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そして、振り出しに戻る

更新が1週とびました。すみません。

「それで?」


オオタの追跡劇から二日後、私は一人で洞窟にいた。

どこの洞窟かって?

そんなの、もちろんアメちゃんのドームがある()()洞窟に決まってる。


この世界には魔獣がいないこともあって、私の中に調教(テイム)について知識は十分あったはずなのに、そこに全く考えがおよばなかった。

オオタは野生動物だという先入観が私の目を塞いでしまったのだと思う。

野生のオオタカが妙に人慣れした行動をしている →

                 魔法を使って操っている人間がいる

という短絡的な考えで、操っている人を見つけようと闇雲に魔力の痕跡を探したのが間違いだった。

オオタには魔力の残滓は感じられなかったし、追跡調査を行っても魔法使いと接触する気配もみられない。

行き詰った状況に一時は頭を抱えたが、発想を転換すると全く違う世界が見えてきた。


魔法の痕跡が見つけられないのならば、素直にその事実を認めれば……どうなる?

話は簡単だ。オオタは自分の意思で毎日エッジストーンに通っている。

野生のオオタカが人に慣れているはずがない。魔法で操られているのでなければ、単純に人に対する振る舞いを調教されたオオタカが、自分の意思で動いていると考えればストンと納得ができた。

詳しい生態も知られていない、あんな大きな鳥を調教しようなんて考えそうなのは、魔法使いでなきゃ精霊くらいしかいないでしょ?

私が知ってる精霊の中で、そんなことをしでかしそうな精霊はただ一人、アメちゃんだけだった。

リーフに調教は可能だと言われて、私の中の疑いは更に深まった。

オオタの後ろにいるのがアメちゃんだとしたら、勝手に付与した加護の件といい、どうせ過保護に走ったろくでもないことが目的に決まってる!


その可能性を一度考えてしまうと、焦りとか憤りとか、信じてたのになんでとか、いろんな気持ちが後から後から湧き上がってきて、もういてもたってもいられなかった。

一刻も早くアメちゃんに会わなければ。

だけど…ただ会いたい人(?)に会う、たったそれだけのことなのにことは簡単に進まなかった。

まず、転移魔法でこの屋敷にやって来た私は、アメちゃんのドームがある洞窟の正確な位置を知らなかった。

これで陸路を移動して会いに行くプランは没だ。

転移して洞窟に帰るには、来た時と同様の条件を整えなくてはならない。出発点だけじゃなく到着点でも同時に魔法を使わなければならない、というあれだ。

エッジストーン側の精霊は簡単に名乗りをあげてくれたが、肝心のアメちゃんに連絡がつかない。こちらの精霊から呼び掛けても、全く手応えがないのだ。

この時点で私の疑惑は、確信に変わった。


やりましたね、アメちゃん。

バレたと思って、わざとシカトしてる?

このまま有耶無耶にできると思ったら、大間違いだからね!!


おのずと私の怒りのボルテージはMAXだ。

私の肩口でリーフも同じように怒っている。


「リーフ、確かアメちゃんと同郷だったよね。

誰でもいい。ツテを使ってアメちゃんの現在位置を確認して。

大体の見当はついてるのよ。どうせ、オオタが鳴いてたあの湖の近くでしょ。

転移魔法の使用を拒否するのなら、オオタに乗って乗り込むからってアメちゃんに伝えて。

返答次第では本当にやるからね。」


オオタに乗って乗り込むから、の辺りでリーフに動揺が走った。

知ってる、彼女は心配性だが出来る子だ。結果を出すに違いない。


そして二日後の今、私はアメジストドームにいる。


「それで?」


自分から姿を現そうとしないアメちゃんを解放の呪文で強制的に顕現させると、猛烈抗議タイムの始まりだ。


「私に言いたいこと、あるよね。」

口元だけでニッと笑いかけて問いかけると、アメちゃんは一歩後退った。


「元気そうだね、すみれ。少し肉付きが良くなって、子どもらしい体型になってきたんじゃないか。」

ほう、この状況でそういうこと言うんだ。

「話しが噛み合ってない気がするんだけど、気のせいかなリーフ。」

「はい、全くもって白々しいことこの上ありません。」


この二日間でリーフはアメちゃんの身辺を徹底的に洗い出していた。

愛し子がオオタカに乗って遠距離を移動するなどという無謀を黙認する精霊は一人もいない。

リーフが声を掛ければ掛けるほど捜査網は広がり、ねずみ算式に捜査員は増え、最近のアメちゃんに関する情報が山のように私たちの元に寄せられた。

つまり、裏取りは完了済み。もうネタは上がっているのだ。


「聞いたところによると、アメちゃんにはオオタカの言葉が分かるらしいね。仲のいい鳥も何羽かいるとか?」


アメちゃんが後退るので私が一歩詰め寄る。


「オオタを私のところへ寄越したでしょ?

