378話 10/18 43人目の客
どんどんと生産されて行く簡易スープの素。これでお腹が膨れれば昼飯を食べに行かなくても良いんだろうけど、流石に腹持ちが悪すぎるからな。固形物が欲しい所。直ぐにお腹が空く訳ではないとは思うけど、流石にスープだけじゃな。せめてパンが欲しい。
パンとスープ。良い組み合わせだとは思うけど、パンもそんなに安いわけではないしな。肉が一番安いんだよな。食い過ぎたら太るんだけどな。肉ってそういうものだろう?
一説にはパンの方が太るらしいが、どうなんだろうな。こちらにあるのは黒パンだからな。白パンは無いんだよ。だって、そもそも麦の種類を分けて生産していないんだから、しょうがないだろう? 貴族も黒パン食ってるよ。小麦だけのパンなら白パンになるんだろうけど。
しかし、酵母菌も無いんだよな。黒パンは硬いしそんなに美味しくないし。栄養価は高いと思うんだけどな。なんだかんだ言って、色んな麦が混ざっているんだから、栄養はあると思われる。
詳しい事は専門家に聞かないと解らないんだろうけどな。栄養学とかあるのかって気はするけどな。無いと思うんだよ。そこまで化学が発展してないだろうからな。何が良い程度の話でしかないはずだ。
まあ、大抵が肉ばかり食っているんだけどな。季節の野菜が唯一肉の値段よりも安いから、そうならざるを得ないんだけどさ。肉が安いってどういうことだよとは思うが、あれだからなあ。
冒険者ギルドに続く長い長い行列を見て、何も思わないのかと言いたくなるよな。何も思わない訳がないだろう? 冒険者ギルドを増やせよ。そう言いたい。そうしないとあの列が解消されないんだから。貴族は本当に何をしているんだと言ってやりたい。
政策立案書を出してから少々時間が経っているが、どうなっているんだろうな? 行動に移すまでに何日間かかるのかって話になってくるんだよ。建物を建てるだけで3か月は欲しいよな。
その前に解体とか、立ち退きとかも考えると、5,6か月は欲しいかもしれない。冒険者ギルドが増えるのは大分先だろうな。こればかりは仕方がないと思うんだよね。どうあがいても無理なものは無理なんだからさ。1年以内で出来れば優秀くらいに思っておかないといけないだろうな。
しかし、本当に黒パン問題はどうにかしたいと思うんだけど、どう思う? 農村で麦の仕分けをするのか? 無理じゃないかと思うんだが。10種類くらいは混じっているだろう?
前世であった麦の種類でさえ小麦、大麦、ライ麦しか知らないんだから、他にも原種なんかが沢山あるんだろうし、どうやって区別していいのかが解らんのよな。どうすれば良いんだろうか。
ある程度、学が無いとどうしようもない気がするんだけど、学がある奴が農村に行くのかって話になってくるよな。大抵、学があるという事は貴族なんだから。農村に行くはずもなく。
美味しいものを求める気持ちはあるんだろうか。見栄ばかりではなく、本当に美味しいものに費用を使うという意識は無いのかね? 美食関係に話を持っていきたいんだけど。
とは言いつつも、美味しいものって何があるんだろうか。前世であったけど、こっちに無いもの、かつ美味しいもので、簡単に作れるものがあるのかどうかなんだよな。
まず、聞いたことのある物として、調味料のさしすせそがあるよな。砂糖、塩、酢、醤油、味噌。これらがあるのかと言うと、さとしだけはあるんだよな。すせそは確認できていない。
砂糖はある。ちょっと高いけどあるよ。まあ、普段使いできるかと言われたら厳しいかなって答えるけどな。買えない訳ではないし、紅茶に入れて楽しむくらいは出来るとは思うけど。
塩はある。当然ながらある。塩が無ければ生きていけないんだから、無いと困るものなんだよな。あって当然のものなんだよなあ。海が遠いから干し肉なんかが良い値段するんだけど。
酢は無い、と思われる。味付けに使っている感じにも見えないと言うか、味わっていないと言うか。酸っぱいから直ぐに解ると思うんだよな。無いというのは、若干不自然な気もするんだけど。
酢ってビネガーの事だよな? ワインビネガーとか言うし。米酢麦酢なんかはどう作れば良いのかが解らない。ワインビネガーも作り方は解らないんだけどさ。どう作れば良いんだろうか。
醤油は無い。確実に無い。あったら使っているだろうってのが直ぐに解る。味で解るだろう? 醤油だぞ? 使われたら秒で解る気しかしない。使われてないと思うんだよ。
大豆から作れるんだよな。魚からも作れるよな。肉からでも出来たはずだよな。どうやって作るのかは知らないけど。塩は使っていた筈なんだけど、他の材料が解らない。
解らないものは、作り様がないよな。作れたら爆発的に売れると思うんだけどな。醤油とか最高だろ? 肉にあうし、魚にもあう。野菜にだってそうなんだから、万能だよな。
