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亡国王女は護衛をチップに荒野を生きる  作者: 青空
三章:準三級探索者編〜オールイン・ライフ〜
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金銭的に背水

 腕一本を失った守衛(ゲートキーパー)は依然として弾をばら撒き続ける。

 15階へ繋がるであろう階段の前でどっしりと構えたままだ。


(情報通り……。あくまで防衛機構だから不必要に傷つけることは避けてます)


 早口でファイアエレメントを唱えながら、頭の中では思考を続けている。

 連続して同じ座標指定をしながらの並列思考は簡単ではないが、自動魔砲台(ドローン)を使ってきた経験が生きていた。


 例え、自動魔砲台(ドローン)本体が使えずとも馬鹿にならない恩恵を得ていたのだ。


 思い返すのはロチェリーからのアドバイス。


 *


『基本的に五人以下の攻略は推奨されていないのですが……。あのプリム様からの依頼である以上私も止めることはできません』

『……そうですか』

『とはいえ、不可能なこともさせない方です。死力を尽くした先に勝利が見えている戦いのみ提供される方です。──我々からすればあまりにもか細い勝機ではありますけど……』


 苦笑一つ、ロチェリーが眉尻を下げる。


『勝てないことは、ないと』

『はい』

『…………』


 正直、素直に頷けなかった。

 これ以上武装を整えるお金はない。

 ないこともないが、下手に安いのを買っても意味はないし、増強服(ブーストスーツ)のような目に見えて変わる代物はあと一つぐらいしか買えない。


 そして、既に一番安価な増強服(ブーストスーツ)はドーハもリィルも装備済み。

 変えられるとすればワンランク上の魔防壁(マギアシールド)ぐらいか。


『リィル様』


 悩むリィルの肩にそっと手が寄せられる。

 はっと顔を上げれば、相変わらず無表情なトーハがこちらを見下ろしていた。


『グズグズなやまないでください』

『…………』


 昔からの悪癖でほんのりときめいてしまう自分を抑えつつ、リィルは目で続きを問う。


 口数が少なかった少年も、いつの間にか無言が目立たなくなっていた。

 それがいつからかすら、彼女も思い出せない。


『おまかせください』


 その言葉にどれほどの重みがあるかはリィルには分からない。無表情だし、感情など中々読み取れない。

 淡白で起伏のない声からテンションを推察するなど困難極まる。


 でも。


 彼は言葉を大事にしている。

 彼の中で育まれている価値観が、強さへの執着が、彼自身が選ぶ言葉が彼の覚悟を教えてくれる。


『ええ』


 部下が示したのなら、主は応えなければならない。


『きばってください。びひりなリィルさま』

『ふふ、当然です』

『……よろしいですか?』


 なんだか居た堪れなくなってつい声を掛ける。

 データに残る履歴からも波乱万丈の旅を続けたことはロチェリーも知っている。


『えっと……失礼しました』

『いえいえ、仲が良いことは素晴らしいですので』


 だからといって特別優しくはしない。同情くらいだ。


 それを乗り越え、少年少女二人がこの戦いに挑もうとしていることには流石に憐憫の気も湧いていた。


 しかし、この状況でも軽口を掛け合っている彼らにそんなものは必要なさそうだった。


 第二の生まれながら、比較的治安の良い場所で過ごして来た。

 安全な事務仕事の良さを知っている親から教育施設で学へ励み、組合職員に求められる最低限の戦闘技能も磨き職員の試験を突破した。


 どうしても周りはライバルで。常に競争を意識させられる身で、共闘には縁がない。

 目の前で繰り広げられる信頼をみるとほんのり羨ましかった。


『これは賭けですが……少人数だからこその突破法があります』

『少人数だからこそ……』


 *


 銃弾を撒き散らし続ける守衛(ゲートキーパー)

 腕に取り付けられた機関銃のほか、脚部に備え付けられた大砲は未だ動きを見せない。



(敵勢力が少人数の場合大砲は使わず、機関銃のみに専念する──言っていたとおりです)



