4 中毒、アレルギーとは。※グロ注意※
部屋で待っていると、ご主人様が安っぽい布を部屋に放り込み、着替える様にと命じられました。
私は他の侍女に見張られながら、その布を持ち上げると。
使い古された患者着だった。
それに着替えると、直ぐにそのまま馬車に乗せられ。
《なん、ココは》
『実験場だ、本来なら茶葉農園行きだが。あの侍女を考慮しての結果だ、感謝するが良い』
茶葉農園。
飲ませるべきでは無いモノを飲ませ、何かを奪った者が行かされる場所。
焼かれ冷やされ、煮られた後、綺麗な水に見える溶けた金属を飲まされる。
何度も吐いては飲む事を、繰り返される刑務所の一角。
でも私は、何も奪って無い。
それに、実験場なんて知らない。
《一体、何の》
『お前のアレルギーを探す場だ』
《でもあの子は》
『ココまで低脳だとはな、ココの者の質も落ちたものだ。アレルギーとは拒絶反応、接種すれば通常とは異なる反応、望まぬ反応を示す事。漆は分かるな』
《ですが、蕁麻疹も何も》
『本当に愚かだな、合うか合わないかだ、身を持って知るが良い』
《そんな、害そうと思ったワケでは》
『合わない事は知っていたろう、以上だ』
《お待ち下さい!ご主人様!!》
「はい、大人しくして下さい、先ずは漆から試しましょうね」
《こんなの!》
「アレルギーの原因となる何かを混入していたなら、アナタ最悪は殺人犯ですよ。そう、アナタは犯罪者、大人しくしないなら一生茶葉農園で過ごす事になりますよ。ご家族も一緒に」
白衣にガラスのレンズを付け、髪を結い上げた女は。
怒るワケでも無い、僅かに微笑んだ顔で、優しく言った。
《でも、裁判が》
「裁判はもう終わりましたよ、目撃者も証人も既に署名捺印なさいましたし、被害状況も既に把握しています。後はアナタ次第、それとも誰かに脅されたのですか?」
《いいえ》
「はい、では指示通りにして下さいね、ご家族も巻き込みたく無いなら」
そうして私は幾ばくか臭う、真っ白なタイル張りの個室に案内され。
同じくタイル張りの冷たい台に俯せにさせられ、両足の裏に何かを塗られたかと思うと。
今度は服を全て切り裂かれ、何かを全身に幾つも張り付けられ。
気が付くと眠っていたのか、私は俯せのまま縛られていた。
《誰か、誰か!》
「はいはいはい、どうなさいました」
《用を足させて、下さい》
「あぁ、お気になさらず、そのままして頂いて結構ですよ。後で定期的に水を掛けて流して差し上げますから」
《そんな》
「それとも罪を償うつもりが無い、と、でしたらご家族に担って頂くしか有りませんね」
《私、誰も殺して無い!》
茶葉農園は、飲ませるべきでは無いモノを飲ませ、何かを奪った者が行かされる場所。
でも私は、命は奪って無い、何も奪って無い。
「自由と信頼、安心安全を奪った、とは微塵も思ってはいないのですね」
《それは、でも》
「今は、このままではいつ殺すか分かったものでは有りませんから、理解し償い終えるまで出れませんよ」
《そんな、たかが動悸じゃない》
「心臓が弱い方だったら、死ぬか寿命を早めるか、どの道殺人犯ですね」
《そんなの、少し動いたって同じじゃない!》
「あぁ、ソレもですか、成程。では後程、同じ目に遭わせて差し上げますね」
《違っ、お願い!言う事を聞くから》
「聞かなかったから、ココに居るんですよ。では」
《お願い!もう本当に無理なの!!》
それからはもう、本当に酷い事しか無かった。
解放されたと思ったら、両足の裏が水ぶくれでパンパンで。
体のあちらこちらが痒くて、結局ベッドから動けないまま。
手持ち用の便器を用意されても上手く使えず、何も変わらなかった。
「あら、断食ですか、では食べたくなるまで置いて置きますね」
それからは本当に地獄だった。
本当に食べ物が腐っても交換されず、結局私は食べるしか無かった。
そうしてお腹を壊そうとも、何の薬草も与えられず水だけ。
清掃は日に3回、僅かに体をズラされ、水を掛けられるだけ。
《もう、お願いします》
「何をですか?」
《せめて、足の治療だけでも》
「残念ですが無理なんですよ、実験の邪魔になりますから。それとも台座でお過ごしになりますか、今よりは清潔に過ごせる筈ですよ」
《します、何でもしますから》
「はい、では直ぐにご用意致しますね」
台座とは、便器の上に見慣れぬ背もたれが有る椅子だった。
