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亡国王女は護衛をチップに荒野を生きる  作者: 青空
三章:準三級探索者編〜オールイン・ライフ〜
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目減りする金

 一つの山を越えた二人は攻略進度を大幅に進め、地下12階まで進んだ。


 まだ余力はあったが、日も暮れる。

 それぞれが会得した新たな技能も想像以上に体力を使う。


 万全を期すためリオドラへ帰ってきたリィル達はプリムの部下が運転するリムジンで探索者組合前まで送り届けられた。


「むむむ…………」


 MGの画面を睨みながら、複雑な顔で少女がうなっている。


「どうしましたか」

「お金が……すっごく……! 減ってます……」


 残金75万C(コール)と書かれた画面。


「……なんでむりやりはらったんですか」

「だって……! 借金は嫌なんですっ!!」


 300万C(コール)程あった残金は200万以上減って、ついに三桁を下回ってしまった。

 これはリィルが使う自動魔砲台(ドローン)の価格だ。


 リィルに建て替えて貰ったものだったが、攻略も順調に進んでおり、頑張れば収支はプラスになると踏んだリィルがプリムに訴えて無理矢理払ったのだ。


 プリムからすればはした金もはした金だったが、その責任感は好ましかったのでとやかく言わず素直にお金を受け取っていた。


 そこまでは良い。

 だが、まだ今日の収入も分かっていないのだ。


 トーハが使う古代技術(ロストテクノロジー)製金属剣のメンテ代やエネルギー系武器の補充。防具補修等で数万C(コール)は飛ぶ。


 リィルの武器がほとんど自前の魔力で補えている分まだましな方だ。

 それでも、この辺りの探索者が使うには高価な武器を使っているせいで、以前より必要経費は跳ね上がっていた。


「いちおう、したくきんはいらいぬしふたん、です」

「わかってるんですけどぉ……!」


 いやぁ、と頭を抱えるリィルに呆れるトーハ。


「せめて、ばいきゃくがくみてから、いってください。さすがに……かんがえなし、です。あたまつかってますか?」

「えへへ……いい値段ついて欲しいです……」

「……そう、ですね」


 ほんのり(よろこ)びながら明日を憂う器用なリィルにトーハは呆れを深める他なかった。


 あーだこーだと唸る主をそれとなく人込みから守りつつ、トーハは探索者組合の自動ドアを潜った。


 閑古鳥が鳴いている翡翠武具店と違って、開いては閉じるを繰り返す探索者組合の扉に目を向ける人は少ない。


 それでも年少の子供というのは比較的希少だ。

 だからつい目を引っ張られてしまう者も少なくない。

 そして、年齢にしてはやけに武装が整ったものならなおのこと。


 トーハはともかく、自動魔砲台(ドローン)をスタンバイさせる携帯型待機所(ヘリポート)()()も身に着けているとあれば──どうしても視線を集めてしまう。


「そこのガキ」


 トーハとリィルの行く手を遮るように、巨体が割り込んでくる。

 未だ160cm強の背丈であるトーハが真上を見上げるほどの巨漢だった。


 全身を覆う分厚いプロテクター。重装甲でも重そうに見えないのは筋骨隆々なその体によるもの。

 両腕に軽機関銃を取り付けた装いはさながら人型の戦車だ。


「……なに、ですか」


 さりげなくリィルを後ろに庇いつつ、トーハが男の問答に前へ出る。


「いや? 妙に羽振りの良い女子供だと思ってなぁ」

「それが、なにか」

(やっこ)さんに聞いた通りだ。隠すのが下手ってな」

「……へた」


 ちらりとトーハが後ろへ目線を送る。

 トーハと比べれば防具こそさしたる違いはなくとも、武装にかけられた金額は目で分かる。

 自動魔砲台(ドローン)三機、露出しているはずのくるぶしなどから覗く、増強服ブーストスーツの薄地。


 ざっと三桁万C(コール)使っていると誰が見ても分かる。

 地味そうに見える増強服ブーストスーツが特にだ。


