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エッジストーン家の人たち(前)

週1回くらいで更新できたらいいなぁ…と思ってます。

私を養子に迎えてくれるという上級貴族はエッジストーンという家だった。

にこにこ笑う、人のよさそうなおっちゃん。

それが、私を迎えにきた「石使い」ショーン・エッジストーン様の第一印象。


アメちゃんのいるドームには、つながっている洞窟から大人が出入りできるくらいの穴が開いていなかった。どうやら、王都から随分離れた、未開発の田舎の洞窟だったらしい。

私はアメちゃんに背中を押されて、転移魔法を使ってエッジストーン家のお屋敷近くの洞窟へ一人で転移した。転移先で待ち構えていたのが、ショーン様というわけだ。


まったくの余談だが、この世界の転移魔法には大きな制限があるようで、発と着の両方に同じ種類の魔法石がなくてはならないらしい。今回の場合は、紫水晶。発側・着側で同時に精霊が力を使って初めてゲートが開くのだそうだ。

なるほど、洞窟の壁にはアメちゃんが宿った石ほどではないが、大きめの紫水晶の結晶があちこちから顔をのぞかせている。石と会話ができない人たちにとって、転移魔法は少しハードルが高い魔法なのかも知れないなと思った。


「よく来たね。私は当主のショーンだよ。養子に迎えるんだから、私のことはこれから養父様(おとうさま)と呼んでね。」


ちょっとぷっくらしたお腹が、いかにもお金持ちの上級貴族っぽい。

一見すると裏表のなさそうな笑顔の持ち主なのに、にこにこ笑いながら簡単に自己紹介すると、養父様は今回の養子縁組に際して、とんでもない裏設定をぶっちゃけ始めた。


「で、ここからが重要なんだけど、世間的にはすみれは私の妾腹の子ってことになるから、そこは絶対間違えないように。」

「えーっと、それは一体…」


あまりの申し出に目をシロクロさせる私に、養父様はいたずらっぽく笑った。


「精霊様に聞いたところ、すみれは力のある石使いなんでしょ。普通に養子で縁組すると、他の石使いの血族がやっかんで、横槍入れてくる可能性もあるかなと思うんだよね。うちの方が、養子に迎えるのにふさわしい家柄だとか言ってさ。だから。」

「はあ、ソーデスカ」


とりあえず、全くもって上級貴族らしくないこの養父様という人は、かなり自由なタイプの人らしいことだけは分かった。


「えっと、突然妾腹の子どもを引き取るとか言って、ご家族の方は大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫。妾腹設定っていうのは、もともと奥さんのアイディアだから。子どもには言ってないけど、うちはそういうとこ意外と自由っていうか、みんな石にしか興味ないっていうか。ま、そういうのは会えば分かるから。」


養父様が話しながら洞窟を先に立ってずんずん進むと、開け放した石造りの大きな扉にたどり着いた。そこをくぐれば、屋敷の地下室へ到着だ。

扉の内側で待ち構えていた召使が扉を閉めると、どこからともなく小さな精霊が舞い降りて丁寧に扉に錠をかけたあと、養父様の肩口にとまった。

白っぽい容姿の彼女が、肩口から私に手を振っているのが見える。

彼女が嬉しそうにぴょんぴょんはねるたびに、オーロラ色の光が彼女の中をよぎった。


「君にも見えているのかな。彼女は私の護り石の精霊だよ。」

「きれいですね。白い石にオーロラ色の光、ホワイトラブラドライトかな?」


何気なく口にした言葉が終わるか終わらないかの瞬間、まばゆい光が地下室中を満たした。

あ、すっごいデジャヴ。


さすがに2度目ともなると、もう次に何が起こるかわかった。

まぶしい光がおさまったころあいを見計らって、ゆっくり開いた私の視界には、プラチナブロンドの相当美人さんな精霊のお姉さまがたたずんでいた。


「トマス、大至急スカーレット()を呼んできてくれ。ここで家族会議を開く。」


厳しい表情で養父様が言い放った命令に、側に控えていた召使は一礼すると飛ぶようにその場を去っていった。




***********


家族会議は、地下室で質素なテーブルを囲んで行われた。

養父様と養母様、私、ホワイトラブラドライトの精霊ちゃん。

養母様は、魔法石の研究をしている人だそうだ。

話をしてみて分かったが、重度の石オタクでもっぱら研究ばかりしている引きこもりらしい。

彼女の肩口には、薄い黄色のドレスを着た可愛らしい精霊が乗っていて、こちらも私を見て手を振っていた。

何の石か分かっても、さすがにもう3度目はないから!


