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舞台裏『走れメロス』  作者: 夕暮 瑞樹
2/2

舞台裏『走れメロス』

アナウンス  /「本日は〇〇文化センターまでお越し頂き、有難う御座い……」

スタッフ   /「それでは開幕までー3ー2ー1…」

(ブザー)

メロス[金倉]/「私は村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らす。今日私がこの地、シラクスにやってきたのは訳がある……」


ーー(舞台裏)ーー

*楽屋にいるメンバーが変わるごとに空行しています。

[笹川]/「おー遂に始まったか。」

[藤原]/「始まりましたねー。初舞台だぞ?緊張するわー。」

[香山]/「でも出番少しでしょ?金倉君なんかもう大変だよ、ずっと出ずっぱりだもん。」

[藤原]/「うるせぇ、俺はスケジュール合わなかったんだよ、練習時間がねぇんだから仕方ないだろ?」

[生田]/「まぁまぁ落ち着いてよ、もう本番始まってんのよ?」

[香山]/「にしても、この台詞の量えぐいわ。私やってみたい。」

[藤原]/「確かに、面白そうだな。」

[出島]/「そういや、香山さんって金倉さんと付き合ってるって聞いたけどホント?」

[生田]/「え、そうなの!?僕知らないんだけど。」

[香山]/「付き合ってるよ、かれこれ二年半位。」

[生田]/「え、だいぶ経つじゃん。何?教えてよ。」

[香山]/「いや、だいぶ有名だと思うけどね、逆に知らないんだってさっき驚いた。」

[スタッフ]/「出島さんそろそろ出番でーす。」

[出島]/「了解でーす。じゃあ行ってくるわ。」

[藤原]/「行ってらっしゃーい。」

[生田]/「行ってらっしゃいませ。」


[木下]/「おう、出島もう行った?」

[生田]/「さっき行きました。そう言えば、木下さんは知ってましたか?香山さんと金…」

[藤原]/「なぁ、客席どうだった?空いてた?パンパン?」

[木下]/「あのね、丁度いい。」

[藤原]/「何それ、喜んでいいのかどうか分かんないしw。」

[笹川]/「木下君、そろそろじゃない?」

[木下]/「あ、本当だ。有難うございます。」

[藤原]/「頑張ってー。」

[生田]/「そう言えば、笹川さんってお幾つなんですか?」

[藤原]/「あれ、覚えてない?前言ってたよ?ねぇ笹川さん。」

[笹川]/「うん、僕が年長24歳で、出島君が23歳、木下君香山君藤原君と生田君が21歳、金倉君が20歳でしょ?」

[藤原]/「よく覚えてますね。そこまでは覚えてなかったです。」

[生田]/「確認した事すら覚えてませんでした。」

[笹川]/「記憶力は負けられないよ。最年長だもん。」

[生田]/「あ、じゃあ香山さんは年下が好きなのか。」

[香山]/「何それ、今関係なくない?」


[出島]/「ただいまー」

[木下]/「ただいまですー、香山さんと藤原さんもう舞台袖いっててもいいって。」

[藤原・香山]/「了解ー。」


[木下]/「そういやさっき生田なんか話そうとしてなかった?俺が知ってたかどうだかってよく分かんなかったけど。」

[生田]/「そうそう、香山さんと金倉さんが付き合ってるって話。」

[木下]/「あーー知ってるよ。」

[出島]/「木下君って金倉君と仲良いよね?」

[木下]/「そうなんですよ、同じ高校で僕が留年したんで一応同級生というか親友といった関係ですね。」

[笹川]/「おぉ、まさにメロスとセリヌンティウスじゃん。」

[木下]/「そうですね。あ、そういえばもう一人の金倉の彼女観客席にいましたよw。」

[生田]/「え、もう一人のってまさか金倉君二股してんの?」

