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はよ付き合え~バッドエンドで転生したらなぜかラブコメなんですが~

作者: 上城ダンケ

「いって来ます!」

「朝ご飯は?」

「食べながら行くっ!」


 母から受け取った冷めたトーストを口にくわえ、「遅刻遅刻!」と叫びながら少女は猛ダッシュする。


「きて! 運命の人!」


 曲がり角。全身の筋肉に力を入れ、その時に備える少女。そして、時は来た。曲がり角から少しだけ見える視界。そこに人影。間違いない。男だ。それも男子高校生。


「今よ!」


 完全なる防御の型を決めつつ高速で曲がり角を曲がった。瞬間、右肩に伝わる衝撃。


 やった! ぶつかった!


「きゃ♡」


 受け身を決めつつ可愛く道に転ぶ少女。


 ふう。大丈夫。怪我はないわ。パンも大丈夫ね。セーラー服とかいう衣装も無事だわ。


 チラ。目を開けてみる。きっと目の前に素敵な殿方が立っていて「大丈夫ですか?」と優しい言葉が私にかけられるはず……。


「貴様! 毎日毎日我の邪魔ばかりしおって! 今日という今日は許さん!」


 少女の期待は裏切られた。彼女にかけられたのは優しい言葉ではなく男子高校生の罵声だった。


「ちょ、なんでアンタがここにいるのよ、魔王!」

「それはこっちのセリフだ、女勇者め! くそせっかく転生したというのに、全然うまくいかぬではないか!」

「それはこっちのセリフよ! 私だって今日こそは彼氏を作ろうと……」

「ちょっと待て、そ、それは!? もしかして!?」


 魔王と呼ばれた男が女勇者と呼ばれた女のセリフを遮った。女勇者の足元に落ちてるパンを見つめている。


「き、貴様ッ! 貴様も預言者キリストの身体を手に入れたのか! ふ。まさか勇者たるものが黒魔術に手を染めるとはな」

「は? 黒魔術? なにそれ?」

「とぼけずともよい。貴様の足元に落ちているパンとかいうもの。それの正体は預言者キリストの身体なのだ」

「確かにキリスト教とかいう宗教ではパンはキリストの肉、ワインは血とされているけど……」

「むう。やはり貴様も知っておるではないか、この世界の秘密を。やはり黒魔術を、」

「だーかーらー!」


 今度は女勇者が言葉を遮った。


「知らないって黒魔法とか!」

「今さら嘘をつかなくともよい。――預言者キリストの身体を業火で焼き、それを口にくわえつつ血刻、血刻と呪文を唱え疾走せよ。さすれば曲がり角にて運命の異性と出会えるであろう――。この黒魔術を実践したことは、業火に焼かれたパンとやらを見れば火を見るよりも明らかだ!」

「……つーか、それ、アンタもだよね?」

「な!」


 虚を突かれた魔王が狼狽した。


「な、何を言っておる。我は別に彼女など欲しくない。ただ、転生先でも魔王として君臨するために黒魔術の研究をしておってだな」

「私はね」


 女勇者が立ち上がった。


「彼氏が欲しかったの!」


 ばし。足元にあったパンを魔王に投げつける。


「大魔道士の娘として幼い頃から魔法戦士として育てられ、愛も恋も知らずに育ち、そして死んだ。それが前世の私。転生先で普通に恋愛くらいしてもいいでしょ? なのに、なんでまたアンタが邪魔するわけ!? 前世でも私アンタに殺されたンだよ? あの戦争が終われば、除隊して、お見合いしてってなってたのに!」

「それはお互い様であるぞ! 我だって、貴様と相打ちとなり死んだのだっ!」

「だからなに? アンタ魔王だったんでしょ? 権力笠に着て女魔族とやりまくりだったんでしょ、どーせ!」

「そんなわけあるか! 我は生まれたときより次期魔王として帝王学を叩き込まれたのだ。よいか? 支配者にとって一番大事なことは何だと思う? それはだな、後継者選びなのだよ。うっかり異性と交わり子を設けるなど言語道断。後継者争いの内紛が勃発してしまうのだ。だから、我は、ずーっと、ずーーーーーーっと自分の手で自分を慰めておったのだ! 彼女など、いなかったのだ!」


