第10話 兎王:ラビットロード
シリュウ対ウサギの戦いは今も尚苛烈を極めている。
シリュウが飛ばす爪による斬撃も相手には当たりもしない、それに未だに見守る事しかできない自分に悔しさがあふれる
このままでは両方とも死んでしまう
少し考えた結果師匠に助けを求めようと思い来た道を全力で走り家を目指した
横目でミーシャを見ると来た道を走っていた
(よし...これで気兼ねなく戦える...)
呼吸を整えしっかりと相手を見据える
今までのウサギとは格段に違いただの食料ではなく今回は明らかに敵だ
それにこいつを倒したところでまだ奥にロードが控えている全力を出し切るわけにはいかない
同格相手に余裕をもって戦わなければならない
確かにステータスだけなら完全に同格だ
だが、種族的な意味での格としたなら私の方が圧倒的に上だ
(見せてやろう竜種の力を)
抑えていたオーラを解き放つ【龍種威圧Lv2】このスキルには相手の能力値を下げる効果があり他にもステータスに差がありすぎる相手には無条件降伏させることが出来る
だがこのスキルは敵味方関係なく効果を発動してしまうためミーシャが近くにいる間は発動できない
だからこその今なのだ
相手のステータスは同格なので降伏とまでは行かず相手の能力値を下げただけだ
でも十分これで戦える
先程とは変わりこちらが一歩歩みを進めれば相手は一歩後退する。ただ優位になったのはいいが油断はできない
目の前のウサギは簡単に倒せるようになったが...奥で未だに静観しているロードがいつ攻撃を仕掛けてくるとも限らない
やられる前にやる...地面を思い切り踏み込み突進し噛み付き攻撃を繰り出してウサギを丸呑みにした
丸呑みにしたのには理由があるそれは相手の能力値を奪うためだ、これでさっきの自分の倍の戦力差を手にすることが出来た
さて...
問題はこれからだ...
未だに静観している様だが、私もさっきまでの私とは違う今も尚多少向こうの方がSPDが早いがそれでも誤差の範囲にまで抑えることが出来た
スキルも何個かレベルアップしており対等に戦えるだろう...
―――そう思っていた...
攻撃が当たらない...
【氷息吹Lv5】を発動してみるも一向に当たらない、周囲はとっくに氷ついておりもはや草原とは呼べず雪原と化していた
相手には寒さへの耐性が無いにも関わらずその表情に変化話見受けられなかった
相手の真っ赤な目が少し動いたと思えば空は次第に黒くなり雷鳴が響きわたる
嘘ッ!?天候さえも操るの!?
辺りには落雷が所狭しと暴れまわり当たったらひとたまりもないだろう
そう杞憂していたがっそれは相手にも起こりうることだった、凄まじい威力の落雷はロード自身にも直撃していた。
電撃がロード自身の体を駆け回る、だがそれはやがてロードの体内で落ち着き雷の鎧と化した
これじゃあ攻撃を当てても...
相手が雷を纏っている以上自分にも雷耐性が無いと逆にダメージを貰ってしまう
これじゃあ勝ち目なんて....
相手が少し足を動かすといつの間にか背後をとられていた
あり得ない..目で追えないなんて...
振り向いては消え振り向いては消える
完全に弄ばれているのがわかる、それほどに実力差がある
だが、せめてもの抗いとして一心不乱に薙ぎ払いやブレスを吐く、やはり当たらない
すると腹部に激痛が走る、まるで雷に貫かれたかのような衝撃だ、視線を落とし自分の腹部を確認するが貫かれてはいない
ただ攻撃が当てられた箇所が痺れている
まずい、と思った時には既に遅かった先ほどの痛みが全身を襲う。
ウサギではない生物に襲われている様だった視認することは出来ないがウサギというよりまるで猛獣....
体中から血が溢れ出しみるみるうちにHPが減っていく。
これは死んだな...もう少し強くなってからリベンジしよう
最初の説明通りであれば死ぬことはないそれはゼルセラ様から説明を受けている
死んだとしても拠点で復活するはず。師匠も復活していたし大丈夫だろう
諦めて目を閉じていくと大きな影が通りかかる
まさか!?ドラゴン!?師匠が言っていた丘を越えた先に居ると言っていたドラゴンがこの騒ぎを聞きつけこっちに来たんじゃ...
っふ...くたばれ!くそウサギ!次は負けないからな!
「リュウーーーーシリュウーーー!」
頭に聞きなれた声が響く...目を開けてみれば巨大なドラゴンの背にはミーシャが掴まっていた、なにやら色々な道具を持っている.
ドラゴンが自分の近くに降り立つとすぐさまミーシャが巨大な背中から降りてくる
慌てながら何か液体の様なものを飲ませてくれた
すると体から痛みは引きHPが全回復した
体を起こしてみれば巨大な龍がウサギと向き合っていた
あの龍はいったい...
もしかして師匠...?
師匠のいっていたステータスが本当ならばこの勝負は師匠の勝利だろう
師匠の巨体であまり見えなかったがウサギは一応攻撃している様だった、ただ師匠はなんの痛痒も感じていないようだった
「師匠強すぎ...」
同感だ...師匠の強さは別次元のものだった
戦いはすぐに終わった、私達には見えなかったがウサギは一瞬で倒れた。
「やはりただのMOBだったか...」
「師匠...今のは...」
「ん?ただ尻尾で薙ぎ払っただけだ」
『だけって...』
「強さへの道は毎日コツコツだ、いきなり強い魔物と戦わんでいい、帰るぞ」
返事をして師匠の背中に乗る巨大な背中は安定感がありどこか落ち着く雰囲気を感じた
「それにしても、どうしてわざわざ儂を呼んだんじゃ?別に死んでもすぐに復活するというのに」
確かにそうだ、死んだとしてもまだ次がある。あの世界とは違うなのにどうして...
「それは...死んでほしくないと思ったから...あんな思いはしたくなかったから...」
師匠は「そうか」とだけ頷くとそれ以上は何も言わなかった。
そうだよね...私は死んで色々あって転生してこうして今も生きているけど、ミーシャは私が居ない世界で一人で生きてたんだ...今も...