味噌は無い。こっちも大豆からだよな。どうやって作るのかが不明です。全く解りません。発酵食品であるという事は解っている。発酵させるには菌が必要なんだけど、菌は見えないしな。
醤油も確か同じだったと思うんだけど、菌が無いと何も出来ないんだよね。大豆を味噌にする菌が必要なんだよな。菌って何があるかって、カビかキノコくらいしか知らないんだけど。
そのカビの中でも良い奴と悪い奴が居るんだろう? それの判別をどうするんだよ。何か方法があるのかもしれないけど、それを知らないんだよな。知らないものはどうしようもない。
食事関係の梃入れは無理そうなんだよな。何なら卵革命を起こしても良いんだけどさ。鶏を沢山飼って、卵を沢山流通させるって手はあるんだけど、土地が問題なんだよな。
で、肉は要らないから、本当に卵だけになるんだよね。鶏って無精卵を産むからオスはそんなに要らないんだけど、肉にしても二束三文で叩かれるだけだし。卵で利益が見込めるのかってなる。
カランカラン
「いらっしゃい。ゆっくりと見て行ってくれ」
「いらっしゃいませ!」
「なんだ、こんな所にも魔法屋があったんだな。人ごみを避けてこっちに来たけど、これは解らないわ。何でここにあるんだろうってなる奴だわ。何でここにあるんだ?」
「初めに建てる場所を間違えたんだよ。当初は良いと思って建てたんだが、店をやってみて、大通りに建てないと行けなかったんだなと気が付いたところなんだ。もうどうしようも無い時に気が付いたんだよ。ああそれと、クランと名前を教えてくれるか? あと、狩場も出来れば頼む」
「俺の名前か? 俺はポットだ。クランは白銀の果物って所に所属している。狩場は平原だな。東側の魔法屋を利用するんだから、平原っていうのが一番普通だと思うんだが?」
「まあ、狩場についてはだろうなレベルの感想でしか無いんだけどな。だが、狩場が解らないと魔法を薦めることも出来ないからな。という訳で、平原で使うのであればこの魔法がおススメだ。雷属性の魔法ではあるが、平原の魔物全てに効果が期待できる」
「は? 平原の魔物全てってどういうことだよ? あり得ないだろ? しかも雷属性で……ん? 何だこれ? 紐で縛ってあるが、どういう事なんだ?」
「ああ、その紐は解いてくれても構わんよ。こっちに弟子の魔法があるんだが、それと混ざらない様にしているんだよ。だから遠慮なく解いてくれ。ただ、読み終わったら括っておいてくれ。そうしないと弟子の魔法と混ざるからな。因みに弟子の魔法は赤い紐で括ってある」
「そういう事か。まあ、それなら遠慮なく。……んー? 見たことない魔法だな。雷属性だし。なんか形が変だし。雷属性だし。威力がそうでもないし。雷属性だし?」
「言いたいことも解るんだが、そういう魔法なんだ。要点は効果で何とかする魔法という事だな。珍しいらしいが、効果で指定をしている関係上、雷属性になっている感じなんだ」
「んー? んー……。解らねえ。良く解らねえよ? 何でこれが平原の魔物全てに効果があるんだ? その辺が解らねえな。雷属性だし。嘘って訳でも無いんだろ?」
「ああ、嘘じゃないな。現に皆に使ってもらっているからな。売れ筋の商品でもあるんだよ。後は、弟子の魔法も見てやってくれ。と言っても内容は同じだけどな。使ってくれると助かるな」
「まあ、使う分には構わねえと言うか、普通なら試すだろ? それが魔法使いの常識なんだから。使えないなら次から使わなきゃ良いだけだしな。とりあえずは、買うだけ買ってみるが」
「そうしてくれると助かる。それとだ、携行食を求めていないか? 携行食も別の店になるんだが、売り出すんだよ。明後日の開店になるんだが、そちらも買ってくれると助かる」
「は? 何で魔法屋の店主が携行食屋もやるんだよ。っつっても干し肉の店じゃないのか? それ以外って言うと何があるんだよ? 持ち運びに難がある物は無理だぞ?」
「粉だから安心してくれ。お湯をかけるとスープになる物を発売しようと思っている。東の大通りに店を構えるから、もしよければ試してやってくれ。好みはあるとは思うけどな」
「んなもんがあるのか? 良く解らねえが食事担当に言っておくわ。水はどっちみち持たないといけないから、何とかなるんじゃねえの? とりあえずは魔法だけどな。これで頼む」
「クライヴ君、会計だ」
「はい。中銀貨2枚になります。……丁度いただきました」
「毎度どうも。またどうぞ」
行ったか。携行食の店の宣伝も出来たし、まあまあの収穫って所だろうか。新規の客は、色々と思う所があるんだろうが、それは仕方が無い事だしな。今後もあるだろうし。




