384話 10/19 ノラ来店
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初めての事だし、色々と不備があるんだろうが、明日開店だからな。とりあえず、人目に止まってくれれば何とかなるんじゃないかと思っているんだが、どうだろうか。
売れ残りについては、こっちに持ってきてもらえるようになっている。教会に寄付しに行くからな。流石に日持ちはしないだろうし、仕方ないとは思うんだよ。
今日で何食分出来るのか、なんだよな。色々と準備があるだろうし、2万食は難しいのかもしれない。初めはそれでも良いんだけど、売れ方よな。どの位売れるのかが問題な訳で。
まあ、予想では初日は数百食売れれば上出来だと思っているんだがね。流石に人気店になるには時間がかかるだろうと推測できるからな。こっちの魔法屋よりは人気店になるだろうが。
心配したところで、結果が変わる訳ではないんだが、心配なのは心配である。どうあがいても駄目だという結果にはならないとは思うんだよな。時間はかかるが、売れてくれるとは思う。
それだと寄付金に回す金が手に入らないんだけどな。なるべく早く軌道に乗ってくれると良いんだが、難しい所だな。10月中に軌道に乗ってくれたら万々歳という所だろう。
後は店員さんを信用することしか出来ない。店長として向かわないといけない事態にはならないでほしい。特に金関係だよな。横領が一番怖いんだが、これは信用するしかないんだよ。私には魔法店の方が重要なんだからな。稼ぎは逆転する可能性があるんだが。
そもそもの話、魔法店を軌道に乗せるために携行食屋を始めるんだが、売り上げが携行食の方が勝つってどうよ? それは副業とは言わないんじゃないか? 本業より稼いでも良いんだろうか。
駄目だというつもりは無いんだけど、本業を変えないといけないんじゃない? 魔法屋で稼ぐには限界があるんだよ。魔法の作成上限があるんだからさ。それは無視できない。
かといって、魔法屋を副業としてもな。割と気に入っているんだけど。魔法を作って売るだけなんだけど、それはそれで楽しいし、色んな人と話が出来るからな。
携行食屋でも話は出来るんだけどな。となると、本格的に魔法屋をやる意味が無くなってくるので、これ以上は考えない方が良いんだろうか。副業の範囲を超えるのは仕方がないと思うんだよな。
安くすれば金額が抑えられるんだろうが、それだと投資をした金額を回収するのに、時間が掛かってしまうんだよな。なるべく早く資金は回収したいと思っている。
投じた金額は少なくはないんだ。それこそ、寄付金に回した方が早いんだよ。今後の事を考えるのであれば、しっかりと投資をして回収してからの利益と繋げていった方が、将来的には良いんだよな。ただ、それが魔法屋よりも儲かっていいのかってだけで。
良い事にしないと、心の平穏が訪れないんだけどな。もやもやした感じは残ってしまう。魔法屋を続けるよりも携行食屋を発展させていった方が生活が楽になるのは、本当の事だからな。
うーむ、悩ましい。実に悩ましい。売れてくれないと投資資金を回収できないうえに、教会への寄付金も集まらないんだよな。かといって、売れすぎると本業になってしまう恐れがある。あくまでも副業にしたいんだけど、そのようになってくれるのかと言えば、そうではないんだよな。
やってしまったことなんだから、見守るしかないんだけど、何ともなあ。稼げるのは良い事だと割り切るしかないんだよ。稼がないといけないんだからな。魔法屋をやるために?
稼げたら、魔法屋をやる意味が無いんじゃないか? いやいや、魔法陣魔法を残していくためには、教会への寄付は必須だろう。それを辞めるなんてとんでもない事なんだよ。
貴族院に発表すれば、魔法陣魔法は残っていくよな? それだけで良いんじゃないか? 開発した魔法もそのまま発表してしまえば残っていくんだし。客については、どうしよう。
今更魔法屋を畳むという選択肢があるのかという所だな。畳んでも良い。私は困らない。金銭的には、携行食屋を発展させていった方が儲かるんだよな。実に情けない話ではあるんだが。
そもそも何で魔法屋をやりたかったのか。魔法ってものに触れたかったからだな。最初の頃は、魔法を使えるって事で舞い上がっていたんだよ。職業にしたいと本気で思っていたんだ。
そこで、魔法陣が無いって事になって、魔法陣魔法を作り始めたんだよな。確かそんな感じだった気がする。思ったよりも使える魔法なんじゃないかって思って、魔法屋を始めたんだよな。
その為に貴族院で情報を得て、実家に売って稼いだ。魔法屋が出来るようになるために一生懸命になっていたよな。その時は、希望に満ち溢れていたと思っている。今はどうだ? 魔法屋をやっている自分がどう思っているのか。その整理をしないといけないんじゃないか?
