが、貴族令嬢としては、何も間違った事は仰っては居りませんでしたよ》


 結局は好み、なのです。

 相性なのですよ。

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