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亡国王女は護衛をチップに荒野を生きる  作者: 青空
二章:五級探索者編〜アント&ダブルアップ〜
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見定め、見定められる

「さて……詳しいお話を聞かせて頂けますか?」

「ああ」


 ヴァンも神妙な面持ちで頷き、「何から話すか……」と思案する。


「……とりあえず、これだけは言っておく。この話に乗ろうが乗らなかろうが、アンタ達の不利益になるようなことはしない」

「……当然だとは思いますが。その意図は?」


 含みのある前提だった。

 ヒスイ達と何やら話をしていたのも恐らくその何かについてだろう。


「早いが話、アンタらは自分達が思っている以上に美味しい存在だ」

「美味しい……?」

「アンタは魔力を探るのが得意って話だ。そいつは探索者にとっちゃ喉から出るほどほしい」

「……そこまでなんですか」


 リィルからすればMGや武具の類の技術力を見てる分、自分の探知力の上位互換などいくらでもありそうだと思っていた。


 現実はかなり違う。魔力を探るというのは言葉にすれば単純だが、探索者たちが求める所有者のない魔術具を見つけ出せる。

 ──これは今の技術力ではできない。というより、魔力を発するものが多すぎて識別が出来ない。

 人間や迷宮生物も強弱の差はあれど魔力を放出している。

 さらに言えばアーランドでは外部よりも空気中に含まれる魔力量が多い。


 その状況下の中簡単に見つけ出したリィルの価値はお金に換えるのも難しいのだ。

 研究者の類ではないヴァンは遺物探知のメカニズムに興味はないが、結果は誰だってほしい。


「有象無象に知られたなら捕まえられて、ロクな目に合わないな」

「……」


 リィルの体がぶるりと震える。考えたくもない。

 追われていた身として、これ以上追っ手が増えるのはまっぴらごめんだった。


「アンタの価値は分かったろ。で、次はトーハ、お前だ」


 他人事だとぼーっとしてる奴隷少年に矛先が向かう。

 気にもとめていなかったトーハの肩が僅かにはねた。


「店の奴の目が悪いのか知らねぇが、3万Cの価値じゃねぇ。それなりの装備と経験がありゃ、オレ達にも付いてこれる逸材だ」

「ですよねっ!」

「なんでアンタが嬉しそうなんだ……?」


 ヴァンの飾り気ない褒め言葉にリィルが嬉しそうに同調していた。誰目線かも分からない同調に調子を崩されたヴァンが雰囲気を戻そうと咳払いをして話を続ける。


「……んんっ。ともかく遠からずアンタは食い物にされる。運が良ければ良いところに拾われるかもだが、探索者ってのはそこまで他人にお優しい人種じゃねぇ」

「……貴方達の所なら酷いことはないと?」

「あぁ。探索者として相応の苦労はしてもらうけど、仲間としては扱うさ。ここのチビ共と同じく、な」


 話を聞いたリィルは沈黙し、思考を巡らせる。

 悪い話じゃない。ある意味幸運だろう。


 出来ればファイに相談したい事柄だが、もう彼はいない。

 荒事はトーハを頼れても、道筋は自分の頭で考え、自分の足で踏み出さなければならない。


 悩み続けるせいで俯けがちになっていた頭を持ち上げ、ヴァンを見つめる。


「……」


 真摯かどうかは分からないが、受諾か拒否かを問う彼の目線とリィルのそれがぶつかった。


 裏切られたならそれは見る目がなかったということ。


 上に立つものが持つ考えだ。


「分かりました。私としても悪い話じゃありません」

「そうか」

「……ちなみに、私達についてはどのくらい聞いているのですか?」

「多くはねぇ。強いて言えば厄介なのに絡まれてるかもってぐらいか」

「概ね全て……と言ったところですか。その件もあっていつか私達はここを出るかもしれません。その時は、引き止めないでください」

「ああ、好きにしな。面倒持ってこられても困るからよ」

「……決まった?」


 静かに二人を見守っていたミリアムが微笑みながら問いかける。

 頷きを返すヴァンとリィルの意志を受け、彼女もまた頷いた。


「手続きとかはヒスイさんから聞いているし、こっちでやっとくよ。寝泊まりもしばらくはそっちね」

「集団としての義務とかは……?」

「詳しいことは明日説明するけど……とりあえず、旧水路都市(イチノミヤ)の活動がしばらくメイン。アタシとうちのチビどもが何人か行く。報酬の分配はリィルの能力も踏まえればそっちの取り分多めにするつもり。それでいい?」