その背もたれを抱き抱える様にし、便器の上に跨る、だけ。
それでも、あの部屋よりは遥かにマシだった。
けれど、ある日突然、猛烈に背中が痒くなった。
《誰か!背中が》
「はいはいはい、成程」
《何をしたの!》
「アナタは蛾のアレルギーなんですよ、おめでとうございます、それなりに珍しいアレルギーですよ」
《嫌!取って!!流して!!》
「大丈夫です、死にませんから」
《痒いの!熱いのお願い!!》
「良いでしょう、はい」
長い間、流されていたとは思う。
でもまだ痒い、熱い。
《本当に全部、流れたんですか》
「口から入ると、直ぐに除去出来無いんですよ。恐ろしいとは思いませんか、喉に水ぶくれが出来たら、窒息するとは思いませんか」
白衣の女が手に持つモノ白い器の中身は、きっと蛾の毒。
もし、興味本位に飲まされたら、私は。
《分かった、分かりました、だから》
「いえいえ、まだまだです、次はコレを飲んで頂きますね」
《何コレ》
「大丈夫、ただの珈琲ですよ」
匂いを嗅ぐと、確かに珈琲だった。
そう安心したせいか、口に含むと猛烈な苦味と酸味に驚き、思わず吐き出してしまった。
《何なのコレ》
「珈琲です、とても濃い珈琲、一気にお飲みになって頂けないなら塗り直しますね」
《飲む、飲むから、お願い》
「はい、ではどうぞ」
それから急に、本当に動悸がし始めた。
《コレが》
「まだ大丈夫そうですね、はい、もう1杯」
飲まないと蛾を塗られる。
だから飲むしか無かった。
けど、本当にあんな風になるなんて思わなかった。
死ぬんじゃないかと思う程、激しい動悸と不安感で。
本当に、苦しくて怖かった。
《ごめんなさい、分かったから》
「消化すれば落ち着きますし、死にませんから大丈夫、もう少し脈を早めましょうね」
《もう、無理、こんなんじゃ心臓が破裂する》
「大丈夫、死なない程度でしっかり止めますから、それとも塗りたいですか」
私は、大きなすり鉢を抱えさせられ、良く分からない何かをただ只管に混ぜさせられた。
死にそうな程に動悸がして、息が上がって苦しいのに。
少しでも手を緩めると、蛾を見せられ脅された。
死にそうだけど死なない。
でも苦しい。
本当に、こうなるだなんて思わなかった。
アレルギーじゃないから大丈夫だろうって、死なないだろうからって。
『どうだ』
「大丈夫です、死にませんから」
『そう言う問題では無い、苦しむだろうと何かを盛るのは罪だ、死ぬかどうかでは無い』
「それは分かりますが」
『私は、前世で珈琲を幼い頃に飲み苦しんだんだ、そして無理に食べさせられたガレットにより死んだ』
「そうだったのですね」
『お前は弱いのでは無い、少し他と違うだけだ、恥ずべき事では無い』
少し他と違うだけ。
成程、確かにそうですね。
「はい、そうですね」
『次からはもっと気を付けろ、無理せず吐け、良いな』
「はい、ありがとうございます」
お優しいんですが、やっぱり無表情で物言いが本当にキツい。
年増の私だから誤解しないモノを、若い方はどう思うか。
本当に大丈夫ですかね、結婚してもコレは流石に。
『何か欲しいモノは有るか』
「いえ、特には」
『言え、コレは私の監督不行き届きだ、それとも償いをさせない気か』
特に、本当に何も。
「あ」
『言え』
「その、相応なのか」
『言え、話はそれからだ』
「香水を」
『それだけか』
「えっ、足りませんか?」
『足りない』
「では、んー」
『私服は、靴、鞄は』
「それは、流石に」
『家と物、どちらにする』
「えー、では、物で」
『分かった、用意させる』
「あ、あの、あの子は」
『反省させている最中だ、アレがアレルギーなら死んでいたんだ、気にするな』
「はい」
『気にするなら家も付ける』
「ダメです、はい、分かりました」
気にしない様にと言われましても、侍女長も真っ青でしたし。
他の侍女も謝りに来たりで。
『どうすれば気が紛れる』
「あ、申し訳御座いません」
『どうすれば気が紛れる』
踵を返して座り直されてしまった。
「あの、お仕事は」
『こうした時に任せられる部下を、育てて居ないとでも思っているのか』
「いえ」
お仕事は出来るんですよ、お仕事は。
と言うか、転生者と言うヤツでしょうか。
成程、若くして出世出来るワケですね。
『本か、それとも庭に出るか』
「では、お庭で」
本、読めないんですよね。
だって、偽装用に置いてあるだけの、英文の本なんですから。