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10/12

10 お買い物。

『やはり大差無いな』

「皺、たるみ、かなり幼くなりましたよ」


『些末な事だ』

「はぁ、何でも良く見えてしまいますか」


『あぁ、見える』


 誰ですかこの方は。

 キラキラニコニコと。


「ちょ、まだ」

『キス位は良いだろう、死を乗り越えさせてくれ』


「何と狡い言い草を」

『待たせたお前が悪い』


 コレが、ギャップ萌え。

 未知の世界で、うっかり流されそうになりましたが、コレですよ。


 可愛くも何とも無い私。


「まだです、まだ婚約はお受けしていません」

『元既婚者だと言うのに堅い所も良い、仕方無い、暫く我慢してやろう。さ、買い物に出掛けるぞ、茶会用の一式は持っていないだろう』


 一体、幾ら払う事に。

 税金ですよ、借金生活に。


 いえ、道を間違われるより、借金を取りましょう。

 私の人生なんかより、有能なる伯爵様の人生です。


「ご縁が無かった場合」

『払い下げてやる、心配するな』


 流石、若くして成り上がっただけは有りますよね。

 本当に、勿体無い。




「コッチでお願いします」

『なら折角だ、私が負けたなら、相場より安く払い下げてやろうか』


「それはダメです、税金なんですから」


 仕事の時には物腰が柔らかいと言うのに、気が強く押し負けない所も良い。


『分かった、好きにしろ』


「はぁ、勿体無い」

『もう勝った気でいるのか』


「違います、この可愛いお衣装が私に着られ勿体無い、と言う意味です」


『私にとってはお前が1番可愛いがな』

「私にはご令嬢方の方が遥かに可愛く見えます」


『種類が違うだけだろう、それともココで口説いて欲しいのか』

「遠慮させて頂きます」


『そうか、遠慮せずとも出し惜しみはしないぞ』

「外では特に出し惜しんで下さい」


『次は靴だな、少し休憩しよう、運んでおいてくれ』

《はい、畏まりました》


 侍女長とは違う若い侍女を連れて来たが、コレですら不満には思っていないと言うのに。

 一体何を気にしているのだろうか。


『さ、行くぞ』

「ダメです、使用人とお茶など」


『ではもう1着必要だな、隣に行くぞ』

「なっ、あ、もう」


『心配するな、もし負けたらしっかり払わせてやる』

「幾らで売れるのか楽しみにしています」


 若さ故に、こうした話し方をしているが。

 出来るなら萎縮せぬ相手と、対等に話し合いたいと思っていた。


 だが、叶う相手は居なかった。

 ソウだけだ。




《ふふふ、遠慮なさるからこそ、かも知れませんね》


「成程」

《あ、いえいえ、誂う楽しさについてのみです。お好きなのだと、私にも良く分かりますから》


「どうにか、反対して下さいませんかね?」

《私にも弟が居りますが、寧ろ、応援してしまいますね》


 そして妹も姉も、夫も居りますので。

 はい、良く分かりますよ。


「何でです、こんな年増」

《今は、違いますよ》


「はぁ」

《失敗する事は誰にでも有る事。それに、寧ろ大人びてらっしゃるご主人様には、丁度良いかと》


「コレ以上賛成派の意見が出るのでしたら、もうマッサージしませんよ?」

《あら、それは困りますね、ふふふ》


 侍女のソウの要望で、自らケーキを選んでらっしゃるご主人様。

 今まで数々の令嬢とのお出掛けに同行させて頂きましたが、こんな姿を私は見た事が有りません。


『どうした』

「反対派を探しているのですが、どうやら本当に見付からないのです、何か圧力を掛けては居りませんか」


『していないが、以後するか』

「ではもう黙っておきますね」


『私はずっと話したかった』


 ソウが着任し暫くしての事、上の空とまでは申しませんが、ご令嬢に集中してらっしゃらなかった。

 そしてお茶会でも夜会でも、無意識に無自覚に、比較してらっしゃった。


 いつ気付かれるのだろうとヤキモキしておりましたが。

 はい、今はすっかりお気付きになられ。


 全く加減出来ていませんね。


「少し、お花を摘んで参ります」

『あぁ』


 思った反応を返されず、幾ばくか落ち込んでらっしゃる。


《少し宜しいですか》

『あぁ、何だ』


《後で私達にもケーキを下さいませ》


『交渉材料は何だ』

《少しは手加減をして下さいませ、彼女は経験しても随分と前に諦めた方、ならば不慣れは当然の事。いきなり強力な口説き文句は、寧ろ冷静さを欠いているのでは、そう不安にさせてしまうかと》


『そうか』

《浮かれまいと必死に否定する事に繋がり逆効果です、それより今は、少しでもご納得頂ける様にお話しすべきかと》


『選んでこい』

《はい、ありがとうございます》


 私達使用人と致しましては、寧ろ、さもありなん。

 却ってお似合いでらっしゃる、そう思っているのですが。


「あら、ケーキをお選びで?」

《はい、良き働きのご褒美にと、使用人用を選ばせて頂いております》


「成程、ココのオススメはラズベリーケーキですとナポレオンパイです」

《ありがとうございます、ふふふ、それも入れておきますね》


 上位のご令嬢ともなると、私達使用人を本当に空気の様に扱うのですが。

 ご主人様は、きっと、それをお許しにはなれないでしょう。




「私はコレです」

『いや、ソッチだな』


「何で毎回毎回、高い方を選びますかね」

『お前に似合う物が偶々高いだけだ』


「まさか、裏で」

『貴族が何の仕込みも無しに店に行くと思うのか、いきなり用意させては困らせる事になるだろう』


「あぁ、やはり庶民には」

『心配するな、侍女長も居る、私も教えてやる』


 もし令嬢達とこうなったなら、どう接すれば良いのかと、悩んだ事も有る。

 だが彼女には、自然とこうしたい、と体が勝手に動く。


「もしかして裏で、かなり遊ばれて」

『おい庶民、不敬罪で捕まえさせるぞ。こうしたいと思ったのも、何もかもお前だけだ』


 手を取り甲にキスをし、腰に手を回す。

 コレらをどのタイミングで行うべきなのか、そんな事を悩んだ時期も有ったが、相性さえ合えば考える必要すら無い。


 したい様にすれば良いだけ。


「不運な元既婚者を舐めないで下さい、本気で困っていますからね」

『遊んでいるつもりは無いが、実に愉快だな』


「もしダメになったとしても、婚約前の方に」

『お前だけだ、他にはしない』


 ただ出掛けるだけで、こうまで愉快だ、と思える日が来るとは思わなかった。

 やはり私には彼女が必要だ。


「もう少し、ご自身の容姿を理解された方が」

『何処が不満だ』


「ご理解してらっしゃいましたね、失礼致しました」

『大した道具にはならないと思っていたが、お前に不満が無いのなら、コレも悪くはないな』


 顔を赤くしてくれるのなら、何故受け入れてくれないのだろうか。

 何故、どうして。


「ニーナさん、助けて下さい」

《はいはい、ココまでと言う事で。ご主人様、真面目にお選び頂けないのでしたら、次は私達だけで選んでしまいますよ》


『分かった』

「助かりました」

《いえいえ、私もコチラが良いと思いますよ、使い回しが利きますから》


「では、はい、そうします」

『ほう、ニーナの言葉は素直に聞き入れるのだな』


「時と事情によります」

《では、次は髪飾りを選びましょうか》


「えっ、まだ買うんですか」

《はい、伯爵家が舐められてはいけませんから。さ、お運び致しますから、参りましょうね》


「はい」

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