[出島]/「何でバラしてあげるのよ、親友なんだったら黙っててあげなさいよw。」

[木下]/「あ、なんか流れで…w。」

[出島]/「可哀想w。」

[木下]/「客席がこうあるとするじゃないですか、そしたらなんかこの辺にいますw。」

[出島]/「やめたれ、見ちゃうだろw。」

[笹川]/「ホントにねw?」


[藤原・香山]/「戻りましたー」

[笹川]/「よし、行こうか。」

[生田]/「了解です。」


[香山]/「やーもう出番終わったー」

[藤原]/「エンドロールがあるでしょ、俺は今からフィロストラストだ。」

[出島]/「俺はこれからも王だ。」

[木下]/「でしょうねー。そういやちょっと思ったんですけど笹川さんと生田ってなんか苗字からして山賊っぽくないですね。」

[出島]/「あー確かに。」

[香山]/「藤原の方が山賊っぽい。」

[出島]/「あー確かに。」

[木下]/「名前からしてもね、剛でしょ?藤原が匹敵だよ。」

[藤原]/「うるせぇな。」

[出島]/「まぁまぁまぁ。」

[木下]/「舞台カメラ見て下さい、笹川さん達が頑張ってますよ。」

[香山]/「ほんとだ。え、生田ってバク宙出来たんだ。」

[木下]/「そうだよ、あいつ運動神経だけはいいから。」

[出島]/「笹川さんもめっちゃ良いよ。」

[木下]/「そうなんですか、意外。」

[出島]/「そう、僕と笹川さんは初舞台じゃなくってね、一個前の舞台がアクションだらけなの。そん時凄かった。元体操選手なんだよね、怪我して諦めちゃったけど。」

[香山]/「へー。鍛えているにしては細いから想像つかなかったです。」


[笹川・生田]/「戻りましたー。」

[香山]/「お疲れー。」

[生田]/「いやーいましたねー金倉君の彼女。」

[笹川]/「え…」

[生田]/「あれ、見てないんですか?あの観客席の横っちょの方。」

[木下]/「あー…生田?ちょっとトイレ行こうか。」

[生田]/「…あっ」

[香山]/「何ー?何の話ー?金倉君の彼女ー?」

[生田]/「あ、いや、違う。」

[笹川]/「僕の彼女の間違いだよね?」

[生田]/「そうですそうです、笹川さんの…」

[香山]/「笹川先輩は庇わなくて良いよ。教えて?生田。」

[生田]/「あー…」

[木下]/「すまん、俺と出島さん出番だしもう行くわ。」

[生田]/「え、そんな…ってことは金倉も帰ってくるじゃん。」

[出島]/「うわ、さぞ修羅場に…頑張れ生田。」

[生田]/「え?え?やだよ僕、行かないでよ。」

[木下]/「じゃ、行くわ。」

[出島]/「行ってきまーす。」


ーー(舞台)ーー

[出島]/「果たして、お前の友人は本当に帰ってくるのかな?」

[木下]/「帰ってくるさ、必ず。」

[出島]/「しかしもうタイムリミットは後15分だぞ。」

[木下]/「それは…。」

[出島]/「そらみろ、自信を無くしてるじゃないか。裏切られた気分はどうだ。あいつに殺されたも同然だぞ。人を信じて何が良い。そうだろ?」

[木下]/「…もし帰って来なくたって僕は裏切られたなんて思わない。貴方みたいに人を殺したりもしない。」

[出島]/「それはどうかな。お前にとって裏切り者はあの男だけかもしれないが、私は何人もの裏切り者を見てきている。やはりわしの気持ちは、誰にも分からんか。」

[木下]/「…」


[藤原]/「あぁ、メロス様!」

[金倉]/「誰だ。」

[藤原]/「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。…もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方かたをお助けになることは出来ません。」

