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亡国王女は護衛をチップに荒野を生きる  作者: 青空
二章:五級探索者編〜アント&ダブルアップ〜
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 トーハとリィルの実力は無事認められた。

 トーハの断絶剣やリィルの魔術は無限に撃てるものではないが、体力や魔力が尽きぬ限りはタダである。


 弾代がかからないのは孤児院のために稼いでいる彼らにとっては大歓迎。

 二人が受け入れられるのも早かった。

 しばらく探索したのち、成果を手にリオドラへと帰還する。


「魔術ってオレでも使えるのか?」

「決して簡単なものでもないですけど……勉強すれば簡単な物なら」

「勉強かぁ……。ルーバス任せた!」

「覚えることを僕ばかりに任せないでよ……」


 魔術の炎は子供心を魅惑するのか、レオとルーバスはリィルに関心を寄せていた。

 とはいえ、魔術のための勉強はごめんなのか、レオが自分で使う気はあまりなさそうだ。


魔昆虫(マジックインセクト)は基本直進。軸をずらせばいい」

「分かりました」


 そんなわいわい騒ぐリィル達とは対照的に、口数のすくないトーハとナノは極めて探索者らしい話をしていた。

 口数が少ない者同士ニュアンスを伝えることは得意なのか、意外と話は弾んでいるらしい。


 何体か魔昆虫(マジックインセクト)を倒した彼らは無事魔石を持ち帰り──


「天然の魔術具(マギアコア)なんて久々だぁ!」

「ちょっとレオ……あんまり騒がないでよ。目を付けられたくないんだから」

「わりぃわりぃ。ついさー」

「気持ちは分かる」

「だろー?」


 リィルの探知力あってか、昨日と同じく見つけた魔術具(マギアコア)を手に入れていた。

 分類は再現器(マギアショット)。リィルが扱うような魔術を魔力さえあれば誰でも使える代物だ。


「使い捨てじゃないタイプの魔術具(マギアコア)って高く売れるんですか?」

「中身の魔術にもよるけど、あって困らねぇ手札だし、需要はいくらでもあんだ」

「うん。使い捨てじゃないなら節約にもなる」


 経費が付きまとう以上魔力さえあれば弾を使わずに済む再現器(マギアショット)魔力刃(マジックブレイド)と別の需要がある。

 消費が大きい魔術なら切り札に、少ないなら日常的に。使い道は困らない。


「とりあえずあんまり喧伝しないように。組合に着いたら報告の仕方も教え──せっかくだし……レオ、頼んどいていい?」

「おう! 任せといてくれよミリアム姉!」


 今朝とはがらりと態度を変えたレオの調子のよさにミリアムが苦笑するが、狙い通りでもある。


「じゃあ、アタシは先帰っとく……ルーバス、ナノ。レオを頼んだわよ?」 


 レオに聞こえないようそっと小声で言い残し、ミリアムが雑踏へ消えていく。


「ミリアムさ──ミリアムって忙しいんですか?」

「はい。とっても。孤児院、チームのことはラーディア姉がやってくれてるんですけど、一人じゃ見切れないこともあるし──乱暴ごとはラーディア姉が苦手なので……」


 リィルの質問にルーバスが答えた。

 ラーディア。知らない名前だが、文脈からミリアムとは違った形の保護者的存在であることは伝わる。

 探索者として外に出るヴァンやミリアム以外で家を守る人物がいるのは当然とも言えた。


「そうなんですね……」

「おーい、早くいこーぜー」

「はーい、すぐ行きます!」


 まだ日が沈むには早く、朝や夜に比べれば大通りは歩きやすい。

 跳ねるように駆けていったレオが皆を呼ぶように手を大きく振っていた。


「すみません。騒がしい奴で」

「いえいえ。黙ってばっかりの人よりはよっぽど分かりやすいです」


 トーハを皮肉った言葉だが、彼は主の後ろを黙ってついていくのみだった。

 


