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精霊王のオリエンテーション

3本めで、やっとプロローグ終了です。

ハーブティーのあとは軽食がふるまわれて、私はアメちゃんに見守られながら、おしゃれなアフタヌーンティーを楽しんだ。

紫水晶(アメジスト)の椅子に紫水晶(アメジスト)のテーブル。ほのかな紫のグラデーションがとてもきれいなテーブルで食べる軽食に、アメちゃんとの話もはずむ。

さっきアメちゃんが私を検分した際に、体の汚れも一緒に浄化されてしまったらしい。洞窟を転がり落ちてきて汚れていたはずの私の肌は、なぜか青白く光り輝いてさえいるように見えた。

そんなこともあって、私たちの話題はもっぱら魔法のことだ。


アメちゃんは、私の態度に自分に対する怯えがみられないのは、今の世界について無知なせいだと思っているようだ。丁寧にこの世界について、教えてくれた。


この世界の一番大きなポイントは、魔法使いはいても魔術師はいないということだ。ほとんどの人間は魔力をもっていないし、魔獣などという怪物も存在しない。

いるのは、「石使い」と呼ばれる、精霊を使って魔法を実現させる人たちだけだ。

この世界の魔法は、魔法石と呼ばれる石を使って発動される。石使いたちは、魔法石に宿ったそれぞれの石の精霊たちと対話することによって魔法を発動させるのだ。石使いたちが使うのは、魔方陣でも呪文でもない。石と対話するための言葉だけ。そして、石と会話することができるのは、ほんの一握りの一族だけらしい。

石使いの一族に生まれ、その才能を認められたものは、5歳の誕生日に一生の友となる「護り石」を決める。その護り石に宿る精霊と友好を深めて、魔法使いとなるわけだ。

魔法使いという職業は国で管理されている職業で、そのほとんどが宮廷に使える上級貴族らしい。

それぞれの護り石に宿る精霊ごとに、使える魔法のタイプに得意、不得意があり、宮廷に使える石使いたちはその得意魔法にちなんだ通り名を持っているんだそうな。

「炎爆の魔法使い」とか、「爆裂の魔法使い」とか?

なんか、チュウニっぽい…


私みたいにまれに貴族以外の血筋で、対話スキルを持った子どもが生まれることもあるらしいけど、大抵そういう子どもは石使いの養子として、一族に取り込まれていくんだそうです。

国の才能管理、徹底してる。


そこまで説明して、アメちゃんはため息をついた。


「すみれ、非常に言いづらいのだが、すみれを探している人が見つからないのだ。」


どうやら、アメちゃんは私にこの世界の説明をしながら、探査魔法を駆使してこの洞窟の近辺で迷子の子どもを捜している人がいないか、ずっと探っていたらしい。

ここで意識を取り戻してから、ご飯を食べたり、話をしたり、既に結構な時間が過ぎていた。

これだけ時間を空けても、誰も探していないということならば、やはり私は捨てられたということで間違いないのだろう。

記憶の中の今生の親を思い浮かべてみたが、やっぱりという思い以外、何の感慨も起こらなかった。

昔から感情の起伏が少ない子どもだといわれ続けた私だが、実の親に捨てられても何も感じないとなると、いよいよ人として何かが欠けていると言われても、言い返すことができない。

まあ、でも親らしい親でもなかったからな。

心配そうに私を見守るアメちゃんに、私は薄く微笑んだ。


「本当は、いつまでもすみれにここに居てほしいと思っている。けれど、そういうわけにはいかないのは、分かるな?」

アメちゃんは、私の手をそっと握った。

「今の王都には、力のある石使いが本当に少ない。その中から、すみれを託せそうな者にそなたを養子にとらせようと思うのだ。」

アメちゃんの言うことは分かった。石と自由に対話ができる私は、遅かれ早かれ国に目をつけられて、その管理下に組み込まれてしまうだろう。

例え前世の知識があろうとも、まだ小さい子どもの容姿をした私に、一人で生きていく力はない。

無理やりシステムに組み込まれる前に、自分で保護者を決められるのであれば、こんないい話はまたとないだろう。

でも…

頭では分かっていても、私はその疑問を口にせずにはいられなかった。


「どうして、私にそこまで力を貸してくれるの?」

私の問いかけにアメちゃんは少し困った顔をした。


「久しぶりに人の子と話せて嬉しかったから、ではダメかの」

「久しぶりって?」

「さて、100年ぶりくらいだったか…?」


自虐的に笑うアメちゃんの瞳の奥に、誰も訪れる者のいないドームで100年の間来訪者を待ち続ける孤独な姿を見たような気がした。


「それにしたって、やり過ぎだよ」

「そう言うな。それに、我のことをアメちゃんなどというふざけた呼び方で呼ぶのはそなただけだぞ。我らは十分仲良しであろう?」


やっぱりアメちゃん呼びは砕けすぎだったか。アメちゃんの言葉に私も笑った。


「そうだ、忘れないうちに、すみれにこれを授けておこう」


アメちゃんが空中を握りこんだと思ったら、華奢な1本のサークレットを手にしていた。中央にアメジストの大きな石がついていて、その周りを小さなアメジストの複雑な組み合せが飾りたてている。


「そんな高そうなもの、もらえないよ」

そういって、後退りしたがアメちゃんのリーチの方が長かった。

まるで戴冠式のように、アメちゃんが私の頭にそっとサークレットを乗せると、サークレットは自動的に私の頭のサイズに伸縮し、ほのかに輝きながら私の頭に同化して消えていった。


「一体何をしたの?」サークレットについていたアメジストが触れていた額が、まだほんのり温かい。


「すみれがここを出て行っても、私がずっとすみれの存在を感じていられるように、いつでもすみれの助けになれるように、私の加護を与えたんだ。」


アメちゃんは優しく微笑もうとしていたけれど、その瞳はとても寂しそうで、うまく笑うことができないみたいだった。

私は、そっとアメちゃんに触れて、彼を抱きしめる。


「ずっとここに居てもいいんだよ?」

「それは、ダメだ。すみれは、外の世界に出て、もっとたくさんのものを見て、経験を積んで、君に隠されたたくさんの可能性を見つけなければ。」

アメちゃんは、ゆっくりと首を横にふった。


「迎えが来るまで、眠るといい。温かい布団がほしかったんだろう?」


いつの間にか、アメジストのテーブルセットは消え、私のための布団が用意されていた。

何かの毛皮だろうか。もこもことした感触のそれに包まれて、私はいつの間にか眠ってしまった。




 

*****



夢を見た…と思う。

ドームの中には、アメちゃんのほかにももう一人、金色に輝く男の人がいて二人で何か話している。


「とりあえず、首輪はつけたってところかな?」

「人聞きの悪いことを言うな、ルチル」

ルチルと呼ばれた男の人に、アメちゃんが怖い顔で抗議していた。


「我はいつでもあの子を見守り、助けると約束したのだ。そのためには、あらゆる手をつくす。」

「一体いつの約束の話をしているんだ、500年前か?」

「いや、453年だ。そんな昔じゃない。」


アメちゃんの顔は真顔だった。


「まるで呪いだな。いいさ、好きなようにすればいい。僕は君に協力するよ。僕らの愛し子のためだしね。」

ルチルの姿がウィンクをした笑顔のまま空気に溶けて消えていった。

「石だけに意思は固い、と」

ドーム内にはルチルのさむい親父ギャグだけが残り、それも空しく響いて消えた。



これはきっと夢だ。

だから、目を覚ましても覚えていない…。


私の中の混沌の湖から浮かびあがりかけた何かは、またゆっくりと水底へ沈んでいった。

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