8話 9/4 索敵魔法は死蔵する、名乗りは大事だ
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9月4日土曜日、これからは日付を気を付けることにしよう。何、9月1日に追放された記念だ。9月1日は祝杯を上げる日にするか。貴族でいて戦争で死ぬなど嫌だからな。
一応店を開いて4日目だが、客が来ないな。仕方がないが。そもそも新しい店舗と認識してもらうのに時間がかかる。そればかりは仕方が無いことだからな。
飯屋では宣伝をしているぞ? 相席をした人に対してな。それが魔法使いである確率は限りなく低いだろうが。まあ仕方がないか。地道に話を広げていくだけだな。
カランカラン
「旦那、帰りやしたぜ」
「ああ、また来たのか。魔法の方は試したか?」
あの男か。また来たという事は魔法を試して、有効だったという事だろう。有効で無ければやっては来ないだろうからな。少しは自信に思ってよさそうだ。
「ええ、まあ。風属性のウルフの方はいいですな。徒歩20分の所にいるワイルドボアもしっかりと追い立てて来てくれましたしな。最後には足を攻撃して突進を止めるお膳立てまであるんでやす。いい魔法であることは違いないですな」
「そうか。そこまで遠くまで行けたか。それだけ遠くまで行ったという事は、もう1つも使ったのだろう? そちらはどうだった?」
あの魔法は出来たときには喜んだが、何分町中では碌に解らなかったからな。色を付けられるようにしたとはいえ、同じ色で埋め尽くされたからな。あれは町中では使うものではなかった。
「あれは……いい魔法でやすが、駄目ですな。市場に出していい魔法ではありませんでやす。あっしは斥候殺しと名付けても良いと思うでやす」
「斥候殺し? そこまで仰々しい名前にしなければならんか?」
あれはただの索敵魔法だ。斥候が死ぬ? どういうことだ? 斥候は解る。伝令の役割みたいなものだろう? それを殺すのか?
「あれでは斥候が育ちませんな。確かにいい魔法ではありやした。今後も買いたいと思う程度にはいい魔法でやした。ただ、市場に流すのは止めて欲しいんですわ」
「市場に流すなというのは構わんが、斥候が育たんとはどういうことだ?」
「斥候の役割はご存じですかな?」
「伝令の様なものとは違うのか?」
私の考えている斥候は先の方を偵察して連絡を寄こしてくるというものなのだが、それとは決定的に違うのだろうか? 今一つ言いたいことが解らんな。
「斥候とは偵察兵の事でやす。冒険者では、クランでは魔物を見つけるのは斥候の役目でやす。魔物の痕跡を見つけて追い、クランを戦闘にぶつけるのが仕事ですな」
「ああ、私の想像しているのと変わらんな」
「あの魔法を使うと、斥候の役割を奪うのでやす。魔物が何処にいるのか容易く解ってしまう。それでは熟練した斥候が育たないでやす」
「そう言う事か。魔物を見つけるのが斥候の仕事だが、あれがあるだけで、斥候の真似事が出来てしまうと。それで斥候が要らなくなってしまい、斥候を殺してしまう。そう言う事だな」
斥候を殺すというのは比喩か。直接殺すのではなく、役割を奪う事で斥候の意味を無くすことが出来てしまう。クランは斥候を抱えなくても済むわけだ。それでは斥候が要らなくなってしまう。
「真似事どころか斥候以上の働きをしてしまうのが斥候殺しの魔法ですな。あれは斥候では真似できますまい。何処にいるのか完璧に解ってしまっては斥候の役割が無くなるでやす」
「ううむ、そうか。これを考えたときはかなり出来のいい魔法だと思ったのだがな。そんな弊害があったとは」
「ですから、初級魔法として売らずに中級魔法として売るのをおススメしやす。効果はそのままでも構いませんが、値段は中級魔法と同じにするくらいの処置が無ければ、クランが大混乱を起こすでやす。余りにも便利すぎるのも考えものでやす」
そうか。仕方がない。封印とまではいかないが、禁忌とまではいかないが、指定魔法の中に組み込んでしまおう。売れないとなれば仕方がない。いや、売れて仕方がなくなると言った方が正しいか。
それしか生産できなくなるのも嫌だからな。仕方がないか。……こいつには存在を知られているわけだが、言いふらすような真似はするまい。
「解った。今後は売らないようにしよう。何か依頼のあったときだけ作る様にしよう。そうしないと、私も同じ魔法ばかり作るのも嫌だからな」
「それがよろしいでしょうな。あの魔法は使いたいと思ってしまう魔法でありましたからな」
いい魔法が必ずしも世に出ていい魔法とは限らないという事だな。何か特別な探し物がある時だけに限定するか。それでも価値は高いが、隠し通すしかあるまい。
「その方がいいですな。では今日はこの2つを貰いましょうかな」
「ああ、中銀貨2枚だな」
「旦那。情報料というのはご存じですかな?」
「解った。中銀貨1枚と小銀貨5枚だ。これ以上は負からんぞ」
「流石旦那。話が分かる。……ではこれにて失礼」
「ああ。また来てくれ」
「暫くはワイルドボア狩りですからな。何度か来させてもらいやす」
「ああ、それとだ。名前を教えてくれ」
「そう言えば名乗っていませんでしたな。クラン「暁の剣」のギースと申しやす。以後お見知りおきを。ではまたこれで」
ギースか。今後も何度か店に来るのだろうな。常連になってくれるとこちらも嬉しい。売り上げは多い方がいいからな。とりあえず、まだ5本しか売れていない訳だが。
1日1本よりも多いペースで売れているのだから良しとするか。5本ともギースが買って行った訳なのだがな。他の客にも認知してもらわなければなるまい。慌てることは無い。1年間掛けてゆっくりと認知してもらおうではないか。先はまだまだ長いのだからな。