「ほらね?」

「ははは……」


 困ったように肩をすくめるリィル。

 身内に似たような奴(ナノ)が居る身として、ルーバスは苦笑する他なかった。



 *



「そういえばリオドラの組合に入るのは初めてです」

「そうなのか? まぁ、成ったばっかって言ってたもんな」

「どこの支部でも大きな違いはないと思うよ。客層とかは違うけど……」

「とりあえず、付いていきますね」

「おう。……っつってもオレらのはヴァン兄と違ってつまんねぇけど」

「仕方ないよ。今なら空いてるし早く並ぼう」


 中は探索者で賑わっている。稼ぎのため外へと出る探索者が大半だが、探索者組合は外へ出るための情報を得る場としても賑わいを保っている。

 天井に備え付けられた電光掲示板は周辺で起きた異常事態があれば知らせてくれる。


 とはいえ、やはり目を引くのは姿勢を保ちこちらを出迎える受付嬢が並ぶカウンターだ。

 組合の制服である黒のタイトスカートと白のブラウスに紺のネクタイ。

 それらを身にまといリィルでさえ惹かれる立ち姿は圧巻の一言。


 トーハとリィルは昨日担当してもらったショートボブの受付嬢と目が合い、微笑みを返される。


 しかし、並ぶに行ったレオ達が向かう先は端にある無人の窓口。

 正確には何やらタブレット型の端末が置かれたセルフ対応の窓口だ。


「……?」

「リィル。いかないの?」

「あ、はい」


 ちらりと受付嬢に目を向けてみるが、微笑むだけ。

 混んでいるならまだしも、空いているならばあちらでいいのではと思ったが、知らないことの方が多い身だ。

 ナノに呼ばれ、三人を追いかけた。


「レオ。説明もあるからリィルさんにやってもらおう」

「あ、そうだった。わりぃ」

「ありがとうございます」

「トーハも」

「はい」


 ナノとルーバスに押しやられ、主従二人が窓口の前に。

 レオは出来ることがないのか、電光掲示板を見に中央へと戻っていった。


「ここで出来るのは魔石とか魔物の素材、遺物を買い取ってもらう戦果報告と組合に一時的に雇ってもらって迷宮とかに出向く依頼受注です」

「私達は……戦果報告です?」

「うん、なのでそれを押して──」


 言われる通りリィルが指で操作するとタブレットが備え付けられている台座の下が開き、トレーが出てくる。


「──わ」

「まずはそこに魔石を置いて。置き終わったら提出のボタンを──」


 ルーバスに言われるがまま、リィルはタブレットを操作し、魔石や遺物をトレーに置いて送り返すのを三度繰り返す。


「しばらくすれば組合から電子経由で報酬が来ます。一応パーティ登録したレオの名義でだしてるんで、報酬は等分──じゃなくて確かリィル達が多めに送金されてる……はずです。違ったらごめんなさい」

「────いえ、色々ありがとうございました」


 操作こそ単純だが、卓越した技術にリィルは驚かされっぱなしだった。無人受付などとリィルが知っている範囲の探索者組合ではないはずだ。

 脳が理解を拒むほどに違いすぎる技術格差。サースラルで王城暮らしをしていた時とはくらべものにもならない。


 このときばかりはとりあえず素直に飲み込んでしまうトーハが羨ましい。

 彼なら次やるときは何食わぬ顔で操作しているに違いない。


 なんだか腹が立ってきたので、次回はトーハに任せることにしよう。そうしよう。

 リィルは静かに決意した。


「……ちなみに、受付さんが空いていたのにこっちを使ったのはなぜですか?」


 振り込みが確定するのを待つのも兼ねてリィルがルーバスに尋ねる。


「何故も何も……特例を除けば四級探索者(ビギナー)以下はあっちの窓口を使う権利がないんで……」

「……?」


 いまいち意味が分からなかった。

 だってそうだろう。混んでいるなら分からなくもない。だが、空いているのに使う権利すらないというのは合理に反していている。


三級探索者(レギュラー)以上が少しでも待つ可能性を作るくらいなら──みたいな。実際利益とかを含めても効率良いらしくって」

「……ふぅん」


 あまり納得はいかないが、それほどに第三級探索者以上は価値があるのだろう。

 知らないのに口を出す権利はない。結局のところそれに尽きる。


「ナノたちが稼ぐ十倍、ヴァン兄一人が余裕で稼ぐ」

「……確かに、魔石の質と魔物の質は比例しますもんね」

「【旧水路都市(イチノミヤ)】の地下に行けば魔物の質も上がるけど、正直怖いから僕は行きたくなくて……」

「地下?」


 苦い顔をしたルーバスへ尋ね返すと、ナノがその質問に答えてくれる。


「鉄道。【鉄色地下道】と繋がる駅」

「……あぁ、なるほど」


 あまりいい思い出はない名前だった。

 あそこの線路がここに繋がることへの納得感が少し、残りは喪失感と怒り。


「……だいじょうぶです?」

「……はい。ちょっと嫌なことを思い出しただけなので」

「なに話してんだ?」


 特に変わった話もない電光掲示板に飽きたレオが戦果報告が終わったのを見て戻ってくる。


「【旧水路都市(イチノミヤ)】の地下の話。ヴァン兄達以外だと四級探索者(ビギナー)は僕達三人しか居ないからいけないなぁって」

「ちょうどいいじゃん。リィル達足して五人だろ? 適正人数だって」


 そう言いながら片手サイズのMGを取り出し、慣れた手つきで【旧水路都市(イチノミヤ)】の情報を検索して画面を見せてくる。


 画面に表示されているのはリオドラの探索者組合が公式に出している迷宮についての情報だった。

 リオドラからの距離と簡易的な地図、注意事項に適正編成など。


「地上が五級探索者三人以上……地下が四級以上が五人以上……えっと、レオくん、私達はまだ五級なんですけど……」

「アンタらが五級なら五級探索者(ルーキー)はすぐ死んでいくだろ」

「はは……僕も否定できないや。──うん、地下に行くのはアリだと思うな」

「前行ったとき、やばそうで逃げた」

「おいナノぉ、言うなよー」

「ふふふ」


 仲睦まじい彼らの会話にリィルは微笑ましさに目尻を下げる。

 まだ彼らとの仲を縮められたとは思っていないが、そっと佇める場所が出来た。

 とにかく逃げ続け、止まることを許されたなかったリィルにとって新たな人間関係はようやくできた足場であり、気休めになる背もたれのようなものだった。


「じゃあ、明日行ってみましょうか」

「おう!」

「はい!」

「ん」


 打てば響く三人の返事にリィルは笑みを深め、頷いた。

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