 あるとないでは取れる選択肢が格段に変わる代物。先の地中塔(ヒガシヤマ)攻略においても、一少女に過ぎないリィルがトーハに遅れず着いていくには必要だっただろう。


「世話焼きの戯言と思ってくれていいさ──見世モンじゃねーぞー、散った散った」



 ニヒルに笑った巨漢が野次馬根性豊かな探索者たちを散らしながら去っていく。

 何をしに来たか分からず、目をぱちぱちとさせ、二人で目を合わせる主従。


 視線もいなくなったのでこれ幸いとカウンターにスイスイと進む。

 それでも目を向ける輩は居たが、所詮トーハ達もリオドラの中では有象無象に過ぎないのだから。


 その上で進歩があるとすれば、たかがガキと侮れない程度の風格を得たことだろう。


 とりあえず受付嬢に声をかけて、彼らのメンターであるロチェリーの元へと連れて行ってもらう。


 以前も訪れた第三面談室。

 とても簡素な一室。長机が一つ、挟むように椅子が二つずつ。

 扉と反対の位置にはモニターが一つ置かれている。部屋の隅に戸棚があるが、大したものは見えない。


 それ以外の物はない。机と椅子とモニターに小さな戸棚のみ。

 戦闘員として明確にカウントされる第三級探索者向けなのもあり、椅子は質が良いと分かるがその程度だ。


「こんにちはアイリィル様。お待ちしていました」


 四つある椅子の内の一つに腰かけていた人物が立ち上がる。

 団子にされた黒い細かな髪が僅かに揺れる。

 起立した彼女は先程の受付嬢と同様に整ったお辞儀を一つ、柔和な笑みを浮かべた。


「一応依頼主から逐次報告書など頂いてはいますが....どうでしょうか、順調です?」


 ロクな結果を聞かないことで有名なプリム・ブルームバーグの依頼だ。

 仲介した身としてロチェリーもそれなりに責任というか、罪悪感染みたものはあった。


 だが、プリムの部下らしき人から毎日電子で届く文書には順調に攻略進度を伸ばしているのが伺えるので、彼女もホッとしていた。


 そんな内心を押し隠しつつ、彼女は微笑みをたたえている。


「はいっ、この前のお金こそほとんど使いましたけど...なんとか達成できそうです」


 苦労を顔に滲ませつつ、リィルが苦笑する。

 電子上の財布が寒くなってはきたが、それに見合う成果は得ている。

 同時に自分なりの戦術を確立できたのもあって、自信もついてきた。


「……自動魔砲台(ドローン)ですね。三機も扱うんですか?」

「基本は二機です。まだ三機も使うと今度は魔導銃(マギアカノン)の狙いが安定しなくって」

「……? 二機なら魔導銃(マギアカノン)を撃つんですか?」

「威力はこっちの方が高いですから。……あと、魔術も使えますし」

「そ、そうでしたか」


 腰元に吊るした拳銃型のそれを示す。


 当たり前のように言ってのけるが、彼女がやっていることはマルチタスクの極致だ。


 ロチェリーの仕事に置き換えるなら、電話しながらメールを書きつつ、報告書も纏めるようなスリータスク。

 それを当たり前のような顔して言うのだから彼女が言葉に窮するのも無理はない話だ。


 その他、本来は魔防壁(マギアシールド)を使い捨てる勢いで防ぐ機関銃型機械人形(オートマタ)の攻撃。それを両断したと書かれている内容。

 割と意味不明だが、文字通りと言われたら仕方がない。


 クイーンアントの異常個体を四、五級探索者相当の武装で撃破したのだ。

 それくらい出来なければ生きて帰れなかったと考えれば妥当とも言えた。


「じゅ、順調でしたら何よりです……。では、達成目標の再確認を」


 目の前の携帯卓上端末(ノートパソコン)を撫でるように振れ、部屋のモニター上に資料を映し出す。


「地中塔ヒガシヤマ15階への到達。すなわち、十四階と十五階の階段間を守る守衛(ゲートキーパー)の討伐です」

「……げーと、きーぱー?」


 初耳だったリィルがたどたどしく反芻(はんすう)する。

 大して反応も見せないトーハは主と違って予習済みだった。


「地中塔ヒガシヤマの15階以降は本来立ち入り禁止区画でした。これはアーランドの名前を確立したころよりも昔の──古代技術(ロストテクノロジー)が栄えていた時代の話です」


