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夏の思い出~半袖セーラーの中学生に乗っかられた暑い夜~

作者: 藤宮千代

夏が来ると思いだす。

涼風とともに現れる少女の姿を。


とうとう見てしまった!

それが最初に思ったことだった。


ある夏の夜、いつものように私のベッドに寝に来たパグのブウと甥のあっくんに挟まれ、暑さでうだっていた私のおなかに腰を掛けるように彼女は浮かんでいた。


私の家は夏でも結構涼しい。だから夏でも部屋の窓を開けていれば風が入ってクーラー要らずだった。

しかしそれは1人で寝ていればの話で、いつも一緒に寝ている体温の高い犬と、夏休みに帰省してきた兄一家の甥のあっくんにぴっとりとくっつかれて寝ているとさすがに暑い。

両方体温が高いので、当人たちも暑そうにふうふう、ブウブウと寝息を立てている。(パグは寝息がうるさい)

暑いのになぜかぴっとりくっついてくる小動物たちに、私も暑いがかわいいので押しのけられず、結局みんなで暑がりながら団子のようになって眠るのが、甥のあっくんが小さい頃の夏の風物詩だった。


そんなある夜、いつもながら幸せなのかつらいのかわからない状態でふうふう言ってると、ふいにひんやりとした空気の流れを感じた。

あ、風が入ってきた・・。うれしいと思う間もなく、おなかに何かを感じた。

それは決して重いとか苦しいとかというものではなかったが、明らかな存在感というようなものを感じ目を開けると、おなかの上にセーラー服を着た女の子が座っていた。


イヤー!!ユーレイ!!と声も出せずに心の中で絶叫する。

もしここで幽霊が怪談の定番のように恨めしそうに私をのぞき込んだりしていたら、即座に気絶していただろう。

そんな自他ともに認める怖がりの私が意識を保っていられたのは、その幽霊の女の子がこちらを見ていない、というか気づいてもいない様子だったからだ。

彼女は少しレトロな白い半袖のセーラー服を着ていた。不思議と明るく感じる光の中で私のおなかあたりに横座りというか、階段やちょっとした段差に腰掛けるような感じで座っている。

寝ている私からは背中や肩、彼女の肩にかかる髪くらいしか見れないが、華奢な体つきや半袖からのぞく細い腕、肩にかかる飾り気のないまっすぐな黒い髪からすると、まだ幼い中学生ぐらいの印象を受けた。


目をつむるのも怖くて固まっていたらいつのまにか消えていて、部屋は暗くなっていた。

夢だ、夢に違いない、夢に決まっている、夏だからな。

必死に自分に言い聞かせて目をつむった。

相変わらず犬と甥っ子はぐーぐー寝ていたが、部屋はひんやりしていて寝やすかった。


夢だと思いたかったが、彼女はそれからもたびたび現れた。

暑い夜、特に甥っ子や犬に引っつかれ、暑くてよく眠れない夜に涼風とともに現れるのだ。

最初と同じように何事もなく、こちらに気づいた様子もなくじきに消えるのでこちらも慣れたが、やはり怖い。

奇妙なことに彼女が表れている間はそれほど怖くはない。

なにしろ、右ではパグがぶーぶー、左では甥っ子がぐーぐーと寝ている状態ではあまりシリアスな気分にはなれない。

むしろよく寝ているパグにイラっとして、追い払えとは言わないけど、異変を察知して吠えるぐらいのことはしろよっと心の中で文句を言っているくらいに余裕がある。まあ、甘やかし放題、わがまま放題に育てた犬なので、目を覚まして幽霊を見たら腰を抜かしかねないから眠ったままのほうがいいのではあるが。


実際に遭遇しているいる夜にはそんなに怖くないのだが、昼間に同じ部屋で一人でいると怖くなる。

こんなに何度も同じ幽霊を見るということは、彼女にとりつかれているんじゃないかと怖くなってしまう。

もちろん、まだ9割ぐらいは印象的な夢を繰り返し見ているだけだと思っているけれど、万が一幽霊にとりつかれていて、そのうち悪影響が出たらと悩み、ある日冗談めかして甥の父、つまり私の兄に相談してみた。