 じっと手を見る魔王。


「だから……転生したし……彼女くらい欲しいと思って……黒魔術を……それなのに……それなのにッ!」


 魔王が立ち上がった。目が光りだす。


「もう許さん。女勇者よ。数々の我に対する妨害行為、もう我慢の限界だ。時空魔法で次元の狭間に追い込んでやるッ!」

「はん。できるものならやってみなさい? この世界には魔素はないのよ? いくら魔王だって、魔素がなければ……」

「それがあるのだよ」


 魔王が不敵な笑みをうかげた。


「微量ながら、この世界にも魔素はあるのだよ、女勇者。我はこの一週間、ひたすら魔素をため込んだ。その結果、魔法一回分程度にはなったのだ!」

「な、なに!?」


 ぶおん。魔王の周囲の時空が歪んだ。


「ふふ。貴様の着ているそのセーラー服とやら、対魔法繊維ではできておらぬようだ」

「っく!」


 女勇者が唇をかみしめる。後ずさりし、魔王に背を向け電信柱にしがみついた。


「そんなことをしても無駄だ。時空魔法アットザゲートッ!」


 魔王の両手が伸び、掌から時空のゆがみが放出された。歪みはまっすぐ女勇者に向かっていく。


「さあ、時空の狭間に飛び込むがよい!」


 歪みが女勇者に激突。


 ぴら。


 スカートがめくれた。純白のパンツが露わになる。


「あれ?」

「この変態!!!!」


 ぶおん。女勇者が魔王にカバンを投げつけた。カバンは見事に激突、魔王は倒れた。そこに向かって女勇者がダッシュ、馬乗りになり魔王の胸ぐらを掴んだ。


「なにが時空の狭間に飛び込むがよい、よ! スカートめくりじゃない、これ! ふざけないでよ! 道の真ん中でパンツ丸出しなんて、お嫁に行けないっ!」


 バカバカバカと女勇者は魔王をぽかすか殴る。


「ま、待て、そんなつもりはなかった。我の計算では時空に割れ目が発生してだな……ん? お、ちゃんと割れ目が出来ておるではないか」


 さすさす。魔王が指を這わせる。


「ど、ど、ど、ど、どこ触ってんのよ、このド変態魔王っ!」

「ぐはう!」


 みぞおちに一発。


「こうなったら……角を折ってやる! 魔王の象徴かつ魔力の源泉、魔王の角を折ってやる! どこよ、どこにあるのよ角は!? いいなさい!」

「角など……ない……転生後、角は生えてこなかった……」

「見え透いた嘘ね」


 きゅ。女勇者がなにかを掴んだ。


「これは何?」

「そ、それは!」

「この棒状の固いもの。まさしく、角ね?」

「ち、違う! そ、それは! つか、わかるだろ、普通!? 貴様、男の裸みたことないのか!?」

「ええ、ないわ。男とは無縁の訓練生時代だったものね」


 女勇者が微笑む。


「さてとどうやって切り取ろうかしら。ナイフは持ってないし」

「や、やめろ」

「噛み切っちゃおうかな?」


 女勇者がくるりと体位を変え、角に正対する。そして口を寄せた。


「や、やめろ!」

「あのー」


 服の上からガブリといく直前、声がした。みると小学生の少女だ。


「誰?」女勇者が聞く。

「お久しぶりです、兄者の妹君です。前世ではどうも」


 女子小学生がぼそっと答えた。そして魔王に近づき、しゃがみ込むと耳元でささやき始めた。


「兄者、いくらなんでも公道の真ん中で交尾はいけませぬ。この世界ではそのような行為は治安維持者によって捕獲され八つ裂きの刑にされまする」

「な、なんだと? この世界にそんな決まりが!?」驚く魔王。

「交尾なんかしてない!」叫ぶ女勇者。


「確かに、まだ前戯の途中みたいですね」


 すくっ。立ち上がる女子小学生。


「では私はこれで」


 少女は立ち去った。


「魔子ちゃーん!」

「あ、ユカリどの」

「はやく学校いこ!」

「心得た」

「何していたの?」

「兄者が交尾しようとしていたので止めさせておった」

「コービ?」

「幼き者は知る必要の無い言葉である」

「ふーん。ところで、魔子ちゃん、相変わらずしゃべり方変だね?」

「帰国子女ゆえ」


 魔子が振り返る。そして、いまだ道路上で組んずほぐれつドタバタしている2人に向かって言った。


「はよつきあえ」

 


 





 

おわり

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