「了解しました。……ふあ、すみません話は以上でいいですか?」


 眠たげに欠伸を一つしたリィルが目元を重そうにしながらも声色はなんとか崩さない。

 年相応な姿にヴァンも肩の力を抜いた。


「……ああ。また明日の朝ミリアムが行く。寝坊はするなよ──孤児院の案内はまた今度でいい」

「はい。……りぃるさま」


 返事をしたのはリィルの傍で控えていたトーハで、主の裾を軽く引っ張り、今にも眠ってしまいそうな主を先導して出口へと向かう。


「また明日ねー」

「……」


 そんな彼らを見送るミリアムがぶんぶんと手を振る。

 足元のおぼつかないリィルからの返事はなく、主の代わりにトーハが頭を一つ下げ去っていった。


「……ふぅ」

「緊張した?」

「別に」

「あっは、嘘バッカ」


 背もたれに身を預けるヴァンをからかいながら、ミリアムも隣の席に座る。

 広々とした食卓に広げるのはリィルたち二人分のチーム所属申請用紙だ。


「幹部候補が二人増えたのはデカいねぇ」

「まだひよっこだ」

「カブトムシ相手にびびらないだけでも十分。でしょ?」

「…………」


 否定の言葉はない。すなわち消極的な肯定。


 14のヴァンと16のミリアム。子供ばかりのヴァン達のチームでは年長に分類される二人だ。

 彼ら以外に指揮を任せられるポテンシャルを持つ子供は片手の指に収まる程度。


「とりあえず、リィルがチビともと仲良くなれたら……アタシたちも動けるね」

「……ラーディアの負担も、多少は軽くなるか」

「ホントにそう。あの子のこともちゃんと考えなよ? 今日もぷんすか怒ってたんだから」


 孤児院の母的存在である少女の姿を思い浮かべ、二人して苦笑する。


「わ、悪いとは思ってるって」

「ホントぉ? とりあえず……リィルちゃんを四級探索者(ビギナー)に上げるまでは私がたまに見るよ」

「手厚いこって」

「チビどもと一緒に動けるようになるまではどうせついてないと不安でしょ。仲違いはゴメンなんだから」

「理想は三級探索者(レギュラー)にしたいと思ってるのよ?」

「はん……いつまでかかると思ってんだ。オレ等でも三年かかったんだぞ」


 ヴァンとミリアムもまた三級探索者(レギュラー)だ。

 外縁部に位置するリオドラの探索者の多くが五級探索者(ルーキー)から三級探索者(レギュラー)で構成されるので、二人は比較的上級者とも言える。

 故にこそ三年かかり、その上の二級探索者(エキスパート)ともなればいつ上がれるなど見当もつかない。


 そんな長い間面倒見るのはごめんだとヴァンは鼻で笑うが、内心では妥当だとも思っていた。

 リィルの遺物探知能力とトーハの戦闘能力が組合に気付かれたなら、三級探索者(レギュラー)まではすんなり上がると冷静な彼の思考が告げている。


「分かってるでしょ」

「…………」


 ただ……ヴァンのプライドがそれを認めることを許していないだけのこと。


 黙り込むヴァンにミリアムは仕方ないと微笑む。

 二つの年の差。女性が故に比較的早い精神の早熟。

 その差が同じ結論に至りながらも同じ心境に至らない。


「急ぎたいのはアタシも分かってる。手がかり、探したいんでしょ?」

「……ああ」

「──もうちょっとの辛抱よ」

「……」


 ミリアムの眼差しは穏やかで温かい。弟を窘める姉ようだ。

 誰であろうと怯まず、行き急ぐように走る少年も今は年相応に無言で頷いた。

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