 リィルはファイアエレメントで引き続き二本目の腕を狙いつつ、守衛(ゲートキーパー)を観察する。



 もし変化があればトーハも気付くだろうが、もうすぐ一分に達する程断絶剣を使っている。



「…………っ!」



 トーハが捌ききれず、彼の魔防壁(マギアシールド)からも外れ、リィルの体に薄っすらと広がる魔防壁(マギアシールド)に着弾。



 弾けた火花に思わずリィルの肩が跳ねる。



(慌てない……怯えない……冷静にっ……)



 ある種の興奮で恐怖を忘れられていたアリとの戦闘とはまた違う。

 思考を巡らせる余裕を保ちつつ、目の前に降り注ぐ死の雨を直視し続けないといけない。



 一番怖いのはトーハのはずで、所詮流れ弾しか飛んでこないリィルが怯えるなどあってはいけない。

 だが、彼女は一介の少女に過ぎない。



 弾ける火花に詠唱がつっかえてしまうし、その度に体を襲う衝撃は恐怖で涙が漏れ出そうだ。

 大腿部にまで及ぶ湿り気も、一度構えばもうまともに立てない気がする。



 傘越しに伝わる雨のごとく、魔防壁(マギアシールド)越しの衝撃が肌を打ち続ける。



「……【ファイアエレメント】!」



 涙を堪え、震えそうな歯を噛みしめて、折れてしまいそうな膝を引き延ばして。



 唱え続けた術式はやがて二本目の腕を赤く染め始めていた。



「──限界稼働(オーバーヒート)検知、魔導機関銃(マギアマシンガン)武装解除(パージ)



 僅かな間は動揺、あるいは怒りか。



 ごとりと大きな音と共に二本目の腕が分離される。



 稼働している機関銃は実質一つ。

 徘徊している機械人形(オートマタ)のモノより大きいとはいえ、一つならばトーハの断絶も追い付き始めた。



 肌を刺し続ける衝撃が一気に減る。

 守衛(ゲートキーパー)側に傾いていた天秤が一気にこちら側へと傾く。



「……トーハっ!」


「しょうちしました」


 あまり追い込みすぎると砲台が動き出す。

 攻めるなら守衛(ゲートキーパー)に不利を悟られる前だ。



 主の指示を受け、防御に徹し続けていたトーハがついに前へ出る。



 勿論近づけば防御は追い付かない。

 しかし、トーハの持つ魔防壁(マギアシールド)のエネルギー残量は残り四割。

 心もとないが、特攻するなら十分だ。



「起動!」



 トーハが地を蹴ったと同時に、リィルが両手に握った自動魔砲台(ドローン)二機を左右に放り投げる。



 フリスビーの如く回転しながら飛んでいき、守衛(ゲートキーパー)を挟み込むような位置まで飛ぶと光を共に起動。



 滞空し始め、自前の魔導銃(マギアカノン)を構えた。



『敵増援を確認。警戒ランク上昇』


(ここまではいけた! あとは速攻で決めるっ!!)



