最強幼なじみを見返そうと彼女出来たと嘘ついたら襲われた
「祐汰そんなに毎日牛乳飲んでて空しくならないの。効果ないでしょそれ」
放課後、いつも通り購買で買ってきた牛乳を飲んでいるといつの間にか現れた友人の透が失礼な言葉を投げかけてきた。
「効果がないかは分からないだろ」
透を睨みつけながら言葉を返す。だが俺の威嚇は透には効果がないようで気にすることもなく会話を続けてくる。
「ないでしょ。祐汰の成長を1年間見てきた僕が言うんだから間違いない。その証拠に今年の身体測定の結果去年とほとんど変わってないでしょ」
なんでこいつは俺の去年と今年の身体測定の結果を知っているんだ。動揺していると透がそれを見透かしたようにニヤッと笑っていた。なんだか悔しいのでこれ以上気持ちを悟られないようそっぽを向くことにした。
「透の方が俺より身長低いだろ」
「僕と張り合ってどうするのさ」
その通りなのだがそこまで堂々とされるとは思わなかった。
「それに俺が毎日牛乳飲もうがどうしようがお前には関係ないだろ」
「確かに僕には関係ないけどさ。健気な努力だと思ってさ。吉川さんもそんなに祐汰に思われて幸せ者だなぁと」
吉川の名前が出た時点で反射的に振り向く。そこには先ほど同様二ヤケ面を浮かべた透がいた。
「なんでそこで麻衣の名前が出てくる」
吉川麻衣は俺の幼稚園の頃からの幼なじみである。麻衣とは高校生になった今でも一緒に登校しているのでクラスメイトにも幼なじみであることは知られてしまっている。
「隠してるつもりだったの。確かに男子だったら身長高い方がいいだろうけどあの吉川さんの隣を歩くならそりゃ身長はいくらでも欲しいよねってのは考えなくても分かるでしょ」
確かに透の読みは当たっている。俺の身長が160センチ程度なのに対して麻衣は170センチを優に超えている。小学生の頃はこれから超えてやると息巻いていたが高校生になった今では越えられない壁として絶望を感じている。言い当てられて俺が言い返せずにいると透が追撃してくる。
「大丈夫。文武両道最強無敵の吉川さんは祐汰の事それくらいで見捨てたりしないって」
「俺はその麻衣と対等な立場になりたいんだよ」
「ありゃりゃ。立派に拗らせてるね」
麻衣が俺の上をいっているのは何も身長だけではない。勉強では必死に勉強しても全ての科目で負け運動でも男女差がありながら勝負すれば結局いつも麻衣が勝っている。どれだけ頑張っても麻衣に勝てない。麻衣に対してコンプレックスの1つや2つ抱くのも無理はない話である。ただ言われっぱなしも癪なので透にも改めて意思表示することにした。
「身長は超えられないかもしれないけど。なんか1つでも絶対に麻衣を超えて見返してやるから覚えとけ」
「それ僕に言っても仕方ないんじゃ……。まあいいや覚えといてあげる。それじゃ吉川さん来たみたいだし行ってあげたら」
その言葉を聞きドアの方を見るとそこには確かに俺の幼なじみである麻衣が立っていた。
数分後、俺と麻衣は2人で帰路についていた。
「今日いつもより少し遅かったけどなんかあったのか」
麻衣は俺と同様帰宅部だがたまに運動部の助っ人を頼まれる時がある。そういう時は帰るのが遅れるのだが今日は部活の助っ人にしては時間が短く中途半端なタイミングだった。
「ああ、ちょっと告白されて断るのに手間取っちゃって」
勉強も運動もできしかも幼なじみとして多少贔屓目に見ても綺麗である麻衣は当然のことながら凄くモテるのである。日に数人から告白されることも珍しくないという。しかし、麻衣は何故かその全てを断っていた。そんなに告白されれば1人くらい良さそうな奴がいてもいいと思うのだが。前にそう言った時は笑って誤魔化されたので真相は闇の中だ。
「相変わらずだな」
「もう慣れちゃったけどね」
告白を断り慣れてる奴なんて同い年でもそうはいないだろう。俺なんて未だ告白したこともされたこともない。そんな事を考えていると頭の中に閃きがあった。麻衣はまだ彼氏が出来たことがない。それは幼なじみである俺が1番良く知っている。ならば俺が彼女を作れば恋人を先に作る事においては麻衣に勝ったことにならないだろうか。
「祐汰どうかした?」
俺の返事が遅いのを心配して麻衣が話しかけてきた。勝手に1人で興奮してしまったが冷静に考えれば俺が今から彼女作るよりも麻衣が適当な誰かと付き合う方が早い気がする。そう考えた俺はある決断をした。
「麻衣、お前に伝えておきたいことがあるんだ」
珍しく俺が真剣な表情をしているからか麻衣は自分の衣服や髪を整え改めて俺の方を向いた。
「な、なに祐汰」
「俺、彼女が出来たんだ」
麻衣の瞳が何故か少し濁った気がしたのは俺の気のせいだろうか。