兄も笑って変な夢を見てるんだなとでもいうかと思ったら、血相を変えて私に迫ってきたので驚いた。


「なにそれ、半袖セーラーの女子中学生が乗っかってくるってうらやましい!」

私がぽかんとしていると、兄は照れたように笑って、

「いや、俺セーラー服ものが昔から好きなんだ。やっぱりセーラー服は永遠のあこがれだよな」などと言い出した。

年の離れた温厚な兄の性癖など知りたくなかった・・・。


そういえば中学生のころ、友達が自分の兄のベッドの下から変な雑誌を見つけたって言ってたなと思い出す。

アニメの女の子が表紙の雑誌で、その女の子が昔の紺のスクール水着を着てるの!との発言に、みんなで机をたたいて爆笑したのを思い出す。

しかも胸に「1-A」とかゼッケンをつけてるやつ、と続けてきたので呼吸困難になるほど笑ってしまった。

あのとき彼女も笑ってたけど、本当はこんなにやるせない気持ちだったんだろうか。笑って悪いことしたな。今度会う機会があったら何かおごるね。

と現実逃避をしていたら、兄が怖いなら帰省している間だけでも部屋を替わろうかと笑顔で言いだした。


その笑顔を見ていると、たとえ幽霊でもこんな大人を女の子に近づけるのは非常に抵抗があったので、きっぱりと断わった。


結局変わりなく部屋で寝ていると、彼女はそれからもときどき現れた。

相変わらず私に気づいたふうもなく浮かんでいるだけなので、だんだんと慣れて怖くはなくなった。

私が1人で寝ているときも現れたが、夏の特に暑い夜以外は現れることがなかったので、私は夏の女の子と呼んでいた。


それから何年も彼女は現れ続けたが、私が旅行したりして家を空ける期間には現れることはなかったので、彼女は私にではなく私の部屋に憑いているのだろうなと思うようになった。





最初に夏の女の子に逢ってから、もう10年以上過ぎた。

彼女が出るときによく一緒に寝ていたパグのブウはずっとぶうぶうながら最後までわがまま放題で虹の橋を渡って行ってしまった。

私にべったりだった甥っ子のあっくんも高校生になり、最近は友達と遊んだり部活動が忙しいようで兄たちの帰省にはついてこない。


一人でベッドに寝ていると、昔のぎゅうぎゅうとした暑苦しさがなつかしくもさびしくなり、夏の女の子が出てくるとその変わりなさがうれしくも感じる。

けれど、彼女がどういう存在なのか、どうしてこの部屋に現れるのかはわからないけど、彼女は行くところがないのかなと心配に思うようになった。

彼女はいつもちょっと下校途中に一休みとでも言いたげな感じで腰を掛けているが、帰る場所はないのかもしれない。

私も就職が決まり、家を出ることになった。

誰もいない部屋で彼女が一人ぽつんと浮かんでいるところを想像すると切なくなってくる。



しかし、そんな私の思いとは別に、私と入れ替わるようにして兄一家が実家に戻ることになった。

私の部屋は甥っ子が使うようになるらしい。

あまり変わりのない兄と最近の家族の話をしていると、兄が変な笑顔で甥っ子の部屋でエロ雑誌を見つけたと言いだした。


「やめて」

ねえちゃん、ねえちゃんと私にべったりだった甥っ子のそんな話を本当に聞きたくない!

「いや、雑誌を見つけたときは、あいつももうそんなに大きくなったんだなと感慨にふけっちゃったよ。

しかもそれが半袖セーラーの子が表紙のやつ。前に俺がセーラー服好きだって話したことあったろ。

血は争えないなと思ったよ」と笑う兄に、私も何とも言いようのない気持ちで半笑い。



セーラー服ものの雑誌を抱えた甥っ子が私の部屋で寝ることを想像すると夏の女の子に感じていたセンチメンタルな気分がどこかに行ってしまった。


ねえ、あなた。この世も怖いところだから、本当に早く行くところを見つけたほうがいいよ。

本当に怖いのは生きた人間だ、というありふれた話。


甥っ子の趣味からすると、夏の女の子は主人公の夢ではないらしい。

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