 アナウンスが聞こえると、地面から穴が開く。

 初めてプリムと会った時の光景が思い浮かぶが、現れるのはこちらの増援ではないし、どうせ依頼人(プリム)はどこからか監視しているに違いない。



 地面から生えるように現れた二機のタレット。

 リィルが取り出した自動魔砲台(ドローン)と同じ数。しかし、武装は遥かに違う。



「こんなの二人なんてやっぱり馬鹿ですっ!!!」



 恐らく守衛(ゲートキーパー)が持っていた機関銃と同じらしいそれが自動魔砲台(ドローン)に向けられるのを見ながらリィルは叫んだ。



 ──とにかく、もう後戻りはできない。



 *


『少人数だからこそ……』

『はい、まずおさらいですが』



 モニターの表示が切り替わり、守衛(ゲートキーパー)の画像と身に着けている武装が強調表示される。



守衛(ゲートキーパー)の基本武装は機関銃型魔導銃(マギアカノン)四機、加えて小型集団用の15cm大砲が二門です』


『……脅威ですけど、少ないようにも見えますね』


『ご明察です。これはあくまで基本武装。守衛(ゲートキーパー)側の人工知能が推測する敵戦力に応じて変わってきます』


 そこでリィルがぽんと手を叩いた。


『なるほどっ。ということは、私達二人なら……!!』


『はい。最低限度の武装──恐らく魔導銃(マギアカノン)四機のみかと思います』


『……それでも四機はフル稼働なんですね』


『あはは……一応防衛用ですので……大砲は数人以上がが密集している時のみしか撃ってこないので』



 安心してください、とロチェリーが笑みをこぼす。



『ですが、この戦力調整は人工知能側が不利を悟るとまた変化します』


『………………』



 優しいのか優しくないのか。ぜひとも問い質したかった。

 しかし、こちらが侵入者側なので文句を言うのもお門違いだ。



 そこまで分かった上で嘆きたいリィルが数秒目を閉じてから現実に返って来た。


『…………具体的には』


『その時に持っている武装の約二倍をタレットとして地面、または天井から生えてきます』


『……つまり?』


『最大で八機の機関銃と相対することになります』


『……はぁぁ~……もーやだぁぁぁ』



 深いため息。



 ロチェリーも同情せざるを得ない。

 15階到達を聞いた時からこの光景は想像できていたが、忠告を直接言う身としては心が痛い。



『これ以上増えるなんて無理ですよぉ~』



 断言できる。無理だ。

 トーハの断絶剣をもってしても二倍量の弾幕を捌けるはずがない。

 そもそも四つの機関銃から繰り出される弾幕を防げるかも怪しい。



 トーハ本人はどうにかする気だ。

 正直リィルには信じられない。任せたい気持ち半分、信じられない気持ち半分だ。



『……はい。私も……承知しています──ですので』



 ロチェリーも提示できる手は一応あった。

 しかし、これを手段として提示するのは──専属メンターとして気が引けた。



『タイムラグを利用しましょう』



 それでも、提示するのが彼女の仕事だ。少ない期間ながら彼らに情が湧いてしまった。



 だからこそ、笑顔を崩さず、さも当然のように限界まで勝ち筋を提示する。



 *



 リィル側の増援、自動魔砲台(ドローン)

 対抗して守衛(ゲートキーパー)が失った手を補充するように地面から生やしたタレット。



 人工知能が振りを悟り、補充した戦力。

 一時的に戦力が拮抗する。



 まだ。戦力に不足はない。不利ではない。



 人工知能はそう錯覚した。勿論、数秒後には気付く程度の誤魔化しだ。

 しかし、その数秒がリィル達の勝機に繋がる。



「【ファイアバレット】!」



 自動魔砲台(ドローン)への射撃指示、平行して火球を放つ。

 自動魔砲台(ドローン)にはそれぞれタレットを狙わせ、相手の気を引かせる。



 弾幕量を考えれば数秒後には自動魔砲台(ドローン)は粉々だ。

 総額150万C(コール)の囮である。

 惜しげもなく、ためらいもなく、リィルはこれを投げ捨てた。



(……この依頼報酬金どのくらいあったかな……!? トーハの魔防壁(マギアシールド)でもう空っぽなのにぃぃぃ……!!)



 否、後悔はすごくあった。

 たくさんあった。

 死ぬほどあった。



 しかし、後悔に駆られる時間は彼女にはない。



(さっさと溶けてぇぇっ!!)



「【ファイアバレット】!」



 お金の恨みと今後への不安を目の前の鉄塊へ向け、全力で火球を投げる。


 薄れた弾幕を何とか前進するトーハの背を追いかける。

 諸悪の根源である守衛(ゲートキーパー)との戦いも終わりが見え始めた。

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