ローグ、修業の場が実は妖精郷だったと知る
山道を歩く。
「ちょっ…まっ…ハァハァ。早い。早いってば!」
予想外だが一番遅れたのはベガやアルタイルではなくて、リタだった。ベガやアルタイルは魔物ハーフなので、見かけによらず体力があるらしい。
「リタ、おそいーっ!」
アルタイルが軽口をたたく。笑顔。笑顔だ。街を出てから数日、アルタイルやベガが少しずつ笑うようになった。最初はずっとこわばった顔をしていた。当初の目的、世界を救う。そのことを真剣に考える。休憩をはさみながら、ゆっくりと山を登っていく。
山を登り、谷を降り。山を登り、谷を降り。そうやって7日ほどかけて、俺が修業をしていた谷につく。
「へー、もっと地獄みたいなところで修業してたのかと思ったけど、けっこう綺麗なとこじゃない?」
「なんか、見たことない果物とかある!おいしそう!これ食べられます?」
リタとアルタイルがはしゃぐ中、ベガが、目を丸くして硬直していた。
「どうした?ベガ」
「こっ、こっこっ、こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、ここ!」
「ここ、妖精郷です!!!!!!!!!!」
◇ ◇ ◇
妖精郷。
名前だけは知ってる。
おとぎ話とかによく出てくる、妖精の住まう郷。決して人間がたどり着くことはなく、もしたどり着いてしまった場合、二度と帰れないという。
「たどり着けたし、帰れたのだが?」
「正しくは、妖精が昔住んでいた元妖精郷です。今はすんでいない…どうしてここを離れてしまったのかわかりませんが…、妖精の気配が、まだ、そこかしこに充満してます」
「ローグさん、ここの食べ物を食べたり、湧き水を飲んだりしました?」
「修業中に飲んだり食べたりしたが?」
「なんてことを!」
「妖精郷の飲み物食べ物を普通の人間が食べたら、不老不死になっちゃいますよ!ローグさんが以上に若いのも、そのせいです!」
「そうなのか」
「へーえ、そうなんだ、じゃあ、飲んでみよ」
「飲まないほうがいいです!人間じゃなくなりますよ!」
「俺は人間じゃないのか」
「いえ!ローグさんが人間じゃないとか、そういう意味でいったのではなく!」
「いや、冗談でいったんだ、別に気にしてない」
「ローグさんは真顔で冗談を言わないでください!コミュ障ですか!」
「すいません、ずっと山にこもっていたもので」
「…ローグさん、ずっと山に、15年こもってったって言ってましたよね…15年…?」
「ああ、正確な時間はわからないが、山にこもって外に出た時に木の年輪で確認した。ここでは、いつも花が咲いていて季節がわからないからな」
「この妖精郷では、時間の流れが違うんです……外の世界での10年は、ここでの1年に相当します」
「つまり、どういうことだ?」
「ローグさんが修業していた時間は、15年じゃなくて、150年です……」
「アハハハハハハハハッハ!」
リタが笑う。
「そりゃあ、あれだけ強いわけだ。っていうか150年修業って!おかしいって途中で気づけよ!」
「いや、おかしいと思ってたんだ。どんな大けがをしても死なないし、そこの木の実を食べたら、どんな大けがをしてても治って疲れが取れるし」
「おかしいと思ったらなんとかしろよ!」
リタとアルタイルに左右から突っ込まれる。
「ローグさん、この郷のことは絶対に秘密です!私たちだけの秘密です!いいですね」
「わかった、約束する。でもなんでだ?」
「もしかしたらいつか、ここに妖精たちが戻ってくるかもしれないからです、わかりましたか?!」
「わかりました」
そうして、4人で指切りをして、洞窟に置いてあったもろもろの道具と、そして、ドライフルーツにしてあった『ケガが治る不思議な木の実』を入れた袋をもって、この郷を後にした。
面白い!続きが気になる!と思われた方!ブクマしていただけると励みになります!あと、広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますとさらにうれしいです!