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入院患者様の配薬をしていた時のこと。
「あれ? 佐伯さん、食が進んでいませんね。どうかされました?」
佐伯和代さんの箸が止まっているのが目に入り、不安に思った私は声をかけた。
「年寄りになると食が細くなるんだよ。おまけに病気までしたら、余計に食欲がなくてね」
佐伯さんは以前に患った結核の再発で入院していた。 結核の治療に栄養摂取は重要な治療である。
私はあることに思い当たり、ナースステーションに急いで向かった。
「山下さん、佐伯さんの食事の事なんですけど」
「どうしたの?」
今見てきた状況を、指導看護師の山下看護師へ相談する。
「食事をペースト状にしたらどうでしょうか?」
「ペースト状に?」
「咀嚼が少しうまくいっていないようなので」
「ドクターに確認して栄養科に連絡して」
「はい」
ドクターから許可をもらい、栄養科に連絡した。そして、佐伯さんの食事を夕食分からペースト状にしてもらうよう依頼した。
夕食の配膳になると、私は佐伯さんのトレーを持って病室に向かった。
「佐伯さん、これならどうですか?」
「あれぇ、食べやすくしてくれたんだね」
「お昼の様子をみて、食べにくそうだったので」
「結城さんの気遣いに感謝して頑張って食べないとね。お気遣いありがとう」
佐伯さんは、スプーンを動かす手が軽やかになった。




