第四十三話
四人はそれぞれ、互いに離れないよう連携しながら、目の前の二匹のオーガの攻撃をなんとか防いでいた。
前衛と思われる三人は必死でオーガの振り回す拳を掻い潜り、手に持つ得物でオーガに切りかかろうとする。
しかしオーガたちも互いに近い位置にいるため、どうしても避けるのが精一杯のようだ。
前衛に気を取られている間に、唯一の魔術師は攻撃魔法を唱えようと必死にタイミングを測っているが、肉薄する仲間への誤爆を恐れ、なかなか撃てないようだった。
そうこうしているうちに、緊張と長時間の戦闘で動きが鈍ったのか、ブレストアーマーを着た男性が、オーガの拳の餌食となった。
男の口から息が漏れ、合わせて吐血した。
どうやら内臓が損傷したようだ。
オーガの拳がぶつかった勢いで、男ははね飛ばされ、仰向けに地面へと投げ出される。
装備しているブレストアーマーはひしゃげ、衝撃の強さを物語っていた。
男は息はあるものの、痙攣を繰り返すその身体から、早急に手当をしなければ危ない状況のようだ。
「ハンス様。このまま見ているんですか?」
「うーん。見捨てるのも心苦しいが、横槍を入れるのもちょっとな。せめて救護要請の合図でもあればいいんだが……」
救護要請の合図とは、助けが欲しい時に上げる煙や音などで、これも冒険者たちの間で作られた文化だった。
それがあれば例え横槍を入れても、後から来たパーティの正当性が保証されるのだ。
冒険者たちも死ぬより悪いことは無いから、もしもの時は気兼ねなく使った。
もう一人の前衛が被弾し、さすがに無理を悟ったのか、後衛の魔術師は魔法を唱え、光と音を発生させた。
魔術師が使う救護要請の合図で、ダンジョンの中でも十分に遠くのパーティにも届くものだ。
ハンスはセレナに近くに他のパーティが居ないことを確認させた後、急いで呪文を唱え、魔法陣を描いた。
「広範囲睡眠」
声が響かないよう、ハンスは小声で魔法を唱える。
ハンスが放った魔方陣は、後衛の魔術師も含め、オーガや冒険者たちを眠りへと誘った。
ハンスはセレナに合図し、眠った冒険者を起こさないよう注意しながら、安全な位置に移動させ、瀕死の前衛二人に応急処置を行った。
回復魔法を使える者が居れば一番なのだが、そんな人物がいるパーティなど、勇者アベルと聖女エマのパーティ以外にはない。
聖者や聖女は聖堂と呼ばれる、大きな都市に建てられた施設の中で、冒険者に限らず、怪我や病気で苦しむ人々を治療するため、回復魔法を使っている。
今ハンスが使ったのは、回復魔法には遠く及ばないが、薬師達が調合した、回復薬だ。
この薬を用いると、表面的な傷だけでなく、内部の傷も時間がかかるが癒してくれる。
処置が終わると、おもむろに未だにいびきをかいて寝ている二匹のオーガの元へ近づいた。
二匹ではハンスが試したかった新作の補助魔法の効果を確かめるためには数が足りない。
移動したとはいえ、近くに他のパーティがいるのも問題だ。
残念と思いながらハンスは、オーガが起き出さないよう、今度は複数睡眠を唱え、オーガたちを更に深い眠りへと落とした。
セレナはそれを見届けると、何も言わずに頷き、眠って地面に伏しているオーガたちの頸椎に、短剣を深々と突き刺した。
オーガはピクリと一度だけ身体を痙攣させると、そのまま眠ったように息を引き取った。