 話ながらスライドをめくり、再現画像と思われる昔の観光施設だった地中塔(ヒガシヤマ)の姿が映し出される。

 これはリィル達にも見覚えがあった。迷宮と化した地中塔(ヒガシヤマ)で時折見かけるポスター。

 擦り切れて色あせてしまってはいるが、シルエット自体はそっくりだ。


「防衛施設へと改築されてから導入されたのがこの守衛(ゲートキーパー)らしく、迷宮化によって撃破しても一定時間後に再生、復活します」

「……これ、帰りは」


 帰るまでが遠足。帰るまでが探索活動。

 金銀財宝、英知眠る遺物を手に入れようと持ち替えられないなら鉄屑と同じ。

 その守衛(ゲートキーパー)とやらの強さはともかく、二度手間はごめんだ。


「その点はご安心を。帰りのみの一方通行ですが、15階以降は各フロアの中央付近にあるエレベーターが作動しています。徘徊する機械人形(オートマタ)を撃破、一時制圧が必要ですが、一階まで戻ってこられるので便利ですよ。

「……そういえば、エレベーターで帰って行かれる探索者を見かけたことがあります」


 今にして思えば装備も整っていたし、立ち振る舞いがなんだか洗練されていた気がする。

 守衛を撃破出来る実力の持ち主、二級探索者(エキスパート)に相当する者達ということだ。


「ではとりあえずは守衛(ゲートキーパー)の撃破を考えればいいと」

「そのとおりでございます」


 話が早いです。と微笑みを一つ、スライドをさらにめくれば今までの機械人形(オートマタ)をひき殺せそうな図体の巨大機械人形(オートマタ)が映った写真が表示される。


 まるで戦車の如きキャタピラを備え、土台に支えられた金属の体からは四本の腕が生えている。


 武器はあればあるほど良いと言わんばかりに、すべての腕には機関銃が取り付けられている。

 車体には砲門が二つ。どうせロクな物は発射されないに違いない。


守衛(ゲートキーパー)機械人形(オートマタ)。推奨戦力、二級探索者(エキスパート)五名。全員が準二級探索者(エキスパート)相当の装備を整えていることを前提としています」

「……私達の今の装備って──」

「詳しい性能は存じませんが……。ざっと見積もって三級探索者(レギュラー)相当かと」

「……ですよねぇ」


 机に突っ伏し、嘆くリィル。


 しかし、ロチェリーが伝えていないことは多い。

 個人で自動魔砲台(ドローン)を複数機保有しているのは見方によっては二級探索者(エキスパート)相当と言えるし、装備を抜きにした能力面の話をすれば、リィルの魔法は全てをひっくり返す可能性がある。


 魔防壁(マギアシールド)なしでそれ以上の防御力を誇るトーハも同様だ。


 見た目だけで言えばとんだ詐欺。

 装備も強い訳ではなく、人数も少なく、若い。


 野党まがいの探索者が彼らを標的とした日にはロクなことにならないだろう。


(むしろ私の腕の見せ所……ってことよね!!)


 推奨はあくまで推奨。

 誰でも攻略できるように一般化した指標。


 彼ら二人の個性はその指標をひっくり返すのに十分なほど尖っている。

 そして、専属メンターとは担当探索者の個性を生かしてより高度な依頼を達成させるのが仕事の一つだ。


「──ですので。アイリィル様、一つ提案がございます」


 彼らの成り上がりはそのままロチェリーの評価に繋がる。

 大胆ながら、確実に。

 彼らを勝利に導くためロチェリーの戦いが始まった。


すみません。下書きの推敲が若干追いついておらず、一話遅れています。

落ち着き次第何処かで二話分あげます。

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