今から真面目に彼女を作っていてはとても間に合わないと思い俺は彼女をでっちあげることにした。幸い俺と麻衣は違うクラスだし麻衣は放課後は運動部の助っ人として時間を使うことも珍しくない。その空いた時間に色々あったと言えば何とかなるだろう。まあ万が一嘘がばれても遅めのエイプリルフールと言えばいい。
「そうなんだおめでとう。ちょっと聞いてもいいかな?」
思ったよりもリアクションが薄い。どうやらさっきの麻衣の変調は俺の思い違いだったようだ。
「いいぞ言える範囲なら」
「その彼女さんとはいつから付き合ってたの?」
「先週からだな」
あまりにも時期が前だと麻衣といつも休みも遊んでいるので嘘がばれてしまう。
「そうなんだ。彼女さんとはいつ出会ったの?」
「高校に入ってからだな」
「彼女さんは身長高い?」
「俺よりも小さい」
麻衣はその後も質問攻めを続けてきた。同じ学年かとか好きなところはとか。最初は同じ学年、話していて楽しいところなどしっかりと答えてきた記憶があるが後半は俺も疲れてきて適当になっていた。そうして質問が終わったかと思えば今度は急に無言になった。こちらから話しかけようか悩んでいると意を決したかのように口を開いた。
「もしかしてその彼女って透さん?」
「へっ?」
俺は焦って変な声を出してしまった。透は一人称が僕で中性的な顔立ちでショートカットで貧乳だが確かに女性であることには変わりない。そして今まで俺が答えた質問の内容は奇跡的に全てが彼女が透であることを示していた。麻衣以外の異性として無意識のうちに透を思い浮かべながら話していたのかもしれない。
証拠が集まっているためノーと言えず、ただ透に確認されれば一発で嘘だとばれるためイエスとも言えず俺は沈黙を続けた。
「やっぱりそうなんだ」
どうやら麻衣は俺の沈黙をイエスと受け取ったようだ。その後は特にお互い話をすることもなく多少の気まずさを感じながら俺たちは麻衣の家の前まで辿り着いた。
「じゃあまた明日な」
俺がそう言って帰ろうとすると麻衣に腕を掴まれた。悲しいことに俺の方が力は弱いので麻衣の方に引っ張られてしまう。
「どうした麻衣?」
「家に寄っていかない?まだ聞きたいこと残っているし……。ゲームでもしながらさ」
これ以上聞かれるとボロが出そうなので帰ろうかと思ったがゲームが負け続きであることを思い出し勝ち星をつけるため俺は麻衣の提案に乗ることにした。
ゲームはレーシングゲームで先にコースを3週した方が勝ちというシンプルなルールだ。しかし、途中で入手出来るアイテムによって相手の妨害もできゲームの腕以外に運も求められる。ちなみに俺は昔から1度も麻衣に勝てたことがなかった。
「おい。そこでアイテム使うのはずるいだろ」
「無防備でいる方が悪いんだよ」
そして今日も未だ1度も俺は勝てていなかった。
「ちくしょう。また勝てなかった」
「ふふふ。残念だったね祐汰」
心なしか上機嫌そうに見える。聞きたいことがあると言っていたが何も聞いてこないし俺の嘘がばれる危機も去ったかもしれない。
「次こそ勝つからな」
「楽しみにしてるよ。そうだ、祐汰ちょっとこっち来てもらっていい?」
「ああ。分かった」
俺は麻衣の部屋のテレビ近くに座っている。俺は疑問に思うことなく麻衣のいるベッドの方へ向かった。
「捕まえた」
言うが早いか俺は気づけばベッドの上で麻衣に押し倒されていた。両腕は麻衣の両手で抑えつけられ体は腰に乗られて動けない。突然のことに頭がついていかない。ただ1つ分かるのは麻衣の眼は捕食者のそれであり絶対ろくなことにはならないということだ。
「おい、離せ」
「せっかく捕まえたのに離すわけないじゃん」
必死の抵抗を試みるが体格差、筋力差から全然動けない。唯一動く首を動かすと麻衣が舌なめずりしていることが分かった。
「なんでこんなことするんだ」
「相変わらず鈍感だね祐汰。まだ分からないの?」
なんのことだ。嘘をついたのは少し悪いと思っているが拘束されるほどではないと思う。
「ほんとに分かってないんだね。じゃあ教えてあげる」
麻衣の顔が近づいてくる。顔を両手で固定されそしてお互いの距離がゼロになった。
「私は祐汰が好きなの」
麻衣が俺のことを好き? にわかには信じがたい内容だが麻衣は流石に好きでもない奴にキスするような物好きではないはずだ。
「お前に何でも勝てない俺のどこが好きなんだ」
自虐的な質問になってしまったが麻衣が俺を好きになる要素が思いつかない。
「色々あるけど1番はそうやって私にいつも挑んできてくれるところかな。他の人は私に挑む前に諦めちゃうけど祐汰はいつでもなんでも真剣に私と向き合ってくれるから」
何年も幼なじみやってきたがそこを気に入られていると思わなかった。
「麻衣が俺を好きなのは分かった。だけど俺には彼女がいるんだぞ」