魔法屋をやっているのは、楽しい。楽しいならそれでいいんじゃないか? 稼ぎが副業よりも少なくても、稼げているのであれば、それでいいのでは無いだろうか。楽しいんだからさ。
趣味が仕事になったというか、趣味がお金を生んでいると思った方が良いのかもしれない。魔法を作っているのは、仕事ではあるんだが、金を稼げているのかと言われると、不安になるところがある。魔法屋としては、ちゃんと稼げているとは思うんだけどな?
何が出来るのか、何がしたいのか。それがメインの職業であれ、副業であれ、お金が発生しているのだからいいのでは? 言い訳に聞こえるかもしれないが、稼げているのが正解なのであって、やりたいことをやればいいのでは無いだろうか。難しい事を考えなくとも。
私がやりたいようにやればいいのではないだろうか。魔法屋がやりたいのであれば、やればいいと思うんだよ。稼ぎの話は一旦横に置いておくんだよ。それでいいじゃないか。
カランカラン
「いらっしゃい。ゆっくりと見て行ってくれ」
「いらっしゃいませ!」
「ん」
「ああ、ノラか。また来てくれて嬉しいが、前回買っていった魔法はどうだった? 私の魔法と弟子の魔法を買っていったと思うんだが、相性がどうだったかと思ってな」
「店主のは良かった。弟子のは良くなかった」
「そうか。それなら仕方がないな。私の魔法だけを買っていってくれると助かる。というかだな、弟子の魔法は、今日は売り切れているから、どうしようも無いんだけどな?」
「ん」
相変わらずの口数の少なさである。これで詠唱はしっかりとするんだろうから、解らないな。最低限しか喋らないつもりなんだろう。アリアナとは別の系統だな。
アリアナは、話そうと思えば長く話せるというか、ちょっとばかり間が必要なタイプなだけで、話せることは話せるんだよな。口数も少ないと言えば少ないんだけど、会話をしようって気にはなっていると思うんだよ。上手く話せないだけでさ。
ノラは完全に会話を放棄する一歩手前なんだよな。最低限、相手に伝われば良いかなって感じの話し方なんだよ。これ以上は喋らねえよって感じがするんだよな。別に駄目とは思わないけど。
ゆっくりと魔法を見ている分には、何も思わないんだよな。普通の子に見えるんだけど、普通じゃないんだよ。最低限度の会話を極めているんだからな。察する能力が必要になってくる。
これは、試練なのか? 良く解らんね。特段、話したいことがある訳でもないし、そのままにしておくんだが。買ってくれるんだから、文句は言わない。いうつもりも無いんだけどな。
無言が続くなあ。クライヴ君も話は出来ないだろうしな。自分の魔法が見られている訳でも無いのに、ガッチガチなんだから、仕方がないよな。もうちょっと会話を楽しめるようになってくれると有難いんだが、クライヴ君も修行が必要だよ。
会話という行為自体はそこまで難しい事では無いんだけどな。思ったことをそのまま口に出すだけだ。出してはいけないこともあるが、それでも、会話をするという事を放棄するよりは良いんだけどな。コミュニケーションは大切なんだよ。魔法屋に求められているのかは知らないけどさ。
「ん。これにする」
「ん? ああ、そうか。クライヴ君、会計だ」
「はい。中銀貨5枚になります。……丁度頂きました」
「毎度どうも。またどうぞ」
行ったか。情報収集も兼ねての会話なんだが、無理な人は無理だからな。ノラは会話に向いていないタイプだし、クライヴ君もまだまだ会話が出来る様な精神状態ではないんだよな。そこまで難しい事では無いんだがね。世間話程度で良いんだからな。
ノラには携行食屋の事は宣伝しないでも良いかなって思ってしまったんだよな。正直、伝わるのかが解らない。自分のクランでは饒舌という可能性もあるんだけど、私の見立てでは無いと見た。食事に拘っている訳でも無さそうだしな。とりあえずは何も言わなくても良いだろう。
他の人には、どんどんと宣伝をしていくつもりではいるけどな。次回、ノラが来た時に、話題になりそうなら入れてみるが。そんな話題にはならない気がしているけどな。




