第3話 コードネーム《S-1》 file 結城靖治
悪戯者による銀行襲撃・立て籠り・人質から解放した英雄S部隊は駐屯地へと戻り休息を取った。隊長の結城は男子部屋のベットに速やかに入り眠りについた。眠りにつくと結城は自分の幼い頃の夢を見た。それはとても辛い出来事の夢であった。
結城(以下俺)の家族は皆英雄だった。俺の家族は父・母・姉・俺の4人家族の構成である。まだ当時7歳の俺は家族が英雄として活躍する姿に憧れを持っていた。俺の父は水を操る水上操作、母が今の俺の能力である完全防備、そして姉が神経操作であった。
ある日、家族総出で出動することになり俺はA部隊の西藤隊長に見学させてもらった。この日の出動内容は超凶悪犯罪に対処するため英雄S部隊の家族3人と残りの7人が出動していた。
「さぁ靖治、俺たちの日々の活躍を目に焼き付けようじゃないか!」
とS専用戦闘車を運転する父は自慢気に明るく話していた。俺の母も元気よく言った。
「ねぇ靖ちゃん、私たちのこと応援してね?それと西藤A部隊隊長、息子を頼みます!」
「もちろんです!息子さんの命はこの命が尽きても守って見せましょう!」
と堂々と意気込んだ。また、俺の姉も
「よし靖治~帰ったら私と遊ぼう~!」
「もちろん!だから父さんも母さんも姉ちゃんも頑張ってね!」
「「「おう!/うん!/は~い!」」」
その後しばらくは家族との会話を楽しんだ。小学校の友達の話であったり、姉の当時よく分からなかった恋愛トークや仕事の話などで笑いあった。しかしそれが最後に見る笑顔だとは思わなかった。その時が来るまでは。
現場に到着すると数人の英雄S部隊の隊員7人が凶悪な犯罪を犯した悪戯者と交戦していた。その光景は凄まじくかっこよかったがすぐに劣勢であることに気がついた。悪戯者のメンバー9人のうち5人が三重特殊能力保有者であり、残りの4名が二重特殊能力保有者であったため1つしか特殊能力を保有していない英雄S部隊員は苦戦していた。
「現着の《S-A》《S-B》《S-C》へ。敵戦力は非常に強力だ。死の危険だってある。気を引き締めよ。」
『こちら《S-A》、了解。1名の見学者を戦闘車内から見学させる』
「了解。見学者の最大の安全を確保した上で任務を開始せよ」
《S-A》が父さん、《S-B》が母さん、《S-C》が姉のコードネームとなっている。初めての戦闘見学であるため通信や能力使用時のモーションに見入ってしまっていた。
「靖治、行ってくる。父さんたちの活躍、しっかり見てろよ~?」
「行ってくるね?靖ちゃん、西藤隊長、お願いします」
「了解です」
「姉ちゃん行ってくるね?西藤隊長の言うことしっかり聞きなよ?」
「分かった!」
と父・母・姉の3人は俺に笑顔で言った。これが最後の会話とはまだ俺も西藤隊長さんも知らなかった。
「どうだい靖治くん。お父さんたちの勇姿は」
「すごくかっこいいよ!俺も父さんたちのようなすごい英雄になりたい!」
「お!良いね!英雄一家か~。じゃあ勉強や運動、能力向上頑張らないとな!」
「うん!」
英雄になるためにはまず15歳以上であることが条件であり、一般教養の5教科の国数英理社の基礎学力テスト、英雄特殊能力テスト、免許獲得試験の合格で英雄になれるのである。
「さぁよく見てごらん?お父さんたちが戦ってるよ~・・・ん?」
「どうしたの?」
俺と西藤隊長はS専用戦闘車の窓から父さんたちが戦っている様子を窓からそっと覗いた。すると眼前に広がるのは血まみれになった父さんや母さん、姉ちゃんの姿があった。俺は何があったのかと扉を開けて飛び出そうとしたが西藤隊長が制止した。
「ダメだ!今は外に出てきてはいけない!」
「でも!父さんと母さんと姉ちゃんが!」
「良いか!君はまだ7歳の子供だ!子供が無防備で飛び出していたら・・・すまない。これは君のためだ。無線なら父さんと繋げられるからそこで話すと良い」
西藤隊長は司令部へ緊急連絡を行い撤退の許可が降りた。また、俺の無線使用の許可も降りた。
「父さん・・・?母さん・・・?姉ちゃん・・・?大丈夫なんだよね!ねぇ!」
俺は7歳の力一杯の声量で無線に問いかけた。すると返事が来た。
『靖・・・治・・・。今すぐ逃げるんだ・・・。それと西藤・・隊長、S部隊・・全員・・。が戦闘不能になった。靖治のことを・・・頼んだぞ・・ぐぁぁぁぁぁ!』
無線からは想像もしたくないような声が聞こえてきた。母も姉も同じような声が聞こえてきた。何故だろうか。自然と涙が溢れてくる。大切に育ててくれた家族、英雄として活躍していた家族が一瞬にして崩壊した。俺は7歳にして両親と姉を失った。
15年前のS部隊全滅事件は今でも語り継がれている。当時の事件は英雄でも対処出来なかったことから自衛隊による治安維持出動によって50人の殉職者を出しながらもようやく悪戯者を排除した。
父さんとの無線が終わり、英雄は自衛隊、警察との調査が進められていた。父との無線途絶から6時間後、父さん・母さん・姉ちゃんの死亡が確認されたという報告を受け俺は大泣きした。
「どうして・・・どうして・・・」
西藤隊長は泣きまくっていた俺を励ましてくれた。
「大丈夫だ靖治くん。父さん母さんお姉さんの思いを胸に君も英雄になるんだ!」
「分かった!頑張ってみる!」
西藤隊長の励ましの言葉で俺は7歳にして俺は最大の覚悟を決めた。あの事件以降、俺は勉強も運動や部活に励み英雄育成高校に入学し、英雄の一歩を歩んだ。そこで俺は垣田らに出会った。
「俺の名前は靖治だ。よろしくな!」
「おう!俺の名前は垣田森一だ!これからも共に頑張っていこうぜ!」
「おうよ!」
と意気投合し垣田と仲良くなった。こうして俺は母の能力継承、父や姉ちゃんの思いを胸に今は精一杯戦わなければならない。
次回9月9日投稿予定