「だからだよ。まさか透さんに先をこされるとは思わなかった」
麻衣の声のトーンが1段階低くなる。本当は透と付き合っていないんだと言い出すタイミングが無くなってきた。非常にまずい気がする。
「麻衣の方から告白しようとは思わなかったのか」
「祐汰が私をそういう対象に思ってないのは知ってたし。それに祐汰から誰かに告白なんてしないだろうなって思ってたから祐汰チキンだし」
誰がチキンだと言いたかったが事実なので言い返せない。次の言葉に迷っていると俺にまたがっていた麻衣がその体勢のまま上の服を脱ぎ始めた。
「おい、何してる」
「何って服を脱いでるんだけど?」
「俺が聞きたいのはなぜ脱いでるかだ」
「なぜって男女が部屋で服脱いですることって1つしかないよね?」
まずいまずいまずい。麻衣は本気で言っている。目が笑っていない。心なしかいつもより淀んで見える。
「落ち着け麻衣。まだ間に合う」
「そうまだ間に合うの。その反応を見るにまだ透さんとはプラトニックな関係だよね。だから祐汰のはじめて私が貰うね」
間に合うってそういうことじゃない。このままでは大変なことになると思った俺はようやく真実を伝える覚悟を決めた。
「麻衣聞いてくれ。透と付き合っているっていうのは嘘だ。恋人作る早さくらいお前に勝ちたくてデタラメ言ってたんだ」
麻衣の服を脱ぐ手が止まる。どうやら頭に入った情報を処理し切れていないらしい。
「透さんと付き合ってないの?」
「ああ。あいつとは友人以外の何物でもない」
「それも嘘とか言ったりしない?」
「言わない言わない」
それを聞くと緊張が解けたのか麻衣はゆっくりと俺の上に倒れてきた。どうやら一旦難を逃れたらしい。
「最初に祐汰が付き合い始めたって聞いた時頭が真っ白になった」
少し時間をおいて麻衣は俺とベッドで向かいあった状態で語り始めた。
「それで透さんに祐汰のこと渡したくないって思った」
「そこは祝ってくれよ」
「好きな人が他の子と付き合うの素直に祝福出来る程いい人じゃないよ私」
顔を見て正面から好きな人と言われると中々に恥ずかしい。麻衣の表情はさっきまでと違ってどこかすっきりしている。透への彼氏を奪おうとする罪悪感が無くなったからだろうか。良かったと思っていると麻衣に肩を押された。完全に不意をつかれ俺はベッドの上に倒れた。そして再び麻衣は俺の上に跨ってきた。
「おい、麻衣どういうつもりだ」
「色々考えたけどやっぱりこれくらいしないと祐汰との関係変えられそうにないし」
「そんな事しなくたってお前の気持ちもう十分に分かったって」
「それに祐汰チキンだからこのままだとそっちからは何もしてくれないでしょ」
だからチキンって言うな。こちとらピュアな男子高校生なんだから仕方ないだろ。
「今なら間に合う。考え直せ」
「そんな事言って。祐汰も実はまんざらじゃないでしょ。さっきまでと違って全然抵抗しないし」
まあ幼なじみとはいえプロポーションが良く綺麗な女子に迫られるのは悪い気はしない。ただそれを伝えると負けた気がするので目をそらした。
「図星かな。祐汰って思ってること当てられると目をそらすよね可愛い。大丈夫、はじめてでも優しくしてあげるから」
「お前だってはじめてだろ」
「そうだけど」
麻衣は恥ずかしげもなくそう答えた。駄目だ完全に覚悟を決めてしまっている。
「祐汰はしたくないの?」
「物事には順序ってものがあるだろ。いきなりそういうことから始まるなんて不健全だろ」
「じゃあ恋人になろ。そしたら今からしてもいいよね?」
「そんな雑に恋人になっていいのか」
「いいよ。どんな形でもまず恋人になることが重要だし」
俺の嘘から始まった今回の件でどうやら麻衣は決意したらしい。
「今いいって言ったら体目的で付き合うみたいになるだろ」
「難しく考えすぎだよ。体は私のものなんだから私のこと好きってことでいいじゃん」
駄目だ口でも言いくるめられる気がしない。
「告白の返事教えて祐汰」
麻衣と目が合う。ここまで来たら腹をくくるしかないだろう。
「……こんな俺でも良ければよろしく」
「うん。よろしくね」
その言葉と同時に麻衣は俺に飛びかかってきた。そこから先の出来事は俺の頭の中だけにとどめておくことにする。ただ1つ言えるのは俺はここでも麻衣に敵わなかったということだけだ。
翌日、登校すると透に朝から声をかけられた。
「おはよう祐汰。大丈夫? ちょっとやつれて見えるけど」
「おはよう。心配するな大したことじゃない」
「ならいいけど」
透は気になっているようだが深くは聞かないでくれるらしい。
「それよりようやく麻衣に引き分けることが出来たんだ」
「おー。良かったね。何で引き分けになったの?」
「恋人が出来る早さ」
そう言ったときの俺の顔は赤くなっていたに違いない。