[金倉]/「いや、まだ陽は沈まぬ。」

[藤原]/「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

[金倉]/「いや、まだ陽は沈まぬ。」

[藤原]/「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」

[金倉]/「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い!フィロストラトス。」

[藤原]/「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」


[藤原]/「セリヌンティウス様、どうか御無事で。」


[金倉]/「おいゴォラ、待てぇ!」

[木下]/「えっ!?え、メロス?」

[出島]/「まっまさか本当に帰ってくると…」

[金倉]/「お前か、バラしたんわ。」

[木下]/「あっメロス、本番中やて…」

[金倉]/「知るかぁ、ちょっとこっち来いや!」

[木下]/「えっほんまにあかんて、メロス?メロスー!!」


[出島]/「…………私は激怒した。私は初公演である今日、必ずこの舞台を成功させようと決意していた。舞台に失敗はあってはならない。この舞台は私の人生でたった三度目の舞台である。私は一生懸命台本を覚えた。今日未明私は家を出発し、京阪に乗って野を超え山を越え十キロ離れたこの〇〇ホールへやってきた。私にはまだ彼女もいないし立派な一軒家も無い。めちゃくちゃ大人しい柴犬一匹と二人暮らしだ。この柴犬とは長い付き合いで、近頃老いを感じる。もう別れ際が迫ってきているかもしれないのである。私は、それ故この舞台を成功させその給料で柴犬との思い出を築こうとしていたのにおいぃぃぃぃぃぃ!最後の最後に何しやがんだてめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


[藤原]/「ちょっと、出島さん落ち着いて下さい。」

[笹川]/「対処法は素晴らしかったけど一旦、一旦落ち着こう。」

[出島]/「はぁ!?二股彼女がバレたぁ?んで彼女に怒られたぁ?知るかボケェェェェェ戻ってこいやお前ら!おい、誰かあいつらをヤれ、メロスもセリヌンティウスもどうっでもいい両方ヤれ。」

[笹川]/「出島君、そうだよね、分かるよ、成功させたかったもんね、分かるよ、あいつらが悪い、出島君は間違ってないよ。」

[藤原]/「そうっすよ。まじでそうっす。落ち着きましょう。深呼吸しましょう?吸ってぇ、吐いてぇ。もう一回しときます?吸ってぇ、吐いてぇ。」

[出島]/「……もう知るか。」

[藤原]/「ほんとそうっす。」

[笹川]/「…えー大変お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした。ちょっとね、何が起こったかはシークレットのままでお願いしたいんですが、此処でシメとして私達が学んだ事を皆様にお伝えしたいと思います。それはですね、容易く人を信じるなという事でございます。信頼関係を持つ事は大事ですしこの話に出てくる王の様に攻撃性のある疑心暗鬼というのはよくありませんが、逆に信用しすぎると、これまた厄介な事に巻き込まれますので、さぞご注意下さい。えー本日はこれまでとさせて頂きます。折角足を運んで頂いたのに申し訳ありません。今日が初日なのでね、あと六日程あります。是非また来て頂いて、本来の舞台を見に来て頂けたら光栄です。…そうですね、今日来てくださった方でご不満だからもう一度来たいという方は御帰りの際チケットをもう一枚無料で差し上げます。次に来ていただいた時にそれをご提示していただけるとタダで見る事ができますのでね、本日は大変失礼致しました。また是非お越しください。有り難うございましたー。」

(ブザー)


ーー(舞台裏)ーー

[金倉・木下・生田]/「今日はすいませんでした!!

[出島]/「……」

[笹川]/「まぁ、大丈夫。出島はこの後飲みに行って今日の記憶消させるわ。」

[金倉・木下・生田]/「ほんっと助かります!!」

[香山]/「私も飲む、金倉とはもう一生付き合う事ないし。」

[金倉・木下・生田]/「……」

[藤原]/「…仕方ないよ金倉、悪いのはあんただよ金倉。でも今日の公演は途中までは凄かったよ、皆褒めてたんだよ?演技上手いなーって。よく台詞覚えられるなーって。」

[金倉]/「……はい。」

[笹川]/「…じゃあもういっそみんなで行くか、明日の公演に影響が出ない位に皆でパーっと飲もうよ。」

[藤原]/「そうですね。行きましょう、皆で。明日は又頑張らなくちゃいけないんだから。」


こうして、舞台『走れメロス』の初公演は幕を閉じたのであった。

ー完ー

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