とぼけても無駄だからね。何でそんなことしたのか、ちゃんと説明して。」


更に詰め寄ると、観念したのかアメちゃんはガックリと項垂れた。


「だって、すみれがどうしているか気になるではないか。」


アメちゃんの主張はこうだ。


転移魔法によって私を送りだした後、いきなりおとずれた静寂にアメちゃんは、それはもうとんでもなく寂しくなってしまった。

ドーム全体を宿り石としているアメちゃんは、自由に出歩くことができない。基本的に誰かが尋ねてきてくれるのを待つだけだ。

仄かな光しか入ってこない洞窟の奥の間で、一人アメちゃんは待ち続けた。けれど私から近況を知らせる報告は全くこないし、養父様からも何も音沙汰がない。

寂しくて沈んでいたアメちゃんに手を差し伸べたのは、古い知り合いのオオタカのお母さんだったという。


この世界のオオタカはなかなか長命なようで、アメちゃんには宿り石になる前から仲良くしているオオタカがいたそうだ。メスのオオタカで何羽も子どもを生んでいる肝っ玉母さんみたいなオオタカは、アメちゃんのために子どもを一羽派遣してくれた。

それが、オオタだ。

オオタは当初、あの湖脇にある風穴から声を通してアメちゃんの話し相手を務めていたが、あまりにもアメちゃんが私の話ばかりするので、ついつい王都まで様子を見に行って報告することを約束した。

それが今回の一件の始まり、ってなんじゃそりゃ。

もしかして、遠まわしに連絡しなかった私が悪いって言ってる?

今回の一件について私に責任があると?

いやいやいや、違うでしょ!


いろんな思いが一気に噴出して、何だか目の前がくらくらした。

「とりあえず、まずオオタに謝って。」

やっとの思いで搾り出した声は、自分でもびっくりするくらい怒りで震えていた。


「アメちゃんのせいで、オオタはレイモンドお兄様の雷魔法を受けて失神したんだよ。アポも取らずにいきなり屋敷に押しかけさせて、相手に警戒されるのは当たり前でしょ! オオタに何かあったらどうするつもりだったの!」

感情が高ぶりすぎて、自分でも止められない。

「オオタの姿を見て怯えていた近所の人たちとか、オオタのために走り回って対処してくれたエッジストーン家の人たちとか。とんでもなくたくさんの人に迷惑かけたって分かってる?

私だってね、訳の分からない怪しい勢力に狙われてるんじゃないかっていろいろ考えて、本当に不安な思いをしてたんだよ。

それが何よ、あれこれ考えてた私が馬鹿みたいじゃないよ。

そもそも皆隠し事が多すぎるのよ。だから、あれこれ考えちゃうんでしょ。皆で寄ってたかって防護結界とか加護とか、一体何から私を守ってるの? 本人だけが知らないっておかしいでしょ。何と戦ってるの? 何なのよ。巻き込まないでよ。……もう嫌だ、こんな世界。」

最後の方は涙でぐしゃぐしゃになってしまって、はっきりとした言葉にはならなかった。

完全にヒステリー状態に陥ってその場に蹲った私を、アメちゃんの魔法の光がそっと包み込んだ。


暖かい紫の光が、じんわりと私に染み込んで高ぶった私の感情をほぐしていく。

「--ごめん、もう落ち着いた。大丈夫。」


涙でぐしゃぐしゃになった顔を掌でぬぐって立ち上がると、アメちゃんはゆっくりと私を抱きしめた。

「悪かったな、すみれ。私が軽率だったのだ。すみれを泣かしてしまうとは、悪い精霊だ。」

「寂しくさせて、ゴメン」

私たちはお互いを許しあった。


「アメちゃんはどうしてこんな人のこない洞窟の石に宿っているの?

誰かの護り石?」

「話せば長くなるぞ、すみれ。」

「いいよ、いくらでも聞くよ。私、全部知りたい。

その上で、自分のことは自分で決めたいの。」


アメちゃんは一つ小さなため息をつくと、ゆっくり口を開いた。


オオタ登場時にジャスミンが感じた波動は、オオタの道しるべとなるビーコンみたいな感じで。

湖からエッジストーン家まで、あの日道しるべとなるビーコンが点々と設置されていたという…

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