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舞台裏『走れメロス』  作者: 夕暮 瑞樹
1/2

台本『走れメロス』

ーーー《走れメロス》ーーー

 演者の皆様、今回は私の舞台に出演・ご協力頂き、大変有り難く思います。小劇場の為、あまり世評に響くかどうかは保証できませんが、これが皆様の最初の舞台であり、此処から名が広まる事を願っております。


ー【配役】ー

 メロス役: 金倉めいき様 セリヌンティウス役:木下清吾様

 王様(ディオニス)役:出島奥也様  妹役:香山リカ様

 フィロストラスト兼花婿役:藤原剛様

 山賊役:笹川俊樹様,生田隼人様


ー【公演日程】ー

 2023/5/21(日)〜5/27(土) 午後のみの公演


ー【練習日程】ー

 各自で予定を調節して下さい。


ー【脚本】ー

メロス/「私は村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らす。今日私がこの地、シラクスにやってきたのは訳がある。私は両親がおらず、たった一人の妹がいる。その妹が結婚式を挙げるというからそのご馳走を買いにはるばるやってきたんだ。」

セ/「おい、メロスじゃないか。珍しいな、こんな市街に何の用だい。」

メ/「俺は妹の結婚式のご馳走を買いに来たんだよ。セリヌンティウスこそ仕事は捗ってるのか?」

セ/「勿論だよ。それにしても久しいね〜。明日、いい店紹介してやるよ。」

メ/「明日?」

セ/「あぁ、宿がないなら今日はうちへ泊まってくか?」

メ/「なんで明日なんだよ。今日じゃだめなのか?」

セ/「あーそれがな…此処二年のうちに王が変わってな、ちょっと事情が変わったんだ。」

メ/「事情が変わったってどういう事だよ。」

セ/「静かに話せ、聞かれたらまずいから。あのな、奴は人を殺すんだ。」

メ/「何故?」

セ/「“お前は悪心を抱いている”なんて決めつけて殺すんだ。何の根拠もなしにね。」

メ/「そんなの自分が疑心暗鬼なだけじゃないか。で、何人殺したのさ?」

セ/「初めは奴の妹婿、次に奴の世嗣、妹、その子供、皇后、賢臣のアレキス…」

メ/「奴は乱心なのか?」

セ/「いや、そうじゃない。お前が言った通り、疑心暗鬼なだけなんだ。でも被害があまりにも多すぎる。そして酷すぎるんだ。今日も街の人六人が連れてかれ、殺された。」

メ/「…呆れた王だ、生かしてはおけない。」

セ/「え、何をするんだ?やめとけ、おい、やめとけって!」

(メロスは街で騒ぎを起こし捕縛される)

デ/「この短剣で何をするつもりだったんだ!言え!!」

メ「市を暴君の手から救うのだ。」

デ/「はは、お前がか?仕方ない奴だな…お前にはわしの孤独がわかるはずがない!」

メ/「言うな!人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。貴方は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」

デ/「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、お前達だ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。わしだって、平和を望んでいるのだが。」

メ/「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。罪の無い人を殺して、何が平和だ。」

デ/「だまれ、下賤げせんの者。口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔はりつけになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」

メ/「ああ、王は悧巧りこうだ。自惚うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ…。ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

デ/「ばかな。とんでもない嘘うそを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。

メ/「そうです。帰って来るのです。私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。頼む、そうして下さい。」

(ディオニスがほくそ笑む)

デ/「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

メ/「なに、何をおっしゃる。」

デ/「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

(下手からセリヌンティウスが捕縛された状態で来る)

(メロスとセリヌンティウスは目を合わせ、頷く)

(メロスが下手から出て行く)

(妹の結婚式場にメロスが来る)

妹/「もう、お兄ちゃん遅いよ…どうしたの?顔色良くないよ?」

メ/「あぁごめん、必死に走ってきたから…ほら、シラトスで買ってきたご馳走だ。皆で食べよう。」

妹/「うん!ありがとう!」

メ/「きて早速悪いんだが、私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるんだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。そしてお前、仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」

(花婿と妹は頷く)

妹/「じゃあお兄ちゃんも気を付けて、どんな用だかわからないけど体調はしっかり整えてね。」

メ/「分かった、有難う」

(次の日)

メ/「急がないと…セリヌンティウス、待っていろ。」

(上手へはける)

(上手から出てくる)

(荒れた川の前で立ち止まる)

メ/「ああ、鎮しずめたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」

(メロスは荒がおさまらない川を必死でわたり、下手へ)

(下手から出てくる)

山/「待て。」

メ/「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」

山/「放す訳ないだろう?持ちもの全部を置いて行け。」

メ/「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」

山/「その、いのちが欲しいのだ。」

メ/「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」

(アクション)

(メロスが勝つ)

メ/「お前らには分からないのかもしれないが、私にはやり遂げねばならぬ使命がある。王に人を信じるという事を教えなければならぬのだ。」

山/「…そうか、行ってこい」

(メロスは上手へ)

デ/「果たして、お前の友人は本当に帰ってくるのかな?」

セ/「帰ってくるさ、必ず。」

デ/「しかしもうタイムリミットは後15分だぞ。」

セ/「それは…。」

デ/「そらみろ、自信を無くしてるじゃないか。裏切られた気分はどうだ。あいつに殺されたも同然だぞ。人を信じて何が良い。そうだろ?」

セ/「…もし帰って来なくたって僕は裏切られたなんて思わない。貴方みたいに人を殺したりもしない。」

デ/「それはどうかな。お前にとって裏切り者はあの男だけかもしれないが、私は何人もの裏切り者を見てきている。やはりわしの気持ちは、誰にも分からんか。」

セ/「…」

(市街の背景に変え、上手からメロスが出てくる)

フ/「あぁ、メロス様!」

メ/「誰だ。」

フ/「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。…もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方かたをお助けになることは出来ません。」

メ/「いや、まだ陽は沈まぬ。」

フ/「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

メ/「いや、まだ陽は沈まぬ。」

フ/「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」

メ/「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い!フィロストラトス。」

フ/「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」

(そのままフィロストラスを置いてメロスは下手へ)

フ/「セリヌンティウス様、どうか御無事で。」

(メロスが舞台手前に出てくる)

メ/「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」

(舞台へ上がる)

メ/「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」

(皆が驚き、メロスを見る)

(セリヌンティウスの縄が取られる)

メ/「セリヌンティウス。」

セ/「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

メ/「ありがとう、友よ。」

(メロスがセリヌンティウスを殴り、抱きしめる)

デ/「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

観/「万歳、王様万歳!」

〜エンドロール〜


ー【注意事項】ー

 本番中体調が悪くなった場合、遠慮せずスタッフにお知らせください。決して無理をせず安全第一でお願いします。

 楽屋配置は前日辺りにスタッフへ連絡を送るので報告をお待ちください。


*監督:葉山龍三 原作者:太宰治 

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