私が自分の名前を口にしてくれないので、彼女は少しすねてしまったようだ。すねた顔も可愛らしかった。


養父様と養母様は真剣な顔で、今後の対策について話し合っている。


方針としては、私が妾腹の子というスタンスは変わらず。生母様は私を取り上げられることを恐れて、今まで田舎に隠れ住んでいたが、自分が病に倒れたことを機に、子どもをエッジストーン家へ差し出したという設定でいく予定だ。

隠れ住んでいた田舎と生母については、これからトマスが秘密裏にリサーチを重ねて、それなりの知識を私に教育することになった。


当初の予定としては、私の5歳の誕生日-もちろんでっちあげーに私のお披露目の会を開いて「護り石」ともども社交界に紹介する予定だったのだが…


「それよりも前に、まず常識について教育しないと人前に出せないね。」

「割としっかりしてるから、もう7歳くらいで通してもよくない? で、10歳の入学までに常識面は仕上げて、それまでは病弱ってことにして人目を避けて」

「光ってさえいなきゃ、精霊様も外に出せるんだが…」

「ダメよ、あなた。彼女は一番見られちゃまずい、石使いにしか見えないんだから」


とりあえず、他の人には聞かせられない内容だ。

私は隣に座っている、まだ大きいままのホワイトラブラドライトちゃんと顔を見合わせながら、この後どうなるんだろうと首をひねった。


「多分何もなければ、私は1日くらいで元に戻ると思うわよ。」

鈴のなるような声でにっこり笑いながら彼女は言った。

「だからショーン、大きい魔法を使うんだったら早めにね。」


はい、爆弾発言キターーー。

養父様の顔が一気に引きつった。


「つまり、大きな姿でいるときは、魔力もたくさんあるから大きい魔法が使えるってことなのかな?」

「まあ、器が大きいから、満たす魔力もそれなりの量になるわね。割と楽に大きい魔法も使えるかなと。」

「それはまずいよ、精霊様。そんなことが他の家に知られたら、すみれを巡って戦争がおきかねない。」


養父様は頭を抱え、養母様は研究熱がたぎってきたのか、その瞳を輝かせた。


「ごめんなさい、何でそうなるか意味が分からないんですけど。」


戦争という言葉に血の気がひいていく。私は自分の置かれた立ち位置をしっかり確認しておかなければならないと思った。


養父様は顔をあげて弱々しく微笑むと、丁寧に教えてくれた。


まず、この世界に存在している精霊は、今養母様の肩口に座っているサイズが通常サイズだということ。

40年近く石使いの家で精霊を身近に感じていた養父様でさえ、人型に大きくなった精霊に初めて遭遇したということ。

私がさっきうかつに口にした呪文-私にとっては石の種類名だったわけだが-が、養父様の耳には聞き取れなかったこと。


聞き取れない呪文が発音できるわけがない。

というわけで、私=チートの出来上がりとなるわけである。

冗談じゃない! そんなことこっちは何も知らなかったわけだし。


創造系や治癒系の魔法が得意な精霊様が大きな魔法を使えるようになるのであれば、まだ許容範囲かもしれないが、破壊系の魔法が得意な精霊様が今より大きな魔法を自由に使えるようになるとなれば、世間がざわつくのは当たり前だ。


座ったまま、可愛らしく頭を左右に振っているホワイトラブラドライトの精霊ちゃんに尋ねてみた。


「自分でサイズを変えることはできないの?」

「できないわ、愛し子ちゃんが開放の呪文を唱えてくれなきゃ」


…やっぱりチート認定は外れなかった。

って、ちょっと待った! 愛し子ちゃんって何!!!?


とりあえず、この世界における私の人生は、前途多難なようです。

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